
どこの街に住むかの選択は、仕事やプライベートに大きな影響を与える。さらに家賃が家計支出の大きなウェイトを占めることを考えると、居住地は資産形成までも左右するといえる。総合的に考えて住みやすい街はどこなのだろうか? 20代後半から30代前半の単身会社員の住み心地を考えていこう。今回取り上げるのは、京急線「上大岡」駅。
副都心として再整備…コンパクトに何でも揃う街
「上大岡」駅は神奈川県横浜市港南区にある、京浜急行電鉄と横浜市営地下鉄ブルーラインの接続駅です。1日の平均乗降人数は、京浜急行駅で14.5万人ほど、地下鉄駅で7.5万人ほどです。

この地域はかつて「大賀郷」と呼ばれていましたが、それが転訛して大岡と呼ばれるようになったといわれています。「上大岡があるなら下大岡はないの?」と考えた方もいると思いますが、実はかつて「下大岡」という地名もありました。江戸時代の郷帳(幕府が作成していた帳簿)には、付近を流れる大岡川上流の村は「上大岡村」、下流の村は「下大岡村」と記されていたそうです。
明治時代に2つの村は周辺の村々と合併し「大岡川村」へと名称を変え、下大岡村エリアは「大岡川村大字下大岡」と名付けられました。しかし1911年、下大岡村だったエリアが大岡川村から分離して横浜市に編入されると、一帯は「大岡町」と呼ばれるようになり、「下大岡」は地図上から消えることなりました。
上大岡駅の周辺は、1981年発表の「よこはま21世紀プラン」で副都心に指定され、再開発が行われたことで、大きく変化をしてきました(ちなみに2006年に発表された「横浜市中期計画」からは副都心という位置付けが消え、現在に至っています)。現在では港南区が作成したマスタープランに基づき、駅周辺はバリアフリー化などが進められています。
京急線「上大岡」駅の1日の平均乗降客数は「横浜」「品川」に続く第3位(「泉岳寺」は都営地下鉄浅草線の旅客も含まれているため順位には入っていないそうです)。副都心に指定されていただけあり、様々な商業施設が林立し、駅ビルには横浜市でも最大規模のバスターミナルが存在、多方面へのアクセスが可能です。
「上大岡」の市街地は、京急線と並行して走る鎌倉街道南北500m沿いに集中しています。にぎわいの中心は駅西口。鎌倉街道を渡ったところに建つ「カミオ」は地上30階のタワーマンション「横浜ヘリオスタワー」を有する複合商業施設。その横にはアーケードが目印の「上大岡中央商店街」、通称「パサージュ上大岡」。飲食チェーン店が中心の小さめな商店街です。
さらに以前三越のあった一画は、再開発によりタワーマンション「上大岡タワー ザ レジデンス」を有する複業商業施設「ミオカ」として2010年に誕生。テナントとして「ヤマダ電機」や「TOHOシネマズ」などが入る、上大岡の人気スポットになっています。
駅東口は、駅直結の「京急百貨店」「ウィング上大岡」を抜けると、すぐに住宅街が広がります。駅西口に比べるとかなり静かな印象です。急な坂が眼前に広がるという条件のため、あまり繁華街が広がる余地がなかったのでしょう。
「利便性は高く家賃も安い」住環境は抜群なものの…
そんな「上大岡」駅周辺の家賃水準をみていきましょう。まずは駅周辺の家賃相場です。駅から徒歩10分圏内の1Kの平均家賃は5.11万円、11分を超えると、4.43万円となります(図表1)。横浜市港南区の平均家賃は駅10分圏内でで6.27万円、11分を超えると5.45万円で、「上大岡」周辺は区平均より家賃水準の低いエリアです。
厚生労働省が発表している「賃金構造基本統計調査」によると、都内勤務の男性会社員の平均月給は、25~29歳で27.5万円、30~34歳で34.1万円、神奈川県勤務で25~29歳で26.1万円、30~34歳で30.5万円となっています(図表2)。企業規模によって平均給与は異なりますが、そこから住民税や所得税などを差し引いた手取り額の1/3以内を適正家賃と考えると、都内勤務20代後半は6.9万円、神奈川県勤務は6.7万円、都内勤務30代前半は8.5万円、神奈川県勤務は7.6万円となります。

※10名以上の企業対象
※数値は所定内給与額
※単位は万円
家賃水準だけでみてみると、「上大岡」周辺の家賃水準は会社員にとって魅力的です。大手ポータルサイトで検索すると、適正家賃内で多数の単身者用物件が見つかります。新築含む築浅の物件と、築30年を超える築古の物件の割合は、おおよそ半々。築浅の物件は専有面積は狭くなりますが、築古の物件であれば、30㎡を超えていたり、部屋数が2つ以上あったりと、居住スペースにかなりの余裕をもつことができます。物件の選択肢の幅はかなり広いエリアだといえるでしょう。
次に交通の利便性をみてみましょう。「上大岡」から「横浜」へは、快特利用で10分、「品川」41分。「横浜」でJR線に乗り換えれば「品川」35分、「東京」46分です(所要時間は、平日8時に「上大岡」駅を出発した場合の目安)。巨大ターミナルの「横浜」へのアクセスは抜群で、そこから多方面へのアクセスが可能なのは魅力です。
生活の利便性をみていきましょう。前述のとおり、駅周辺には商業施設が多数林立。「FUJI」や「オーケー」「イトーヨーカドー食品館」など、使い勝手の良い規模感のスーパーも多数点在するほか、大手ドラッグストアチェーンも揃っています。京急百貨店には「ヨドバシカメラ」「ヤマダ電機」が出店しています。日常品はもちろん、家電も駅周辺で揃えることができます。
またファストフードやファミリーレストラン、牛丼店や定食店など、お馴染みの飲食チェーン店はひととおり揃っているので、外食派も安心。さらに京急百貨店をはじめ、テイクアウトできるお店も豊富で、単身者には嬉しい限りです。
「上大岡」周辺はコンパクトに何でも揃い、不便さを感じることのない街です。治安もよく、女性にも一人暮らしをすすめられる安心感があります。ひとつ不便なところをあげれば、駅東口のエリアは特に坂が多く、結構な労力を強いられる点でしょうか。地図でみるより駅から時間を要する場合があるので、物件選びの際には注意が必要です。