今回からは、イノベーション産業に流れ込む資金量の推移やイノベーション産業の企業群価値評価など、サンフランシスコ・ベイエリアに所在するグーグル、アップル、フェイスブック等の巨大IT企業の動向が、不動産価格にどう影響しているかを見ていきます。

2015年、全米のVC投資総額の半分がシリコンバレーに

前回までは、サンフランシスコ・ベイエリアにおいてイノベーション産業がもたらした賃貸住宅市場の逼迫(需給関係)について、大都市圏ごとに住宅在庫・価格について数字面で見てきました。今回以降は、イノベーション産業に流れ込む資金量の推移、イノベーション産業の企業群価値評価、グーグル、アップル、フェイスブック等の巨大IT企業のサンフランシスコ・ベイエリアにおける不動産に絡んだ動きについて、もう少し掘り下げていきましょう。

 

さて、先月PWCおよび全米ベンチャーキャピタル協会より出されたマネーツリー報告によれば、2015年全米におけるベンチャーキャピタル(以下、「VC」という)投資額総計は588.1億米ドル(2015年末終値120.30換算=7.1兆円)で、過去20年間で2番目に大きな数字となりました。そのうちの約半分が、シリコンバレーに資本が流れ込みました(2番手はNYC、3番手がボストンと続く)。

 

全米VCの上位25社(2015年投資件数ベース)のうち、シリコンバレー所在のVCは14社を占めています。クライナー・パーキンス・コフィールド(以下「KPCB」という)、セコイア・キャピタル等の大手著名VCを含めたシリコンバレー所在VCのほとんどは、スタンフォード大学のおひざ元である、シリコンバレー内メンロパーク市、パロアルト市に本社を置いています。彼らの一番の投資先業種はソフトウエア(2015年投資額236億米ドル、1763件)で、2番手がバイオテクノロジー(同年投資額74億米ドル、475件)です。

 

昨年の大型投資案件としては株式市場不調からIPOをせずに(「プライベートIPO」という)、15億米ドル調達した民泊運営サイトのAirbnb(本社:サンフランシスコ)、10億米ドル調達した白タク配車ソフトウエアのウバーテクノロジー(本社:オークランド)、10億 米ドル調達したソーシャル消費者金融のSocial Finance(本社:サンフランシスコ)があります。 しかしながら、2015年第4四半期のVC投資額は株式市場の低迷を受けて不調でした。

 

[図表1]ベンチャーキャピタル投資額

(単位:100万米ドル)
(単位:100万米ドル)

 

このほかに、エンジェル個人投資家によるベンチャー投資額は2014年通年で最高額でしたが、2015年はそれを上回るペースでの投資が進んでいます。2015年第1-3・四半期合計実績は、シリコンバレーで14億米ドル(@120.30=1684億円)、サンフランシスコで 16億米ドル(@120.30=1925億円)の投資実績でした。これは全加州での投資額の81.5%を占めています。

 

次にVCから投資を受けたベンチャー企業群の、米国におけるIPO(新規株式公開)による資金調達額を時系列的に見てみましょう。

 

2015年は300億米ドル(@120.30=3.6兆円)と前年(852億米ドル〈@120.30=10.2兆円〉)比大幅減となり不調でした。これもやはり株式市場の調整を受けてIPOを延期する銘柄がいくつか出たためです。

 

[図表2]米国IPOによる資金調達額

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(出典:www.renaissancecapital.com/)

VC投資、エンジェル個人投資のピークはいつか?

それでは次に、サンフランシスコ・ベイエリアに所在するIT企業群の企業価値がどのような推移を示しているか見てみることにしましょう。下記グラフをご覧ください。

 

選定した銘柄はサンフランシスコ・ベイエリアに本社をおくIT企業で、かつ、2015年末に時価総額が1兆円を超えていた企業としました。当方が探索した結果合計で46銘柄、2015年末時点の時価総額が2兆6551億ドル(@120.30=319.4兆円)となっています。

 

代表的な銘柄としては、アップル、グーグル、フェイスブックなどがあります。サンフランシスコ・ベイエリアには、従来型産業である、ウェールズファーゴ、ビザ、AT&T、シェブロン等の金融・通信・石油資源企業の本社も当然ながら所在しており、これらも含めれば、2兆7838億ドル(@120.30=334.9兆円)となります(ちなみに、同時点の東証1部時価総額は571.8兆円)。特徴としては、上位7銘柄で時価総額の75%を占める一方、2012-2014年に年平均30%の伸びを示しています(2015年はほぼ5%の伸びにとどまった)。

 

[図表3]シリコンバレー所在のIT公開企業の時価総額総計推移

 

以下の略称は次の通りです。

AAPL:アップルコンピュータ(iPhone企画販売)

GOOGL:グーグル(検索大手・携帯OS・インターネット広告)

FB:フェイスブック(SNS)

GILD:ギリアドサイエンス(創薬)

ORCL:オラクル(ITサービス機器販売)

CSCO:シスコシステム(ITネットワークサービス)

INTC:インテル(半導体製造販売)

 

以上から言える点は、VC投資およびエンジェル個人投資は2015年がピークに近い状況で、IT企業に関わるIPO市場・上場株式パフォーマンスは、2014年にピークを迎えているということです。

 

ここで、前話で掲載したアップル、グーグル、フェイスブックの従業員が住む中間住宅価格の推移をもう一度ご覧ください。

 

[図表4]シリコンバレーにおける中間住宅価格

 

1年遅れではありますが、いかにも時価総額推移のグラフと形状が似ていると思われないでしょうか? ご存知のように、これらのIT公開企業は自社株(およびオプション)を給与・賞与の一部として役員・従業員に分配し、資産効果が出やすい状況にしているため、IT企業の時価総額と不動産価格について、極めて深い相関関係があることが分かります。

 

次回は、イノベーション産業の企業群価値評価推移から不動産に与える影響について、もう少し掘り下げていきます。

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