今回は、アジア各地で広がる「ディ・モータリゼーション」とはなにかをみていきます。 ※本連載は、ジャーナリストとして活躍する桃田健史氏の著書、『IoTで激変するクルマの未来』(洋泉社)の中から一部を抜粋し、100年に一度の転換期の真っ只中にある「クルマのIoT化」の最前線を紹介します。

「車を売り続けていくこと」に疑問を抱くASEAN諸国

クルマのパラダイムシフトの現場を体感するなかで、パラダイムシフトに対する違和感を覚えることがしばしばある。

 

たとえば、年々激しさを増すバンコク市内の大渋滞。「正直言って、我々がこのままクルマをドンドン売り続けることが正しいのかどうか、疑問を感じている」。タイに5年間駐在する日系自動車メーカー関係者はそう呟いた。

 

バンコク以外でも、フィリピンのマニラ、インドネシアのジャカルタなど、ASEAN諸国の大都市では慢性的な交通渋滞が発生し、その規模が拡大している。

 

これは交通インフラが未整備であることが大きな原因だ。大通りの立体交差が少なく、大通りでもUターンが多いなど道路のレイアウトが複雑。道路が未舗装、または舗装しても建設技術が低いことで路面が劣化して舗装が剥がれてしまうなどの課題もある。

 

そして“ゆったりと働く国民性”のために道路建設のテンポが遅い。こうして、交通インフラ整備と急増する自動車販売台数がバランスを取れずに、移動が麻痺するほどの大渋滞を引き起こしている。

 

元来、自動車販売台数の増加は、その国の経済力の成長に比例すると考えられてきた。先に述べた通り、一人あたりのGDPが3000ドルを超えるとモータリゼーションが起こり、庶民がクルマを持つ豊かな生活を求めて、経済活動が活発になるという方程式が成り立ってきた。

 

ところが、ASEAN諸国の大都市でいま起こっているのは、新車が売れれば売れるほど経済活動が滞るという状況だ。こうした悪循環はさらに酷くなる。なぜならば地方から都会へ移り住む「アーバニゼーション(都市化)」の動きが、新興国で今後さらに加速すると見られているからだ。

自動車産業に依存した経済成長を見直す必要も!?

国連の「世界都市化予測2014年改訂版」によると、タイの場合、都市と地方の住居割合は2000年に3:7だったが、2010年代後半に逆転し、2050年には7:3になる勢いで急激な都市化が進む。

 

インドネシアでは2000年の6:4が2010年頃に逆転し、2050年にはタイと同じく7:3になる。都市化がさらなる交通渋滞を引き起こすのは明白だ。

 

つまり、順調な経済成長を実現するには、都市部でクルマを売らないほうがよいことになる。販売の統制が必要だ。

 

こうした流れは、タイ、インドネシア、マレーシアなど、最終組み立てした完成車の自国での販売や海外への輸出を考えている国にとって深刻な事態だ。自動車製造業を国の柱に据えることで経済成長を図るという政策を、大幅に見直す必要が出てくる。経済発展を続けるには、より効率的な選択をしなければならなくなる。

 

また、ベトナムが「2018年問題」として抱えているような、自由貿易協定による関税撤廃で自国生産よりASEAN域内から完成車輸入をしたほうが安上がりな国の場合、タイなどと比べて経済政策の転換が早い可能性がある。

 

そうなると、ベトナムでは農業などの第一次産業から自動車産業などの第二次産業へという“先進国がたどった道”を通らず、すでに同国内で経済規模が拡大しているITソフトウェア開発などの第三次産業への“一段飛ばし”が、加速する可能性がある。

 

このようなASEAN域内での「交通と経済のバランスの問題」を抱える経済後進国のなかから、もしかすると「都市部では最初から交通量を増やさず制御する」という総括的な街づくりを考案する国が出てくるかもしれない。

 

以上のような動きを、筆者は「ディ・モータリゼーション」と呼ぶ。モータリゼーションという旧態依然とした考え方が通用しないという意味だ。

IoTで激変するクルマの未来

IoTで激変するクルマの未来

桃田 健史

洋泉社

米IT大手のアップルやグーグルはじめ、ライドシェアを普及させているウーバーやリフト、世界各国のベンチャー企業が自動車産業に続々と参入。 自動車業界はいま、100年に一度の転換期の真っ只中にある。 IoT化が急速に進…

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