入居率の悪い賃貸物件には共通点があります。失敗を招く基本原則ともいえるそれらを把握し、解消することで、賃貸経営を復活させることが可能です。※本記事は、幻冬舎MC『入居希望者殺到の人気物件に化ける 築古マンション超復活メソッド』より一部を抜粋・編集したものです。

新築物件でも築古物件でも、入居率が悪い原因は共通

筆者は賃貸管理の現場などでさまざまなオーナーとお会いし、さまざまな相談を受けます。なかでも最も多い相談が、入居率を高めたいということです。

 

賃貸住宅が建っている立地や地域はバラバラですし、戸数や規模もまちまちですが、入居率の悪い賃貸物件には共通する基本原則があります。それは、それらの賃貸住宅が持っている弱点を克服すること。物件の実情を認識し、改善することができれば、空室率ゼロも夢ではないのです。

 

「賃貸経営を成功させるコツは、失敗例に隠されている」

 

下記の5項目がそのときに学んだことであり、築古マンションをよみがえらせるコツは、それを解消してあげることだと知りました。その基本原則をご紹介しましょう。

「豪華な設備で集客アップ」→家賃が高騰し、逆効果

 基本原則①  その地域に見合った設備仕様に

 

賃貸住宅の経営を始めたばかりの若いオーナーから受けた相談は、「グレードを高くしたのに入居者が集まらない」というもの。意欲的なオーナーによくある例ですが、「とにかく差別化を図ろう」「どこにも負けないグレードの設備を導入して、インテリアもデザインや壁紙にこだわろう」と意気込むのです。

 

その考え方は必ずしも間違ってはいませんし、東京の都心の一等地でならニーズがあると思います。しかし、これが都心から離れたエリアでの賃貸経営だとすると、話は違ってきます。あまりにお金をかけすぎても、家賃が上がってしまって、入居率が下がるということも起こり得るのです。

 

極端なことをいえば、郊外の賃貸物件で、30m²の部屋をリフォームでどんなに豪華にしても、賃料20万円で貸せるかというと無理があります。

 

具体的な例として「ウォシュレット」を考えてみましょう。皆さんご存じの、温水洗浄便座のことですが、東京都心の新築物件でウォシュレットが付いていない賃貸住宅だと、誰も入居したいと思わないでしょう。もはや、当たり前の設備となりました。

 

一方で郊外ではどうでしょうか? エリアによってはオートロックやウォシュレットを付けることで、家賃相場を超えてしまうケースもあるかもしれません。

 

たとえばキッチンで考えてみましょう。定価100万円のキッチンと定価200万円のキッチンを設置して家賃は変わらないという場合、エリアによりますが、どちらのキッチンであろうと入居者はちゃんと決まります。周辺のエリア事情や家賃相場と、それに対して何にいくら出費するかを精密に考えるのです。200万円のキッチンと100万円のキッチンで入居付けの競争力が変わらないのであれば、どうしてあえて高いほうを設置する必要があるのでしょうか。

 

その地域のありようをよく調べて、過剰設備にならず、相場の範囲内の家賃で収まるように、設備や内装を充実させていくことが大切です。

 

 

気合を入れた豪華な設備より、地域の家賃相場に見合う「適度な設備」が正解
豪華な設備より、地域の家賃相場に見合う「適度な設備」が正解

汚いエントランスは「部屋を見るまでもなくNG」

 基本原則②  エントランスの美しさは入居率のバロメーター

 

「30年前にこの賃貸住宅を建てたときは、空室待ちが出るほど人気だったのに、ここ数年前から空室が出始めて、最近はなかなか埋まらなくなりました。どこが悪いんでしょう」。こんな相談をちょうだいして、一緒にオーナーの賃貸物件を見に行き、すぐに弱点に気がつきました。

 

そのオーナーは室内の設備機器の充実と、女性でも入居したくなるようなインテリアに力を入れておられたのですが、外周りにまで気配りができていなかったのです。筆者のアドバイスを一言だけいうとすれば、「エントランスをきれいにしましょう!」ということです。

 

