年間約130万人の方が亡くなり、このうち相続税の課税対象になるのは1/10といわれています。しかし課税対象であろうが、なかろうが、1年で130万通りの相続が発生し、多くのトラブルが生じています。当事者にならないためには、実際のトラブル事例から対策を学ぶことが肝心です。今回は、父の再婚に端を発した事例についてについて、円満相続税理士法人の橘慶太税理士に解説いただきました。

初恋を実らせたBさんの幸せな結婚生活の果て

今回ご紹介するBさんは、夫(=Bさん)、妻(=C子さん)、長女、次女、三女の5人家族です。Bさんは30歳を前に独立し、一代で財を成したやり手の経営者でした。そんなBさんを支えたのが、5歳年上の姉さん女房のC子さんでした。

 

ふたりの家は近所にありましたが、始まりはBさんの一方的な思いでした。初恋の人が、C子さんだったのです。小学生のころにはその思いに気づいていたBさんでしたが、相手は5歳も年上。C子さんにしてもBさんのことは近所に住んでいるかわいい男の子という認識で、好意とはほど遠い気持ちしかもっていませんでした。

 

Bさんの初恋が実ったのは、Bさんが社会人になってから。C子さんとは疎遠になっていましたが、職場がたまたま同じオフィスビルにあり、たまたま再会を果たしたのです。食事の約束をして、何度か昔話に花を咲かせました。そしていつのまにか、ふたりは恋仲となり、結婚に至ったといいます。

 

元々姉御肌のC子さん。いつか独立して自分の会社を持ちたいと夢を語っていたBさんに「大丈夫、失敗してもわたしが養ってあげるわよ」といって、背中を押してあげました。C子さんの思いに応えられるよう、独立後、Bさんはがむしゃらに働きました。初めは上手くいかなかった会社経営も徐々に軌道に乗り始め、従業員を雇えるようになり、そして支店を出せるようにまでなりました。

 

家庭のほうも順調そのものでした。結婚してしばらく経つと長女が誕生し、その2年後には次女、さらにその1年後には三女が生まれました。社長業で忙しいBさんでしたが、誰からみても子煩悩で、可能な限り子育てに参加しました。そんなBさんをC子さんも心から尊敬していました。だからでしょうか、子どもたちは難しい年ごろになっても父を慕い、その様子は、女の子をもつ周りの父親が羨ましく思うほどでした。

 

娘たちは順調に成長し、そして長女、次女、三女と順番に結婚して家を出ていきました。それぞれの相手は、みな一流企業に勤務し、誠実で頼もしい男性でした。心配することは少しもありませんでしたが、やはり娘を嫁に出す父親は寂しいものです。心にポッカリと穴が空いてしまった感じがしたと、Bさんはいいました。

 

「これからは二人の時間を大切にしていきましょうよ。楽しいこと、色々とやっていきましょう」

 

寂しいと背中で語るBさんをC子さんはそう励ましたのです。

 

「そうだな。いままで子育てや仕事で精一杯で、自分たちのことはまったく考えてこなかった。これからは君との時間を存分に楽しもう」

 

還暦を超えていたBさんは、社長の座を譲り引退。「世界一周旅行なんてどうだい?」などと、夫婦水入らずの旅行を考えていた矢先、不幸が夫婦に訪れます。C子さんにガンが見つかったのです。症状は進行していて、助かるかどうかは五分五分という状況でした。

 

「早く良くなって、夫婦で旅行に行こう」

 

つらい治療にのぞむC子さんを、Bさんはつきっきりで励ましました。一時は良い兆しもみられましたが、1年半後、C子さんは息を引き取ってしまいました。

妻に先立たれて意気消沈の父が参加したのは……

最愛の人を亡くしたBさん。

 

「妻は初恋の人だったんです。50年以上、ずっと想い続けてきたんです。それを私は失ってしまったんです……」

 

「苦労ばかりかけてきたんです。だから、やっと彼女のために色々してあげられると思っていたんです。結局、何もしてあげられなかったんです、わたしは……」

 

憔悴したBさんに、娘たちでさえかける言葉が見つかりませんでした。娘たちは交代で実家に泊まり込み、Bさんの身の回りの世話をしました。そしてC子さんが亡くなって半年ほど経ったころ、Bさんが娘たちにいいました。

 

「もう大丈夫だから。君たちは君たちで家族があるのだから、きちんと守っていきなさい」

 

無理してでも立ち直ろうとしている父の姿をみて、娘たちは実家を訪れる頻度を少しずつ減らしていき、1年ほど経ったころには、C子さんが亡くなる前の状態に戻りました。

 

しかし穏やかな日常は長く続きませんでした。ある日、Bさんが三人の娘を実家に呼びました。そしてこう切り出したのです。

 

Bさん「実は、再婚を考えている」

 

娘たち「えっ!?」

 

Bさん「最近、出会った方で、若いのにしっかりした人なんだ」

 

長女「若いって、何歳くらいの人なの?」

 

Bさん「34歳の…」

 

