入居者の主体は「壮年・高齢層」「外国人」へシフト
賃貸住居の供給戸数はバブル期(1987~90年)にピークを迎え、供給される戸数は4年連続で150万戸を超えており、高度経済成長期の後半よりも多くなりました。それはまるで、賃貸用の住居があれば入居者が労せずとも集まってくる“賃貸バブル”ともいうべき状態でした。
しかしながら現在では、賃貸住宅の収益を下支えするニーズが横ばいを続けており、これから長期にわたって人口の減少が続くことを考慮すれば、見通しは明るいとは言い難い状況です。賃貸住居の経営によって収益を確保するのがとても難しい時代になったといえるでしょう。
しかし、賃貸住宅事業は30年以上先まで見据えながら進めていくものです。長期的な視野でマーケティングを考えれば、その先に明るい光が見えてきます。難しいからといって、光がないわけではないのです。その光に向かって歩むか止まるかで、勝ち組、負け組に分かれることになります。
まず、賃貸住居に住む層の移り変わりについて考えてみましょう。総務省の「住宅・土地統計調査」によると、賃貸住宅を利用した世帯の数は1,946万世帯。その内訳はこのようになります。
●ファミリー世帯882万世帯(45%)
●単身(若年層)472万世帯(24%)
●単身(壮年層)452万世帯(23%)
●単身(高齢層)140万世帯(7%)
一方で、日本では少子高齢化が進行しており、人口構成や世帯構成が大きく変化しています。65歳以上の高齢者人口は3,461万人。総人口に占める割合は27.3%で、日本国民の4人に1人が高齢者となっているのです。
この事実にも驚かされますが、これからは少子化の影響を受けて総人口が年を追うごとに減少します。その一方で高齢化率は上がるため、2060年の高齢化率は実に約40%まで上昇すると予想されています。日本国民の2.5人に1人が高齢者になる計算です。
これに伴い、今後は賃貸住宅に居住するファミリー世帯比率が低下し、単身高齢世帯の比率が拡大すると想定されます。ある大手銀行の調査では、ファミリー層が占める割合は30%近くまで減少し、それに代わって単身層の割合が上昇すると予測しています。そして、単身層の中でも特に増加すると予測されているのが壮年・高齢層です。
晩婚化というか、結婚しない人がどんどん増えていることもあり、賃貸住宅の入居者の主体は、これまでの若年層から壮年・高齢層にシフトしていくことになるでしょう。
そして、もう一つ気になるのが、日本で暮らす外国人が増加していることです。日本人の人口が減少するなかで、外国人人口は増加しています。2015年10月~16年9月の1年間で日本人の人口は30万人減少しましたが、日本で暮らす外国人人口は14万人も増加しました。
人口の増加に伴い、世帯数も増えています。外国人のみの世帯および複数国籍世帯(日本人と外国人の複数国籍世帯)は、2015年10月~16年9月の1年間で10万世帯も増加しました。
多くの外国人が居住する東京都に絞って考えてみましょう。日本国内に居住する外国人の約2割は東京都に住んでいるからです。2015~16年の1年間で東京都の人口は11万5,000人増加しましたが、その約33%を外国人が占めました。先に挙げた複数国籍世帯も2万9,000世帯増加しており、全体の3割を占める結果になりました。新宿区は全国で最も外国人人口の多い市区町村ですが、世帯増加数の60%を外国人のみの世帯および複数国籍世帯が占めています。そして、豊島区ではこの比率がさらに上昇して64%にまで達しています。
こうした統計的なデータがあるにもかかわらず、国土交通省の調査によると、高齢者や外国人が賃貸住居への入居を断られるケースが後を絶たないそうです。また不動産の関連団体が行った調査では、全回答者のおよそ1割が「単身の高齢者は不可」といった条件をあえて設定していたそうです。
まったく遅れているナンセンスな対応と言わざるを得ません。要は、高齢者や外国人を賃貸市場にも受け入れていくのは当然の流れなのです。大切なお客様として迎え入れていかなくてはならないのです。今後の賃貸住宅経営や、現在空室が目立つ築古マンションなどは、この変化への対応も念頭においたほうがいいでしょう。
