年間110万円までの贈与なら非課税ということは知られていますが、そもそも「贈与なんて黙っていればバレない」と考えている人は多いのではないでしょうか。しかし全国で4,000件弱の贈与税の税務調査が行われ、その多くが追徴課税となっています。どのようにして税務署は税務調査先を探し出しているのでしょうか。円満相続税理士法人の橘慶太税理士が解説します。今回はタンス預金は税務署にバレるのかを、円満相続税理士法人の橘慶太税理士に解説いただきました。

タンス預金は税務調査に選ばれたら高い確率でバレる

税務調査に選ばれたらという前提ですが、皆さん全員が税務調査に選ばれるわけではありません。確率論でいうと相続税申告の約20%と言われています。5分の1です。逆に言えば5分の4の方には調査は入らないので、そういった方がもしタンス預金をしていたとしても、それはバレずにすむということはあり得ます。

 

全員に調査が仮に行われた場合であったとしても全部を見抜けるわけではありませんが、高い確率で発覚していきます。

 

 

最初に筆者のスタンスを前もって伝えておくと、タンス預金で脱税するよりも、合法で効果の大きい節税をしたほういいです。

 

現金を引き出して、タンスのなかに隠しておけというのは、節税ではなく間違いなく脱税なので、金額だけの問題ではありませんが、その悪質性などをすべて勘案すると、逮捕される話になります。

 

刑事罰の対象になるので。そんな危険な橋をわたるよりも、合法でかつタンス預金よりも効果の高い節税方法があるので、そちらをやったほうが絶対いいというのが筆者の主張です。

 

2018年の税務通信という税理士が読む情報誌には、タンス預金が原因で脱税だとして実際に捕まった件が記載されています。これは自宅の物置のなかのカーペットをめくると下に床下収納があり、そこに隠されていた金庫のなかから現金計1億5000万があったという事件です。現金を引き出して隠してしまっても、国税の人から見つけられているケースも実際にあるのです。

 

「タンス預金なんてバレるわけがないのに、なんでわかっちゃうの?」と思っている方も結構いると思います。ところが実際はそんなことはありません。税務署の人たちは、どのようにしてタンス預金があるのかを調べているのでしょうか?

 

「税理士」もタンス預金があるか調べている

実は税務署だけではなく、税理士である筆者もタンス預金がないかを調べています。というのも、相続税の申告書を実際に作る際に、税務署に申告書を提出して、その後法律上は申告期期限から5年間、税務調査が行われる期間があります。だいたい税務調査が来るのは2年後の夏です。

 

 

税理士としても税務調査はできるだけ立ち会いたくありません。時間もかかりますし、それこそ精神的にも肉体的にもエネルギーをとても使います。またお客様から、あなたの申告が良くなかったからじゃないの(あなたの申告の仕方に不備があったせいじゃないの)と言われてしまうこともあります。

 

そのため、あらかじめこの調査で問題になることがないかということを、税理士は調べてから申告書を提出しています。その一環にタンス預金があるのではないかを税務署と同じアプローチで調べているのです。

 

それでは実際どのようにしてタンス預金の存在を察知しているかを解説していきます。

国税庁のシステムを使ったタンス預金のあぶり出し

まず国税庁にあるKSK(国税総合管理の略称)システムというものがあります。このシステムは、国民の収入や、国民がどういう財産を相続したかなどを国税のデータベースに全部を集約して管理しているものです。

 

そのため、皆さんがどのくらいの年収を得ていたか、過去にどういうものを相続したか、過去に不動産を売っていくらの収入を得ているかなど、全部国税庁のデータベースに入っているのです。

 

 

これを使ってまず誰に調査を入れるかを選別しているのだと思います。ここでよく聞くのが「まぁうちはそんなに財産の規模が大きくないから調査入らないですよね」ということです。

 

しかし、実際に申告する財産額というのは、調査対象の選別にはあまり関係ありません。もちろん大きければ大きい程入りやすい傾向はあります。しかし小さいからと言って調査が選ばれないかというと全然そんなことはありません。

 

