今回は、中国市場の景気減速による「自動車業界」への影響についてみていきます。 ※本連載は、ジャーナリストとして活躍する桃田健史氏の著書、『IoTで激変するクルマの未来』(洋泉社)の中から一部を抜粋し、100年に一度の転換期の真っ只中にある「クルマのIoT化」の最前線を紹介します。

景気減速により、自動車販売数は伸び悩んだが・・・

2015年春から夏にかけて、上海株式市場が暴落した。人件費の高騰により日系などの外資系企業が中国から脱出を試みている昨今、「ついに中国バブルは崩壊か」と言われた。

 

そのさなか、筆者は上海を訪れた。街の中心市街地の南京東路を見た限り、経済が冷え込んでいるような雰囲気を直接感じることはなかったが、街ゆく人たちの表情はどこかさえなかった。

 

また、市街ホテルと大規模イベントホールである新国際博覧センターで開催された電気自動車関連の技術展示会を取材した。

 

どちらの会場内も盛況で、中国政府や業界関係者の講演では「中長期的な視野で見れば、次世代車の技術開発を基盤とした経済成長は続く」といった、中国経済の今後について楽観的な声が多く聞かれた。

 

しかし、各種の経済指標によれば、中国の実体経済が下降線をたどっていることは明らかだった。上海株式市場の動向に加え、2015年1〜8月の鉄鉱石の輸入額は前年同期比で43.1%減となるなど、中国経済の落ち込みは大きかった。

 

こうした社会情勢は当然、自動車産業にも直結し、自動車販売は伸び悩んだ。7月の乗用車部門は前年同月比80.29%の68万8668台と低迷した。1〜7月で見ると年初から年中に向けて販売は先細り、前年同期比92.45%の647万7605台となった。

トヨタ広報が語る「中国自動車市場」の難しさ

だが不思議なことに、販売の状況はメーカーごとに大きく違った。ブランド別で最大シェアを持つフォルクスワーゲンは、7月で前年同月比67.48%と大幅に落ち込んだ。この時点ではまだ、排気ガス規制ソフトウェアの不正は表面化していない。一方で、シェア2位のトヨタは同123.37%と大きく伸びていたのだ。

 

トヨタの好調は、2014年6月に中国市場向けとしてフルモデルチェンジした一汽トヨタで製造販売する「カローラ」と、広汽トヨタの「カローラ・レビン」によるものだ。トヨタ本社によると、2015年1〜8月期で「カローラ」の販売台数は前年同期比233%の16万1000台と急増した。

 

こうした状況についてトヨタの広報は、「弊社の中国での販売総数が月10万台以下と少ないため、カローラのように新型車が月1万台を大きく超える台数となった場合、弊社全体としての前年比の業績が跳ね上がる」と説明。

 

さらに、「これはどのメーカーにも言えることだが、1車種のヒットですぐに販売ランキングが逆転することもあり得る」という中国市場の難しさを示した。このほか、欧米や韓国メーカーに比べて日系メーカー各社は堅調であるなど、ブランドによって販売実績がまちまちの状況だった。

 

その後、2015年9月になると、中国の総生産台数は前年同月比で6%減となるが、総販売台数では3.3%増と持ちこたえた。

 

そのタイミングで中国の国務院は、エンジン排気量1.6リッター以下の新車の販売税を50%引き下げると発表。実施期間は2015年10月から2016年末とした。この景気刺激策によって、10月は販売が11.8%増の222万台を記録した。

 

中国市場は北京、天津、上海、杭州、広州、深しん圳せんといった中国沿岸部での需要が頭打ちとなってきており、さらに大気汚染対策のためにナンバープレートの発行枚数を制限し、販売台数を抑制している状況だ。そのため、自動車メーカーとしては中国の内陸部への販売促進を進めている。

IoTで激変するクルマの未来

IoTで激変するクルマの未来

桃田 健史

洋泉社

米IT大手のアップルやグーグルはじめ、ライドシェアを普及させているウーバーやリフト、世界各国のベンチャー企業が自動車産業に続々と参入。 自動車業界はいま、100年に一度の転換期の真っ只中にある。 IoT化が急速に進…

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