賃貸住宅は、空室として老朽化するリスクがあります。入居者層のニーズ変動に合わせて転換していかなければ、生き残ることはできません。このことは、実は20年前から見えていたことで、当時から私はよく、高齢者や外国人受け入れの必要性について説いてきました。
もう10年は遅いかもしれませんが、当然、国もこのような対策をこれから進めざるをえない状況になるでしょう。高齢者や外国人を生産人口として受け入れざるを得なくなるということです。
「高齢者向け住宅」にリフォームして安定収益を実現
最初の準備として、高齢者と外国人を受け入れるメリット・デメリットについて確認しておきましょう。高齢者を受け入れるデメリットには、以下のようなものがあります。
●収入が少ないケースが多いため、月々の家賃を支払えなくなる可能性がある
●室内で亡くなると、ご遺体や遺留品の処理で時間がかかり、さらに事故物件のような扱いにもなり、次の入居者募集に支障が生じる
●病気で体を動かせなくなったり、ゴミをため込んだりするようなケースがある
●身寄りが少ないため、連帯保証人を見つけにくい
ここで明確にしたいのは、右のような事態が生じた場合、対応するのは賃貸住宅オーナーだということです。管理会社がいればもちろん管理会社がすべて対応しますが、いない場合はオーナーが対応するしかないのです。入居希望者と面談し、管理する賃貸住宅の居住者としてふさわしいかどうかを判断し、オーナーの不利益になるような事態が生じたときにはすみやかに退去手続きを行います。これらはすべて管理会社の役割です。
オーナーは、不測の事態が起こらないように細やかに配慮してくれる管理会社を探さないといけません。
一方で、高齢者を受け入れるメリットはそのものずばり、安定した収入を得られることです。需要と供給が完全に一致します。極端な話をすれば、入居者の全員が高齢者でもよいのです。
そうなると、高齢者向け住宅にリフォームするプランも視野に入ってきます。要介護の高齢者に対して介護サービスを提供する施設・住宅には、公的な施設である「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)」や有料老人ホームに代表される「高齢者向け住宅」などがあります。こうした施設は全国各地に造られていますが、「特別養護老人ホーム」への入居待ち問題が深刻化したことから、「高齢者の居住の安定確保に関する法律」が2011年に施行されました。これを受けて登場したのが「サービス付き高齢者向け住宅」です。
サービス付き高齢者向け住宅は、民間事業者などによって運営される介護施設で、「サ高住」「サ付き」などと略されることもあります。
有料老人ホームが入浴・排泄・清掃など生活全般の介助、食事の提供、健康管理などの介護サービスを行うのに対し、サービス付き高齢者向け住宅の「サービス」には安否確認と生活相談しか義務付けられていません。介護サービスを提供しない代わりとして、自由度の高い生活を送れるメリットがあります。あまり生活を管理されたくない居住者にとっては、住みやすい環境といえるでしょう。
サービス付き高齢者向け住宅は法施行以降、登録件数が増加しています。登録物件には、ファミリー世帯向けの賃貸物件を、サービス付き高齢者向け賃貸住宅へリフォームするといったケースも含まれています。今後の情勢を見据えた、一つの選択といえるでしょう。
高齢者を拒まない賃貸住宅づくりを国がバックアップ
高齢者は受け入れたいが、サービス付き高齢者向け住宅の建築や運営まで手が回らないという人もいるでしょう。そうした賃貸住宅オーナーに向けて、国土交通省は「新たな住宅セーフティネット制度の枠組み」づくりに取り組んできました。
そして、2017年4月に公布された住宅セーフティネット法の改正法が同年に施行されました。
その中で特筆すべきは、補助金制度や税制の優遇制度、家賃滞納などのリスクを軽減する制度が導入されたことです。
これらの制度は、高齢単身者が10年で100万人増加するという予測に基づいて策定されました。こうした動きは、これからさらに加速すると予想されています。
小山 友宏
株式会社アークマネージメント 代表取締役