2027年、リニア駅が開業する「橋本」
3月14日、JR山手線、高輪ゲートウェイ駅が暫定開業した。4年後の2024年には、駅前の高層ビル群とともに本開業となる。さらに3年後の2027年にはリニア新幹線(「品川」〜「名古屋」が開業となり、起点となる「品川」駅とともに、品川・高輪エリアの注目は一気に高まるとされている。
リニア中央新幹線は、沿線の各駅に1駅、中間駅が設けられる予定だが、東京の隣、神奈川の途中駅となるのが「橋本」だ。
「橋本」があるのは、神奈川県相模原市。相模原市は2010年に政令指定都市に移行し、神奈川県では横浜市、川崎市に次ぐ人口規模を誇る。
神奈川県の大半を占めていた相模国に由来する相模原一帯は、繭や生糸の生産が盛んな村が点在し、大規模な開発は行われてこなかった。転機となったのは1930年代。陸軍士官学校や相模陸軍造兵廠など軍関係諸施設が移転してきて、軍都として脚光を浴びることになった。軍都計画をもとに県施行の相模原都市建設区画整理事業も開始されたが、敗戦により、軍都計画は消滅した。しかし軍の諸施設の多くは米軍に接収され、基地の町の要素が強まると関連企業が多く立地。また高度成長期時には東京のベッドタウンとして団地が造成され、人口も急増し、1967年には20万人、1987年には50万人を突破した。
そんな相模原市は、緑区、中央区、南区の3区からなるが、緑区の中心となるのが「橋本」だ。JR横浜線、相模線、京王電鉄相模原線の3線が乗り入れ、リニア中央新幹線が開業する際には、途中駅が設けられる。
JR駅の乗車客は約6万6,000人/日、京王線駅の乗降客は約9万8,000人/日と、相模原の北の玄関口として存在感を示している。
べデストリアンデッキが設けられ、バスターミナルが整備されている駅北口には、複合商業施設「ミウィ」や「イオン橋本店」の入る橋本駅北口再開発ビルが立地し、北口から徒歩5分ほどには、市内で唯一映画館「MOVIX橋本」が入る「SING橋本」がある。一方、リニア駅ができる予定の南口は多くの工場が立地していたが、駅周辺が首都圏都市再生特別法に指定されたことで再開発が進行し、タワーマンションや大型商業施設「Ario橋本」が誕生した。
近年の再開発によって、市の拠点としての色を濃くした橋本だが、リニア駅開業に向けて、さらなる発展が見込まれている。
再開発で魅力が向上した「橋本」エリア
近年、再開発によって利便性が大きく向上している橋本だが、不動産投資の観点ではどのような街なのかみていこう。
まず直近の国勢調査をみてみると(図表1)、「橋本」のある相模原市緑区の人口は17万人強で、相模原市の3区のなかでは最も人口が少なく、また3区のなかで唯一、人口減少を記録している。緑区は市域面積の約77%を占める大きな区だが、その多くを山間部を占める。地理的な特徴から人口減少を記録しているのだと推測される。また高齢者人口の割合が神奈川県平均23.9%を1ポイントほど上回っているのも(図表2)、高齢者率が高まる山間部が多く占めるという地理的な特徴が要因になっていると考えられる。
さらに橋本地区は再開発が進み単身者用賃貸物件も多くみられるが、他のエリア、特に山間部は交通利便性が低く、単身者向けのエリアとは言い難い。そのため緑区の単身者世帯率は相模原市3区のなかで一番低く、神奈川県平均35.5%を5ポイント近く下回る(図表3)。
次に住宅事情を見てみよう。賃貸住宅の空き家率をみると(図表4)、神奈川県平均6.6%を下回り、相模原市3区のなかで最も低い空き家率を誇る。家族世帯のほうが定着率は高く、東京近郊であれば、単身者世帯が高いエリアよりも空き家率は低くなる傾向にある。相模原市緑区も同じ傾向にあると考えられる。
一方で賃貸物件の建築年の分布をみてみると(図表5)、相模原市のほか2区に比べて、5~15年の築浅の物件が目立つ傾向にある。これは「橋本」駅周辺の再開発で、タワーマンションをはじめ、多くの賃貸物件が供給されたことによるものと考えられる。緑区の都市部では、再開発による都市の更新が順調に進んでいると言えるのでないだろうか。
続いて駅周辺の人口の状況を見ていこう(図表6)。「橋本」駅周辺では1世帯当たり平均2.12人と緑区平均2.44人を下回り、家族世帯が多い緑区のなかでは単身者世帯が多いエリアといえる。
また直近の中古マンションの取引から、駅周辺の不動産マーケットの状況を見てみる(図表7)、平均取引価格は2,190万円、1㎡当たりの平均取引価格は41.3万円と、緑区平均の36.4万円を上回る。取引されているマンションの種別(図表8)は、ワンルームや1Kなどの単身者向けが15%程度にとどまる一方で、3DK以上の物件は50%を超える。「橋本」周辺では、家族世帯向けの物件が豊富にラインナップされているようだ。
「リニア駅開業」のインパクトは?
再開発、そして2027年リニア開通を前に注目が集まる橋本だが、この先はどうなるだろうか。国立社会保障・人口問題研究所によると(図表9)によると、相模原市緑区の人口はすでに人口減少期に入り、2015年の人口を100とすると、2030年は96.6、2040年は88.4という水準。減少スピードは、年々速くなっていくと推測されている。
一方、黄色~橙で10%以上、緑~黄緑0~10%の人口増加率を表し、青系色で人口減少を示すメッシュ分析でみてみると(図表10)、「橋本」駅周辺と、駅南東エリアでは若干の人口増加を見込む黄緑を示しているが、さらにその周辺は人口減少を示す青系色が目立つ。駅周辺は再開発による人口増加が見込めるが、再開発が及ばなないエリアでは、人口減少が避けられない状況のようだ。
「橋本」から「新宿」は、京王線相模原線利用で平日日中40分弱、「横浜」へはJR横浜線で同じく40分ほど。通勤時間帯ではさらに時間はかかるが、通勤圏内といえる距離だ。しかし都心回帰の流れのなか、現状では駅周辺の魅力だけでは人口流出は止められないのだろう。
リニア駅開業の効果は「橋本」エリアにどれほどのインパクトを与えるのか? 現行の新幹線をイメージしてみよう。同じ神奈川県下の新幹線駅の「新横浜」。開業当時は田畑が広がるようなところだったが、いまでは横浜市内でも有数のオフィス街だ。日本経済が右肩上がりで成長していたころの話なので、同列で比べることはできないかもしれないが、同様のポテンシャルは秘めている。「橋本」周辺が、期待以上に魅力あふれる街へと変貌をとげる未来もあるかもしれない。