高齢者をいかに受け入れるかは「大きな課題」
以前掲載した記事『勝ち組収益物件オーナーが「高齢入居者」を歓迎するワケ』『アパマン経営「外国人入居者受け入れ」を収益に直結させる方法』では、それぞれマーケティングの観点から賃貸住宅の将来性について検証しました。高齢者と外国人に高いニーズが見込めることをご理解いただけたと思います。その内容を受けて、ここでは、ターゲットを絞って差別化を図り、居住者を継続させる=空室をつくらないテクニックについて解説します。
まずは「高齢者向け住宅」について、さらに深掘りします。賃貸住宅オーナーにとって、高齢者をいかに受け入れるかは大きな課題です。収入や持病、万一のときの連絡先など、心配事が次々に思い浮かぶからです。
そうしたリスクを減らすための方策には、次の3つがあります。順を追って説明しましょう。
①少額短期保険
②家賃債務保証
③高齢者見守りサービス
高齢者を意識した遺品整理費用も含む「少額短期保険」
「少額短期保険」は取り扱う保険金額が「少額」で、保険期間が「短期」(通常1年、損保分野は2年以内)の保険契約の引き受けに限定して行う保険です。賃貸住宅の入居者も利用可能で、加入した場合の費用保障で特徴的なのが、通常の保険にある家財補償の内容に加え、高齢者を意識した「残存物取片付け費用」と「遺品整理費用」が含まれていることです。
「残存物取片付け費用」は、支払い対象となる事故が発生し、その事故の片付け費用について支払われる保険です。金額は家財補償に対する支払保険金の10%が上限です。
「遺品整理費用」は、被保険者の死亡によって賃貸借契約が終了する場合、遺品整理に要した費用について支払われる保険で、金額は上限50万円に設定されています。
信頼のおける管理会社には保険について熟知しているスタッフも多いので、相談することをお勧めします。
賃貸住宅居住者の家賃滞納に備える「家賃債務保証」
次に家賃債務保証です。これは、賃貸住宅の居住者が家賃を滞納したときに備える保証業務のこと。2017年10月に施行された「新たな住宅セーフティネット制度」に伴い、国によって「家賃債務保証業者登録制度」が創設されており、登録を受けた家賃債務保証業者が家賃の滞納分を居住者に代わって支払います。いわば、連帯保証人の代理ともいえる業務です。これは一時立て替えなので、家賃債務保証業者は後日、入居者、あるいは入居者の死亡時の相続人に立て替え分の支払いを求めることになります。
家賃債務保証業者にとってはリスクの高い制度にも見えますが、家賃債務保証業者が住宅確保要配慮者(高齢者や外国人なども対象者に含まれる)に対して保証する場合は、住宅金融支援機構による家賃債務保証保険の対象になります。このように登録業者だけが損をしない配慮を盛り込んでいるのが「住宅セーフティネット法」の特徴であり、賃貸住宅オーナーにとっても利用するメリットは大きいといえます。
ちなみに、ここで説明した家賃債務保証は、いわゆる「家賃保証(サブリース)」とは異なるものなので、混同しないように注意しましょう。サブリースについては、別の機会で解説します。
室内アクシデントの早期発見に活用「見守りサービス」
最後に、見守りサービスについて説明します。見守りとは、高齢の単身居住者が室内で倒れるようなアクシデントを防ぐ、あるいは早期発見するといったサービスを提供することです。このサービスの実施者には、次のようなタイプがあります。
●公共組織
●民間のセキュリティ会社
●配達事業者
公共組織は、民生委員・社会福祉協議会・NPO法人・ボランティアなどを指します。高齢の単独居住者に対して訪問、あるいは電話連絡などを行って健康状態などを確認するほか、相談に応じたり話し相手を務めたりします。原則的としてボランティアで行っているため、料金は無料です。
しかし、公共組織は、どの賃貸住宅に高齢の単独居住者がいるのか把握するのが困難です。このため、賃貸住宅オーナーと公共組織が密に連絡を取り合い、居住者の確認を得たうえでサービスを提供する必要があります。また、高齢者の中には個人の生活にむやみに立ち入ってほしくないとサービスの提供を拒否する人もいるので、慎重な対応が求められます。
民間のセキュリティ会社としてはセコムなどが有名です。体調不良やケガ、火災やガス漏れの発生、安否が確認できなくなったなど、高齢の単身居住者にはさまざまな不安要素があります。こうした不測の事態が起こったとき、同社の見守りサービスに加入していると、問題が発生したときに、セキュリティ会社の経験豊富なスタッフが現場に駆けつけて迅速に対処してくれます。
