「ディープさ」と「子育て人気」が同居する街
今年も発表になった「住みたい街ランキング」で、最近、ベスト20位の常連になっているのが「赤羽」。同ランキングで2016年に20位で初登場して以来、21位→19位→32位→17位と、2018年度のみダウンしているが、安定して20位前後をキープしている。
人気の街に仲間入りする予兆は、同ランキングの「実は穴場な街ランキング」で、2015年に2位になったときからあり、近年、「赤羽」周辺の居住性が評価されている。
「赤羽」が位置するのは、その名の通り、東京23区の北にある北区。1947年、王子区と滝野川区が合併して誕生した区である。元々の中心は「赤羽」駅周辺ではなく、赤羽の北部の岩淵のあたり。ここにあった岩淵宿は日光御成街道の第一の宿駅とした栄えたが、赤羽周辺は単なる集落に過ぎなかったという。
転機が訪れたのは、1885年。「赤羽」~「品川」間で鉄道(品川線、のちの山手線)が開通し、交通の要として発展。徐々に街の中心としての存在感を発揮するようになる。
現在の「赤羽」駅は、京浜東北線、宇都宮線・高崎線、湘南新宿ライン、埼京線と多数のJR線が乗り入れる。埼玉県やその以北から東京都心部へ向かうときに経由する駅であり、ここから山手線の東側(上野・東京・品川方面)と西側(池袋・新宿・渋谷)方面の分岐点であることから、多くの乗換客が集中する。
さらにJR利用で「東京」へ約20分、「池袋」へ約10分、「新宿」へ約15分と都心へのアクセスが良好なうえ、「赤羽」から徒歩10分ほどのところには、東京メトロ南北線「赤羽岩淵駅」があり、六本木や目黒方面にもアクセスしやすい。
また駅構内には「エキュート赤羽」、高架下にはショッピングセンター「ビーンズテラス」が整備され、ますます賑わう駅へと進化している。
駅周辺は商業地が広がり、北口~東口~南口のエリアには「赤羽スズラン通り商店街」など多くの商店街が点在する一方で、かつては今以上に飲食店や風俗店が点在する歓楽街が広がっていた。そんななか、赤羽が注目されるようになったのが、1000円でベロベロに酔える、いわゆる”センベロ”の人気の高まり。東口すぐの「赤羽一番街商店街」には、朝から営業しているお店も多く、お酒好きの聖地に。多くのメディアに取り上げられ、いまや観光地化している。
一方で西口エリアは80~90年代に再開発が進み、大型のスーパーやマンションが建つ。その中心となる商業施設「パルロード」にはイトーヨーカドー赤羽店のほか、人気チェーン店がテナントとして入り、老若男女で賑わっている。そのほかは、周辺が丘陵地帯であることから目立った商業の集積は見られず、閑静な住宅街が広がる。
このように、単に乗換え利用であったり、有名な“センベロ商店街”で知られた街であったりした赤羽が「住みたい街」へと変貌をとげた。その要因として大きいのは、区全体が「子育てするなら北区が一番」をスローガンに、独自の子育て支援を積極的に展開したここと。実際、2003年に0.95だったという合計特殊出生率が、2014年には東京都や東京特別区の平均を上回る1.2に回復している。
高齢化が加速度的に進行し、物件の老朽化も目立つ
赤羽は生活利便性の高く、子育てしたい街でありながら、昔ながらのディープなエリアが同居する、独自のポジションを築いている。ほかにはない魅力が、人気を呼ぶ要因のひとつなのだろう。そんな赤羽を不動産投資の観点でみていこう。
まず直近の国勢調査である(図表1)。北区の人口は34万人強で、人口増加率は1.6%。東京23区平均3.7%を下回る。区部の人口増加の中心は都心3区(千代田区、中央区、港区)や区部の南西で、北区は人口増加の重心からは外れているものの、安定した人気を誇っているエリアだといえるだろう。
一方、人口構造を見てみると(図表2)、北区の高齢者率の高さが目立つ。北区は東京23区のなかでも加速度的に高齢化が進行したエリアである。その対策として子育て支援を強化し成果が徐々に出てはいるが、まだ道半ば、といった状況なのである。
単身者世帯率をみてみると(図表3)、東京区部とほぼ同じ。しかし高齢の単身者層を除くと3ポイント近く差が生じる。ここからも北区が抱える高齢化の問題がみえてくる。
次に住宅事情を見てみよう。賃貸住宅の空き家率をみると(図表4)、東京区部の空き家率は7.4%に対し、北区は4.5%。賃貸物件の建築年の分布をみてみると(図表5)、北区で70~80年代に建てられた築40年を超える物件が多い一方で、2010年以降の築浅の物件の割合は東京区部を上回る。現在の入居者ニーズにあう物件の増加が、空室率を下げる要因になっていると考えられる。
続いて駅周辺の人口の状況を見ていこう(図表6)。「赤羽」駅周辺では1世帯当たり平均1.93人と、北区平均と同程度。生活利便性と交通利便性を兼ね備えた駅周辺は、特に単身者層を中心に支持されている。また直近の中古マンションの取引から、駅周辺の不動産マーケットの状況を見てみる(図表7)、平均取引価格は3,715万円、1㎡当たりの平均取引価格は77.5万円と、北区平均の71.0万円を上回る。取引されているマンションの種別をみてみると(図表8)と、ワンルームや1Kなどの単身者向けが27%強で、3LDK以上のファミリー向けが37%強。赤羽周辺は、単身者向け、家族向け、双方の物件がバランスよく点在するエリアである。
人口減を予測される駅周辺…今後の不動産投資戦略は?
「住みたい街ランキング」で安定した人気を誇るようになった赤羽だが、この先はどうなるだろうか。国立社会保障・人口問題研究所によると(図表9)によると、北区の人口は2025年をピークに人口減少期に入るといわれているものの、そのスピードは緩やか。2015年の人口を100とすると、2030年は100.9、2040年は99.7という水準だ。
一方、黄色~橙で10%以上、緑~黄緑0~10%の人口増加率を表し、青系色で人口減少を示すメッシュ分析でみてみると(図表10)、「赤羽」駅周辺は、人口減少を示す青系色が目立つ。その外縁では人口増加の予測を示し、特に駅西側のエリアで人口増加の予測が目立っている。
現在、北区では築40年以上の築古の物件が多い。「赤羽」周辺でも、赤羽台団地を中心に老朽化が問題になっている住宅が目立つ。随時、更新が進められているが、高齢化の進展もあいまって、駅周辺は人口流出のほうが優勢な状況になっているのだ。
とはいえ、利便性の高さはこの先も大きく変わることなく、単身者層から支持されるエリアであり続ける可能性は高い。また子育て支援がさらに充実すれば、ファミリー層の支持も盤石なものになる。これらの層に支持される物件かどうか、確かな選択眼が赤羽エリアでは要求される。