次女「34って、私より若い……」

 

三女「ちょっとお父さん、どういうことよ」

 

話を聞くと、婚活パーティでその女性とは出会ったといいます。Bさんは、一人になるとやはり寂しく、何度かこのようなパーティに参加したというのです。

 

長女「再婚したいというのはわかったわ。お父さんもいい大人なんだから、それは自由だと思う。でも一度、その女性と会わせてちょうだい」

 

そして娘たちはBさんが再婚を考えているという女性と会うことになりました。その女性は34歳、そして3人の子どもがいました。色々あり元夫とは5年前に離婚し、女手一つで子どもを育てていました。しかし経済的に限界を感じ、再婚を考えて婚活パーティに参加したというのです。そこで知り合ったのがBさんでした。

 

女性「Bさんは、もう仕事を引退しているから、君が働きたいなら子育てを任せてくれてもいいし、働かなくても3人の子どもを大学まで行かせてあげられるほどのお金はあるから、といってくれて……」

 

長女「じゃあ、父との再婚はお金目的なんですか?」

 

女性「金銭的なところがゼロだとはいいません。でもそれだけではありません」

 

素直に告白する女性の姿に、嘘、偽りがないことは娘たちにもわかりました。しかしスッキリしない思いがずっとあったといいます。そこで父にひとつの提案をしました。

 

長女「お父さん、再婚したいという人と会ってきたわ」

 

Bさん「……どうだった!? わたしは良い人だと思っているんだが」

 

次女「そうね、お父さんが言うとおり、良い人だったわ」

 

三女「女性一人で三人も育てていて、立派な方だったわ」

 

長女「お父さんとの結婚は、経済的な面でも魅力的だと素直にいってくれたの。だから信じてもいいかもと、思ったわ。ただひとつ、お父さんにお願いがあるの」

 

Bさん「なんだい、お願いって」

 

長女「お父さんに何かあったとき、財産のすべてをわたしたち三人にだけ残すという遺言書を作ってほしいの。そしてそれをあの人にも伝えてほしいの」

 

Bさん「どうしてそんな遺言書を……」

 

長女「ほんとうに、お父さんの財産だけが目的でないことを証明してほしいの。お父さんに何かあったときでも、手にできるものはない……それでも一緒になる、一緒にずっといるというなら、本物だと思うの」

 

次女「あの人の気持ちが本物だと確信がもてたら、また考えさせてほしいの」

 

こうしてBさんは、今ある財産を娘たちに明らかにし、娘たちの希望する通りの遺言書を作成。女性にもそのことを伝え、再婚をしたといいます。

 

再婚の条件は?
再婚の条件は?

遺言書でトラブルになりやすい「遺留分」

「わたしの財産はすべてある人に残します」という遺言書があったといましょう。そのとき、困ってしまう人が出てくる可能性があります。たとえば、苦楽をともにしてきた奥さん。夫亡きあと、頼りになるのは夫が残してくれた財産だけなのに、その財産がすべて第三者に渡ってしまったら……ら困りますよね。残された奥さんは生活できなくなってしまいます。こういったシチュエーションででてくるのが、遺留分なのです。

 

遺留分はひと言でいうと、残された家族の生活を保障するために、最低限の金額は相続できる権利のことをいいます。この最低保障されている権利があるため、たとえば、我が子のなかに絶縁状態の子がいて「遺産を1円も残したくないから、遺言書に0円と書いておきましょう!」と書いていたとしても、その子どもから「遺留分をよこせ!」とトラブルに発展するケースがあるのです。

 

では遺留分がどれくらい認められているかといえば、ずばり法定相続分の半分です。もし遺言書の中身をみて、遺留分が侵害されていると知ったら、間に弁護士を入れ、遺留分に達するまで遺産の受け渡しが行われます(この手続きを、「遺留分の減殺請求(げんさいせいきゅう)」といいます) 。

 

また、この遺留分という最低保障されている権利には、有効期限が存在します。遺留分が侵害されていることを知った日から1年です。1年を過ぎてしまうと有効期限を過ぎてしまうため、遺留分の減殺請求はできなくなります。

 

また遺留分は兄弟姉妹(甥姪も)にはありません。なぜなら、一般的に、ある程度の年齢になれば、兄弟姉妹は別々の生活をはじめます。すでにそれぞれの生活の基盤ができているはずなのです。そのことから、兄弟姉妹の間で遺産が相続できなくても、その人たちは今後の生活に困らないと考えられるからです。

 

さらに遺留分はあくまでも権利であり、もし遺言書に「あなたに遺産はまったくあげません」と書かれていたとしても、当の本人が、「それでも構わないですよ」ということであれば問題ありません。あくまで権利なので、権利を行使するかどうかは本人の自由です。

 

今回の事例では、いまある遺言書では遺留分を請求される可能はあります。もちろん遺留分を放棄する可能性もあるでしょう。

 

 

【動画/筆者が「遺留分」について分かりやすく解説】

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橘慶太
円満相続税理士法人

 

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