一人暮らしの高齢者はもちろん、オーナーにとっても安心できる便利なサービスです。意識の高いオーナーや管理会社は、このサービスの有効性をいち早くキャッチして、賃貸物件の運営に取り入れています。
配達事業者は、新聞・牛乳・乳製品・生活協同組合・郵便などを配達する業者を指します。これらの業者が自治体と協定を結び、高齢居住者の異変に気づいた場合は市区町村の担当者に連絡します。配達のついでに、居住者に異変がないかどうかをチェックするサービスなので、従来の配達料金だけで済むのがメリットです。
しかし、居住者に声掛けするのはごくまれなので、異変があっても気づきにくいのがデメリットです。
日本は超高齢化社会に突入しています。高齢居住者ニーズの高まりに伴い、見守りサービスはさらに発展すると予測されます。今のうちに情報をしっかり入手しておくのはとても大事なことです。公共組織の見守りサービスは基本的に無料ですが、サービスを実施する組織と密に連絡を取り合う「手間」を必要とします。
一方で、民間セキュリティ会社が実施する見守りサービスはそれなりの料金を必要とするため、そうしたサービス加入を居住条件に設定すると高齢者に敬遠される可能性もあります。賃貸住宅オーナーには、こうしたメリット・デメリットを見比べながら、超高齢化社会に対応することが求められているのです。
国が普及を急ぐ「サ高住」なら、税制優遇あり
最近、特に注目を集めている高齢者向け住宅ですが、降って湧いたように突然できたわけではありません。高齢化社会の進展に伴って、段階を追って整備されてきた住宅形態です。
高齢者を受け入れる住宅を増やすことを目的として、これまでも「高齢者円滑入居賃貸住宅(高円賃)」「高齢者専用賃貸住宅(高専賃)」「適合高齢者専用賃貸住宅」「高齢者向け優良賃貸住宅(高優賃)」といった施設が造られてきました。ですが、各施設の違いが不明瞭で、しかも要介護状態になった場合は退去を求められるといった問題があったため、これらを統一する法律の整備が急がれていました。
そうして生まれたのが「サービス付き高齢者向け住宅」(サ高住)です。公的施設である「特別養護老人ホーム」をはじめとする介護施設の不足を補う住宅として、大いに期待されているのです。このサ高住は「一般型」と「介護型」の2種類に分かれます。
【一般型】
入居対象者は、支障なく日常生活が送れる60歳以上の高齢者です。専用部分の床面積は原則として25平方メートル以上で、バリアフリーを実現した居住空間には台所、水洗便所、収納設備、洗面設備、浴室を備えています。原則として介護サービスは提供しない。日中はケアの専門家が常駐してサービスを提供します。入居契約は通常の賃貸借方式で、入居一時金はありませんが、敷金・礼金を求められるのが一般的です。月ごとに支払う費用は家賃と管理費で、金額の目安は10万~30万円になります。
【介護型】
施設の入居対象者は、毎日の生活に不安を覚える、あるいは軽介護度の高齢者です。施設やサービス内容は一般型と同様で、介護が必要になった場合は訪問介護などの外部サービスを利用します。入居契約は一般型と異なり、利用権契約を結びます。このため、入居一時金として数百万~数千万円が必要なケースがあります。月ごとに支払う費用は家賃と管理費、そして食費で、金額の目安は20万~40万円です。
一般型のほうが通常の家賃契約になるので、これまでの賃貸住宅経営のノウハウをそのまま活かすことができそうです。国は、このサ高住の供給を促進する目的で、補助・税制・融資による支援を実施しています。きちんと手順を踏めば、国による手厚い支援を受けながらサ高住への転換を実現できます。
建設・改修工事完了後の審査に合格すると、金額の確定・支払いが行われます。金額は「施工費の10%」、または「住居部分:上限1戸あたり100万円+高齢者生活支援施設部分:上限1000万円」の低いほうになります。工事完了から10年間は運営状況などを報告する義務があり、その中で問題が発覚すると返還要求が出されるケースも想定されています。
税制は、固定資産税、不動産取得税、所属税が優遇されます。
空室率の高い賃貸住宅で悩んでいるオーナーには、一つの選択肢になりそうです。これからの人口動静を考えれば、サ高住は将来性のある施設といえます。ですが、前述したようにサ高住には2タイプが設定されており、設備の設定にも細かい基準が設けられています。こうしたさまざまな事情に精通した管理会社にアドバイスを求めながら、最適のプランを練り上げることが大切になるでしょう。
小山 友宏
株式会社アークマネージメント 代表取締役