筆者はエントランスの第一印象が、入室率のバロメーターの大きな要素の一つであると考えています。実際に内見希望の人を案内していると、美しく清掃されたエントランスが重要な役割を果たしているのを感じます。エントランスから階段、廊下を通っていくとき、壁や手すりを見たり触れたりする機会もあります。

 

掃除が行き届いていて、細かなメンテナンスや補修ができていると、部屋に入る前に“入居決定”と予感のようなものが働いたりします。

 

そして、意外に見落としがちなのが共用部分にあるゴミ箱です。“まさか、ゴミ箱までは見ないだろう”と考えていると痛い目に遭います。ゴミ箱も普段からきれいに掃除しておいてください。

 

ここで強調したいのは、マンション管理において清掃がいかに大切かということです。筆者の会社では管理する物件ごとに清掃人を置いており、3ヵ月に一度は清掃会議を開いて清掃人を指導するとともに、彼ら同士をディスカッションさせるようにしています。その際筆者が繰り返し清掃人に伝えるのが「マンション管理では、清掃の印象で管理会社の評価の5割は決まってしまう」「みなさんは我々の社員であり家族だ」ということです。

 

また、管理においては清掃人が要求する清掃用具等はすぐに用意して、彼らのモチベーションを落とさないようにしましょう。もし、内見者がゴミを捨てたときに、ゴキブリでもダーッと出てきたら、絶対にここには入居したくないと感じるでしょう。

 

エントランスや共用部分はお金をかけすぎても費用対効果は薄いですが、少しかけるだけで効果が生まれるのもエントランスなのです。

 

部屋はもちろん重要ですが、エントランスをきれいにしたことで、内見後の入居率が上がったというオーナーは実にたくさんいます。

「旧耐震基準」は検討の余地なし

 基本原則③  物件の強み・弱みは新築時で決まる

 

築古アパートや築古マンションを管理するようになって、さまざまな時代の建物をじっくりと調べてみると、その時代ごとに特色のあることが分かります。

 

昭和と平成の端境期に建てられた賃貸住宅の特徴は、風呂の追い炊き機能がある物件とない物件が混在していることです。さらには、この時代の賃貸住宅は、エントランスのオートロックが付いている物件とない物件が混ざっています。

 

時代を読めば、追い炊き機能やオートロックを付けることの付加価値は分かっていたのでしょうが、少しでも建築コストを抑えるために付けなかった賃貸住宅もあります。それが今日の入居率の良い物件、悪い物件に分かれてしまう理由の一つになるのですから皮肉なことです。

 

私たちがここで学ぶべきことは、目先の利益を追求するのではなく、将来も変わらない価値を有する賃貸住宅を建てることの意義でしょう。

 

もう一つ、時代の変化が賃貸住宅に大きな影響を及ぼす事例もあります。それが耐震基準です。皆さんは旧耐震基準と新耐震基準があることをご存じですか? 阪神・淡路大震災や熊本地震などでも話題になりましたが、そこで倒壊した建物の比率が高かったのが旧耐震基準の建造物でした。

 

旧耐震基準とは1950(昭和25)年に制定された耐震基準で、震度5強程度の揺れでも建物が倒壊せず、破損したとしても補修することで生活が可能な構造基準として設定されています。このあと、耐震基準は幾度も改正されていますが、大きな変化があったのは1981(昭和56)年。震度6強から7に達する大規模地震で倒壊・崩壊しないこと、震度5強程度の中規模地震ではほとんど損傷しないこと、を定めた耐震基準が発表され、新耐震基準と呼ばれています。

 

入居希望者のなかには、やはり築年数=耐震性能を気にする方もいます。築年数が経っていると、耐震性は大丈夫か、耐震補強は施されているかなどを聞かれますし、そうでない場合はリストから外されるケースが多くなります。旧耐震基準の建物は、耐震補強工事も必要になりますが、国や地域の補助金制度があるので、確認してみてください。

「家賃の値下げ」は最後の切り札

 基本原則④  賃料を下げることは特効薬だが毒薬にもなる

 

入居者が定着しない、空室率がどんどん高くなっている。だから、賃料を下げてみよう、という発想は短絡的すぎますし、安易に実行に移すべきではないと考えます。

 

