今回は、インド自動車市場に対する各メーカーの取り組みと今後の展望についてみていきます。 ※本連載は、ジャーナリストとして活躍する桃田健史氏の著書、『IoTで激変するクルマの未来』(洋泉社)の中から一部を抜粋し、100年に一度の転換期の真っ只中にある「クルマのIoT化」の最前線を紹介します。

日本を抜いて世界3位の「自動車大国」となるインド

パラダイムシフトが進むなか、中国と並び最重要国になるのがインドだ。近年中にインドが世界第3位の自動車大国になる可能性は十分にある。

 

インド自動車工業会によると、2014年4月から2015年3月の乗用車生産台数は322万台。そのうち輸出が約1割で残りが国内販売向けだ。また、同工業会が2013年1月に示した2020年の市場規模予測は700万台に達する。こうした見込みの背景にあるのが、人口ボーナスだ。

 

 

国連人口統計2015年改訂版によると、2015年のインドの人口ピラミッドは末広がりの13億1105万人で、2050年には17億533万人まで拡大する。一方、2015年時点で人口世界一の中国は高齢化が進み、2050年には2015年と比べて3000万人少ない13億4806万人まで減少する。

 

さらに、インドは今後、着実な経済成長が見込まれている。実質GDP成長率はリーマンショック後でもっとも下がった2012年の5.1%から、2013年に6.9%、2014年に7.3%と上り基調に転じている。

 

また、2014年5月にはインド人民党を与党とするモディ政権が発足し、首相府の権限強化や、インド改造評議会の創設などで統治機構の改革を実施した。こうした基盤を確保して経済改革、労働改革、そして外資規制の緩和を推進している。

 

具体的な政策としては、製造業を強化する「MakeinIndia」、IT産業を支援する「DigitalIndia」、人材育成の「SkillIndia」、そして環境対策としての「CleanIndia」などの新たな構想を掲げている。

 

以上のような社会背景から、世界市場におけるインドの自動車生産・販売の主要国順位は、近年中に中国、アメリカに次いで第3位になる可能性が高いとインドの自動車業界は考えている。

国民性、税務手続き、インフラ・・・実は多くの問題も

そうしたなか、インドには自動車メーカー各社が製造拠点を設けている。

 

インド北部のデリー周辺にスズキとホンダ、西部のムンバイやプネ周辺には地場メーカーのタタを中心にフォルクスワーゲンやフィアットなど、また南部のバンガロールやチェンナイにはトヨタ、フォード、BMWなどが進出している。

 

また、乗用車販売の推移を見ると、シェア4割強をスズキが占有する状況が続いており、ホンダやトヨタのシェアはスズキの8分の1程度にとどまっている。その理由は、市場全体の約8割を占める小型車市場でスズキの価格競争力が高いためだ。

 

スズキに対応するためトヨタも、インド市場向けに小型車「エティオス」を2010年に、さらに派生車のハッチバック車などを投入したが、いまだにスズキの牙城を崩すことはできていない。

 

2015年11月後半にバンガロール郊外のトヨタの生産拠点を取材したが、「エティオス」向けの生産能力21万台に対して7万台程度の生産にとどまっている。

 

現地のトヨタ幹部は、「インドにおいてスズキとの経験の差が大きく響いた。今後はインドのローカルスタッフによる商品開発を強化し、日本の本社がより早い経営判断を下せるようなシステムを構築する」と、インド市場の難しさを語った。

 

インドは今後、市場として拡大することは確実だ。しかし、ほかの国と比べて、製品の質と価格のバランスに対する消費者の考え方が違う。また、企業経営の面では、税制や税務手続きが複雑であり、さらに電力や道路などのインフラの未整備など社会的な課題も多い。

IoTで激変するクルマの未来

IoTで激変するクルマの未来

桃田 健史

洋泉社

米IT大手のアップルやグーグルはじめ、ライドシェアを普及させているウーバーやリフト、世界各国のベンチャー企業が自動車産業に続々と参入。 自動車業界はいま、100年に一度の転換期の真っ只中にある。 IoT化が急速に進…

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