日本では年間約130万人の方が亡くなっています。つまり相続税の課税対象になろうが、なかろうが、130万通りの相続が発生しているのです。お金が絡むと、人はとんでもない行動にでるもの。トラブルに巻き込まれないためにも、実際のトラブル事例から対策を学ぶことが大切です。今回は、編集部に届いた事例のなかから、遺産の使い込みに関する相続問題をご紹介。円満相続税理士法人の橘慶太税理士に解説いただきました。

カセットテープに遺志を録音した母

A子さんの子どもは三姉妹。姉妹は年子だったこともあり、子どもの頃から仲は良くも喧嘩が絶えなかったそうです。喧嘩の原因は、とても些細なこと。

 

「それ、わたしのお人形よ!」

 

「お姉ちゃん、わたしのお菓子、食べたでしょ!」

 

「わたしの服、勝手に着ないでよ!」

 

常にそんな調子だったので、A子さんは姉妹に差が出ないように気をつけていました。

 

「もう大変だったんですよ。『そっちのお皿のほうがお菓子、多い!』とか『お姉ちゃん、たくさんお小遣いもらっていて、ずるーい』とか。もう少し、年が離れていたら楽だったのかもしれないですね」と笑うA子さん。

 

この気遣いは、姉妹が大人になってからも続きました。

 

「結婚祝いとか、出産祝いとか、差が出ないようにということはもちろん、すべてオープンにしました。あえてみんなのいるところで渡すんです。『はい、出産祝い、10万円』とか。これなら『お姉ちゃんのほうが多くもらっているんじゃないかしら』とか、疑心暗鬼にならなくていいでしょ」

 

そんなA子さんの細かな気遣いもあり、家族は小さな喧嘩はありつつも、仲良く過ごすことができました。

 

A子さんが70歳を迎えたころ。5年前に夫を亡くし、そろそろ自分も終活に取り組まないと、考えるようになったといいます。

 

「何もせずに死んだら、あの子たち、どうなることか……娘たちも、いい大人なんですけどね」とA子さん。娘たちが実家に集まったお正月、姉妹の前で切り出しました。

 

「大切なことだから、テープにも録音しておくわね」というと、テープレコーダーのスイッチを押したA子さん。

 

「わたしも70歳を超えたから、いつ何があるか、わからないじゃない。だから万が一のことがあったときのこと、話しておきたいの」

 

「いやだ、お母さん。そんなこといわないで」と三姉妹。A子さんは続けます。

 

「とにかく、わたしがいなくなっても、三人には争ってほしくないの。この家は売ってしまって。そのお金は3人で均等に分けなさい。あと預貯金ね。最終的にどれくらい残せるかわからないけど……でもお父さんの遺産もあるから、結構な額はあるわ。貯金通帳は、お父さんのところ(=仏壇)にあるから、覚えておいて。それも三人で均等に分けるのよ」

 

「わかった、わかった。そんなこといっていないで、長生きしてよ」と娘たち。テープレコーダーのスイッチを切ったA子さんは、ホッとひと息つきました。実際に娘たちが遺産分割の場に直面するのは、それから10年以上経ったころの話です。

 

母の思いはテープの中に
母の思いはテープの中に

 

 

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※本記事は、編集部に届いた相続に関する経験談をもとに構成しています。個人情報保護の観点で、家族構成や居住地などを変えています。

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