日本では年間約130万人の方が亡くなっています。つまり相続税の課税対象になろうが、なかろうが、130万通りの相続が発生しているのです。お金が絡むと、人はとんでもない行動にでるもの。トラブルに巻き込まれないためにも、実際のトラブル事例から対策を学ぶことが大切です。今回は、編集部に届いた事例のなかから、遺産の使い込みに関する相続問題をご紹介。円満相続税理士法人の橘慶太税理士に解説いただきました。

母が遺した預金通帳…不審な引き出しを発見

A子さんの葬儀がひと通り終わったあと、娘たちは実家でひと呼吸ついていました。

 

長女「お母さんのお葬式、良かったわね」

 

次女「お母さん自身が段取りしていたお葬式だったからね」

 

三女「そんなことまで用意しておくなんて、お母さんらしいよね」

 

母との思い出を振り返る三姉妹。そのとき、三女が「テープを聞こう」といいだしました。

 

次女「テープ!?」

 

三女「そう。いつだかのお正月、お母さん、万が一のことがあったらと、遺産分割の話をしたじゃない。確かお母さん、テープに録っていたわ」

 

長女「そうそう、そうだったわね。テープは確か……」

 

長女が母の残したと思われるテープを探しに母の寝室に向かいました。そして「あった!」と大きな声で次女と三女を呼びました。テープを再生すると、母の声が流れてきました。

 

三女「なんか、もう懐かしく感じちゃうわね、お母さんの声」

 

長女「そうね」

 

三女「そうそう、お仏壇に貯金通帳があるのよね。持ってくるわ」

 

三女はそういうと、貯金通帳を探しに仏間に向かいました。そして「あった!」と大きな声で長女と三女を呼びました。貯金通帳を開くと、残額は3,000万円ほど。そのとき、三女が「ちょっとおかしくない?」といいました。

 

長女「何がおかしいの?」

 

三女「ほら、ここを見て、500万円も引き出してあるの。2ヵ月前よ。このころ、お母さん、入院していたよね」

 

長女「そうよね。入院中に、そんな大金、必要かしら?」

 

三女「でしょ。おかしいよね」

 

次女「でも何に使ったなんて、お母さんしかわからないんだから。とりあえず、これを含めて三人で均等に分けましょ」

 

どこか引っかかる長女と三女でしたが、考えていても答えはできないので、とりあえず、今後の予定を含めて話し合い、三人は実家をあとにしようとしました。そのときです。近所の顔見知りが声をかけてきました。

 

知り合い「この度はご愁傷様です」

 

長女「あっ、おばさん。先日はお葬式に来ていただいて、ありがとうございました」

 

三女「おばさんときちんとお話するの、何年ぶりかしら」

 

知り合い「そうね。5年ぶりくらいかしら。C子ちゃん(=次女)とは、この前会って、結構おしゃべりさせてもらったけど」

 

長女「えっ、そうなの?」

 

知り合い「そうよね、2ヵ月くらい前だったかしら。お母さんの着替えを取りに来たのよね」

 

次女「そう、そうでしたね」

 

しばらく母との思い出話に花を咲かせたあと、長女が次女に迫りました。

 

長女「ねえ、さっき2ヵ月前にここに来たっていったわよね。何しに来たの?」

 

次女「それは……」

 

三女「わざわざ、一番遠くに住んでいるあなたに、お母さん、頼むわけないし。何しに来たのよ」

 

次女「それは……」

 

長女・三女「白状しなさい!」

 

結局、500万円の引き出しは、次女の仕業だということが判明。子どもの大学進学などが重なり、お金が必要だったとのこと。長女と三女から大目玉をくらったそうです。

 

 

次ページ解説:トラブル防止のために、適切な順番で相続対策を

※本記事は、編集部に届いた相続に関する経験談をもとに構成しています。個人情報保護の観点で、家族構成や居住地などを変えています。

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