スカイツリーの誕生でメジャーな街に
「押上」があるのは、東京都墨田区。地名の由来は諸説あり、常に潮が押寄せ、押し上げられて陸地化したことが起源ともいわれています。
元々この一帯は、葦の生い茂る湿地帯に農地が散在する、江戸の郊外。1657年の明暦の大火のあと、干拓により隅田川以東の市街化が進み、明治時代には、この地域で瓦の生産が盛んになったため、小梅瓦町と呼ばれるようになりました。
1902年には東武伊勢崎線が延伸され「吾妻橋(現とうきょうスカイツリー)」駅が開業。1912年には京成電鉄のターミナル駅として「押上」駅が開業し、1960年には都営浅草線との相互運転開始により浅草や都心方面へ乗り入れる接続駅になりました。さらに2003年に、東武伊勢崎線と営団地下鉄(現東京メトロ)半蔵門線の相互運転開始により、4線が乗り入れする駅に。4社局を合算した1日平均乗降人員は約70万人。墨田区内の駅では最多となっています。
「押上」駅北側エリアは昭和の雰囲気残る住宅街で、東側エリアには100店舗ほどで構成する押上通り商店街が広がります。駅の西側の業平橋駅貨物ヤード跡地などがあったエリアは再開発が行われ、現在東京スカイツリーを中心とする東京スカイツリータウンが誕生。また2013年まで京成電鉄の本社があった場所には、ホテルやスーパーなどが入る「京成押上ビル」が建てられました。
「押上」周辺は、スカイツリーの誕生で、飲食店や買い物スポット、レジャー施設が充実したエリアになりました。また東京メトロ半蔵門線や都営地下鉄浅草線、東武伊勢崎線、京成押上線の4路線が使え、都心までは15分ほど。東京のなかでもマイナーな印象のあったエリアでしたが、生活・交通、双方の利便性を兼ね備えた街として、近年、注目されています。
旺盛な単身者ニーズ…20年後はどうなる?
「押上」を不動産投資の観点でみていきましょう。 まず直近の国勢調査をみてみると(図表1)、「押上」のある墨田区の人口は25万人強で、人口増加率は東京都23区平均とほぼ同水準の3.5%。安定した人口増加をみせている地域です。人口構造(図表2)は、各世代、23区平均とほぼ同じである一方、単身者世帯比率(図表3)は、23区平均を1.5ポイントほど下回っています。単身者層に好まれる一方で、家族層にも好まれる住環境であることが起因すると考えられます。
次に住宅事情をみてみましょう。賃貸住宅の空き家率をみると(図表4)、23区平均を下回る空き家率で、5年間で0.5ポイントほど改善。旺盛な賃貸需要が見込まれる地域といえるでしょう。賃貸物件の建築年の分布をみてみると(図表5)、一番のボリュームゾーンはバブル期の1980年〜1990年代で、区内にある賃貸物件の5分の1を占めます。また2011年以降、多くの新規物件が供給されたことがうかがえます。東京スカイツリータウンが開業したのが、2012年。ここを境に、押上エリアへの注目が一気に加速。物件供給数も増加したと推測されます。
続いて「押上」駅周辺の人口の状況をみていきましょう(図表6)。「押上」駅周辺では1世帯当たり平均1.96人と、区平均と同程度。賃貸相場をみてみると(図表7)、駅から10分以内の1Kの平均家賃は6.56万円、さらに11分以上になると8.2万円と上昇しています。駅から離れるにしたがって、平米数の大きな物件が多くなり、家賃水準をあげていると推測されます。これは直近のマンションの取引からみても、同じようなことが考えられます。
駅周辺の不動産マーケットの状況をみてみると(図表8)、平均取引価格は2,951万円、平均平米数は34.3㎡。取引されているマンションの種別をみてみると(図表9)、単身者向けの1DK以下の物件が6割、1LDKも含めると、実に75%にも及びます。「押上」駅周辺は、生活利便性と都心へのアクセスの良さにより、旺盛な単身者ニーズに支えられているといえるでしょう。
今後の「押上」についてみていきましょう。国立社会保障・人口問題研究所によると(図表10)、東京でも人口減少がはじまるといわれているなか、墨田区では2040年まで人口は増え続け、27万人に達するといわれています。2015年を100とすると、2040年は105.6という水準で、安定した人口増加が今後も期待できます。また黄色~橙で10%以上、緑~黄緑0~10%の人口増加率を表し、青系色で人口減少を示すメッシュ分析で「押上」駅周辺をみてみると(図表11)、駅東側のエリアである押上1~3丁目は人口減少を示していますが、おおむね、人口増加を示しています。駅周辺においても人口増加が見込まれ、将来的にも不動産投資に適したエリアだといえるでしょう。
スカイツリーの誕生でメジャーな街になった「押上」は、高い生活利便性、交通利便性によって、旺盛な単身者ニーズが見込める街です。今後も安定した人口増加が見込まれ、投資家にとっても有力な選択肢になるエリアだといえるでしょう。