「空室なのだから仕方がない」と自分を納得させたとしても、賃料を引き下げた結果について想像したことがありますか。そこで生じる問題は、収益の低下はもちろん、その後の賃貸物件の存続にも影響を及ぼしかねないのです。

 

まず第一に考えられるのが入居者の質の低下です。適正に設定された賃料は、部屋のグレードに対する対価という意味だけでなく、いい方は悪いですが、その賃貸住宅に住まう入居者のレベルをも示しています。賃料を下げることで、いままでのルールが壊されてしまい、マナーの悪い入居者が増えるというリスクもあります。

 

特に、管理会社にとって、オーナーから賃料のダウンを打診されるのは、敵前逃亡にも等しい屈辱です。万策尽きて値下げをするというのならまだしもです。

 

逆に空室率の改善策の提案もないまま、手っ取り早く家賃を下げる提案をしてくる管理会社にも要注意です。

 

質の悪い入居者が増えると、それまで住んでいた上質な入居者は退去のタイミングを計って出ていってしまう可能性もあるでしょう。

 

 

また、一度下げた家賃をまた引き上げるのは、非常に困難です。空室対策として賃料を下げるのは、まさにもろ刃の剣。家賃相場と照らし合わせ、問題のない範囲であれば、管理会社と相談して空室が出ている原因を多角的に調べ上げ、ほかの対策を模索してください。しっかりした管理会社であれば、オーナーと一緒に満室経営に向けてサポートしてくれるはずです。

 

しかしながら、しっかりした明確なプランニングのもと、家賃の値下げに踏み切らなければならないタイミングというのも必ずあります。ただ、短絡的に家賃の値下げをすることは、愚の骨頂であるということです。タイミングが来たときには、家賃の大胆な値下げを断行してください。

 

たとえば、ここで家賃を数千円下げれば、確実に入居者が決まる場合。そこで下げなければ、また数ヵ月空室になることが見えていれば、そこは下げるべきです。数ヵ月空いてしまっては、値上げの幅以上の損失が出るのですから。この辺は経営判断になります。

女性入居者を意識した空間づくりが鉄則

 基本原則⑤  入居者集めのポイントは女性目線を意識すること

 

夫婦やカップルでの内見の場合、その物件の入居を決めるのは、ほぼ99%女性であるといっていいでしょう。最近ではますます女性の意見が強くなってきています。そのため内装は女性を意識した空間づくりとするのが鉄則です。

 

ただなにも、費用をいっぱいかけてかわいらしくリフォームしてください、という意味ではありません。リフォームの際に、いくつかポイントを押さえるだけで、女性の印象に残る住まいとなります。少女趣味で可愛らしいデザインは入居者を限定してしまうので、おすすめできません。基本は水回りに、ちょっとしたノウハウを加えることが大切です。

 

●キッチン

一昔前の物件によく見られた、玄関を開けるとすぐにキッチンという間取り。これは、女性が最も嫌う間取りです。キッチンは手元が見えないようにしてあげるのが原則で、玄関からいきなり見られるというのは論外です。改善するには大掛かりなリフォームになりますが、もし築古物件の全面改修を考えている場合は、この間取りの変更は絶対に行ってください。

 

●浴室

老朽化した浴室の場合、ユニットバスに取り換えるケースがありますが、このときにユニットバスの内装のパネル(壁)に工夫をします。

 

通常のリフォーム会社は、ちょっといいユニットバスを「これだけ安くします」とそのまますすめてきますが、そんな高価なユニットバスは必要ありません。ごく一般的なモノでいいので、なかのパネル(壁)の1枚を、柄物やカラフルなものに取り換えるのです。これはユニットバスメーカーのオプション対応になりますが、せいぜい1万円程度です。これだけで、女性から見たときの印象はグッとアップします。

 

また、シャンプーや洗顔料を入れる3段の棚などもオプションで付けられるので、設置しましょう。こうしたちょっとした提案が、間違いなく女性には刺さります。施工費用にしてせいぜい数万円のアップですが、早く空室が埋まるのであれば、まったく問題ない出費といえるでしょう

 

