IT企業の時価総額は当地不動産に少なからず影響
前回は、イノベーション産業に流れ込む資本市場のお金の行く先がサンフランシスコ・ベイエリアに集中していること、また、IT公開企業の時価総額の推移とサンフランシスコ・ベイエリアの住宅価格推移に高い相関関係があることを説明しました。
さて今回は、巨大IT公開会社の企業価値(=時価総額+純有利子負債[ネットデット])とそれらの営業キャッシュフロー(デットサービス・償却前営業利益EBITDA)との倍率比較から、巨大IT公開会社に対して株式市場がどの程度楽観的になっているかを読み解くことにします。
調査対象は、サンフランシスコ・ベイエリアに本社をおく、時価総額10兆円超の成長企業4社と成熟企業3社に分類してみました。
これらの時価総額10兆円超の企業7社合計で、サンフランシスコ・ベイエリアに所在する時価総額1兆円超のIT公開企業群の時価総額合計の75%を占めています。数値から読み取れることは以下の通りです。
①成長企業4社のなかで、グーグル、フェイスブックはEBITDA倍率が20-30倍で、将来成長に対する期待が大きいという評価があります。とはいえ、2000年頃起こったインターネットバブル時は、EBITDA倍率が100倍を超えていたことを考えると、楽観的とは言えてもバブルとは言えないでしょう。言い換えれば、下げの局面では調整はあってもバブル崩壊ということにはなりません。
②成長企業4社を平均しても約10倍プラス。特に2013-2014年に30%増しの約13倍となりましたが、2015年より調整に入りました。過去15年程度、ITサービス、ソフトウエア等、かつての成長企業の過去EBITDA倍率をみると10-25倍で推移していたことから、今が際立って割高とは言えません。年初からの調整はあったものの、正常値に戻りつつある、あるいは、戻ってしまった銘柄もあります。
③成熟企業3社についていえば、7-10倍に収まっています。2011年から見れば2014年をピークに、やはり30%程度楽観的な状況だったといえますが、これらも年初から調整されてきています。
[図表1]成長企業4社
[図表2]成熟企業3社
以上のことから、サンフランシスコ・ベイエリアに所在するイノベーション公開企業の時価総額がスローダウンしてきたことから、少なからず当地不動産市場に影響を与えるものと考えております。
現地ブローカー情報から昨年夏以降不動産取引についてもスローダウンしていると聞き及んでいますが、どの程度価格面・家賃水準に影響を与えているか、実際データとなるにはもう少し時間が必要なタイミングです。
ちなみに、本年2月家賃上昇率の全米ランキング上位からサンフランシスコ大都市圏とサンノゼ大都市圏が消えました。サンフランシスコ・ベイエリア不動産市場は調整に入ったのかもしれません。
不動産関連にも巨額の資金を投資しているグーグル
次にグーグルを例にとり、巨大IT企業のSFベイエリアにおける不動産に絡んだ動きを見ていきましょう。
ご存知のように、グーグルは検索エンジン大手として知られています。1998年にエンジェル投資家からの100万米ドルの資金を元手に、スタンフォード大学コンピュータ科学研究科に在籍していたラリー・ペイジ氏とサーゲイ・ブリン氏によって、メンロパークの一軒家の数部屋とガレージから事業をスタートしました。
検索エンジンとしては後発でしたが、人工知能(アルゴリズム)によってビッグデータからユーザー志向に合うよう検索結果を並び替えることで他社と差別化しました。
1999年、セコイヤキャピタルとKPCBから2500万米ドルの資金調達後、2000年にはネットならではのロングテール発想から生まれた、セルフサービス型広告システム「アドワーズ」を展開し、事業の収益化にめどを付けました。
その後「アドセンス」「グーグルアナリティクス」「(携帯OS)アンドロイド」「クローム」「(クラウドビジネスとしての)Gメール」「グーグルマップ」「YouTube」「グーグルフォン」等のヒット作を世に出してきました。
そして2004年には株式公開をするに至りました。現在まで事業は多岐にわたっていますが、世間の注目は自動運転車等の実用化であります。
不動産とのかかわりでは、グーグルはクラウドビジネスを展開するにあたり、データセンターに通常自社製サーバーを備え付けるために、1か所につき10億米ドル以上投資していると聞いています。
データセンターの詳細は情報開示されていませんが、専門調査機関「データセンターナレッジ」によれば、2009年までに29か所のデータセンターを全世界で保有しているとのこと。また、弊社が地元紙等の記事を追跡して情報収集した結果、サンフランシスコ・ベイエリアには8拠点を保有あるいは賃借しています。
次回は、グーグルの8つの拠点の詳細と、不動産投資への関わり方を見ていきます。