●トイレ

トイレ内の壁に、ちょっと派手な色のアクセントクロスを張りましょう。「壁一面にアクセントクロスなどを張らないほうがいい」については後述しますが、トイレは別です。トイレくらいの限られた空間であれば、のちのち張り替えたとしてもたいした費用はかかりません。それよりも凝縮した空間が特別扱いされている印象が、女性に深く残ることを優先したいと思います。

 

いずれも、長い経験のなかで実績のある提案です。リフォームの際にぜひ検討してみてください。

 

玄関からキッチンが丸見えに
女性が嫌がる「玄関から丸見え」なキッチン

 

リノベーション後の玄関
玄関をリノベーションし、「丸見えキッチン」を解消

 

シャワー・ド・バス付きの浴室
シャワーだけで体を芯から温める「シャワー・ド・バス」付きの浴室

 

[図表]壁紙とクッションフロアを印象的なデザインに変更
壁紙とクッションフロアを印象的なデザインに変更

良好な賃貸経営を維持するコツは「シンプル」に集約

女性目線での賃貸住宅づくりが重要という話をしましたが、それに関連して、ここでは内装などのインテリアを考えるポイントをご紹介したいと思います。

 

“シンプル・イズ・ベスト”。これは、結構ベタな表現で「当たり前じゃん!」なんて思われるかもしれません。筆者は社員にもよく「考えがまとまらないときは、シンプルに考えよう」といいます。リフォームにも同じことが当てはまります。人には好みがあり、部屋のデザインを何に合わせるべきかは、正解はありません。そんなときもやはりシンプルに考え、シンプルな空間にする。実は経験上、これが最も合理的だと感じています。

 

日本の住宅では北米スタイルや南欧風、モダンなど、時代によってさまざまなデザインが人気を博してきました。でも、周りを見回して、その当時に流行したスタイルの建築を目にするとちょっと違和感を覚えたりしませんか?

 

賃貸住宅でも同じことで、時代とともに流行(はや)り・廃(すた)りのデザインが激しく変遷しています。バブル期にもてはやされた言葉を使えば、まさに時代ごとに“トレンド”が変わっているのです。特に流行の移り変わりを印象づけるのが、壁紙やフローリングなどの基本的なカラーです。

 

奇抜なカラーやテキスタイルが入った建材で室内を仕上げてしまうのも楽しいのですが、賃貸住宅を管理している私たちとしてはオーナーのために、反対せざるを得ません。理由として第一に、流行が去った瞬間に入居率の低迷を招く可能性があること。そして第二に、メンテナンス時に多くの費用が発生してしまうからです。

 

たとえば、リビングの壁の一面に、模様が入った印象的なアクセントクロスが張られていたとします。何年か経過後にその一部を修繕しようとメーカーに問い合わせても、流行が去ったあとでは、同じ型番が製造中止になっている可能性が高いです。

 

また、仮にメーカーに取り置きがあったとしても特殊なクロスの場合、微妙な色の違いや模様の違いにより、一部だけを張り替えるなどは困難で、結局全面を張り替えることになり費用がかさむのです。フローリングでも同じことがいえます。当初は一部の修復で済むはずの現状復帰が、気がついたら全面リフォームに…なんていうことになりかねません。

 

そこで、賃貸住宅では「シンプル・イズ・ベスト」の発想が大切なのです。当社では内装をベーシックにするというのを鉄則にしています。たとえば、室内のカラーリングは床・天井・壁・建具のすべてを白にするオールホワイトか、建具と床だけを黒にするモノトーンが基調です。もちろん、これだけではつまらないので、微妙な変化は入れますが、基本は同じです。

 

使う建材もメーカーに電話確認をして、仕様に長年変更がないもの、今後も変更の予定がないかどうかを調べたうえで提案します。こうすることで、最小限のコストできれいな内装を維持していけるのです。

 

 

小山 友宏

株式会社アークマネージメント 代表取締役

 

入居希望者殺到の人気物件に化ける 築古マンション超復活メソッド

入居希望者殺到の人気物件に化ける 築古マンション超復活メソッド

小山友宏

幻冬舎メディアコンサルティング

「築古だから空室が出る」「しかしどうすればいいのかわからない」 多くの物件オーナーがそう思っているはず……。 そんな悩みに救いの手を差し伸べるのがこの一冊。 利用者層のマーケティングから付加価値の設定、管理会社…

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