これは、たとえば財産が元々5億円あるという方が、亡くなってしまう直前くらいに4億円を現金で引き出し、1億円だけ預金を残し、財産1億円という形で相続税の申告をしたとします。

 

この場合、申告する財産が1億円だから調査に選ばれないのではないかと思うかもしれませんが、むしろ選ばれないはずがありません。なぜかというと、申告する財産額というのはあくまでも1つの要素に過ぎず、生前どれくらいの収入があり、どれくらいの財産をこれまで相続しているのか……という国税のデータベースと、実際に申告する金額の差が大きいと、怪しいと思われるわけです。国税庁のシステムを使ったあぶり出しというのがまず最初に出てくるポイントです。こういったとても強靭なデータベースがある、ということをまず理解しておきましょう。

 

KSKシステムは国税の人しか見ることができません。つまり筆者たち税理士もこういったこと見ることはできないので、私たちはこういった話をお客様から聞くしかありません。

 

また、税務調査が行われると、最低でも亡くなった方の過去10年分の預金通帳がチェックされます。なぜなら銀行に過去の預金通帳の保管があるのが、通常10年間しか保管がないためです。もちろん現物として通帳が残っている場合については、10年以上も見ることができるので、20年、30年とチェックすることもあります。

 

ただ、亡くなる10年前の引き出しと、亡くなる前の1年以内、3ヵ月以内とかであれば、どちらが調査のときに重要視されるかというと、やはり亡くなる1年前、3ヵ月前のものが重点的にチェックされます。

 

そこで何を見るかというと、結局タンス預金はどのように構成されていくかということです。

タンス預金はどのように構成されていくか?

タンス預金は基本的に生活費として預金通帳から現金を下ろし、それを生活費としてつかう部分と、タンスにこっそり貯金をしておく部分とに分け、表面に出ない財産が構築されていきます。

 

つまり、基本的な生活費からタンス預金を出していくということになります。ところがまとめて200万円出すというようなことになると、10年分の通帳の引き出した形跡を見た時に「現金で200万円が出ていますが、誰の口座にも入っていません。どこに行ったんですか? 現金で残ってるんじゃないですか?」という話になります。

 

 

相続税の対策をするのは基本的に高齢者という前提だった時に、高齢者が現金で支払う生活費とは一体何があるでしょうか。食費や医療費、あとは旅行や趣味などがあげられるでしょう。多くが持ち家で、ローンは全部払い終わっているでしょうし、教育費がかかることはありません。水道光熱費などを現金で払うかというと、おそらく通帳引き落としになっています。さらに旅行代なども今はクレジットカードで支払う場合が多いと思います。このように突き詰めていくと、意外と現金で生活費を払う額は少ないのです。

 

医療費に限って言うと、過去の確定申告書を見ると年間どのくらいの医療費払っていたかということが医療費控除の金額でわかります。そのため、医療費として何百万円もかかったという申告があった場合も、亡くなった方の確定申告書の医療費控除の金額をみたらそれよりも圧倒的に少ない金額が書かれていたというケースも実際にあります。

 

生活費として現金を使っていましたという主張は、突き詰めていくと矛盾が出てくるのです。

税務調査が行われるまでの期間の相続人の通帳も重要

相続発生後から税務調査が行われるまでの期間の相続人の通帳も気を付けるポイントです。これは実際に相続が発生し、税務調査が行われるまでの期間の間、相続人、例えば子どもとかその配偶者の通帳を見るのです。例えば子どもがサラリーマンだった場合、通帳の預け入れ欄の入金欄に記載されるのは給与か賞与の2つです。例外として不動産賃貸業やサラリーマン大家ですという場合もありますが、副収入がない方は基本的に給与と賞与しか書かれないはずなのです。

 

しかし相続発生後から税務調査が行われる期間中に現金で例えば100万円が入っていたとすると、これは何ですか。という話になっていきます。

 

 

その100万円は亡くなった方がタンス預金として残していたお金が子どもたちの手元に渡ってその子どもたちが通帳に入れたのではないかと見られていきます。

 

おそらく、ではその貰った現金を通帳に入れなければいい、と考える方がいらっしゃるかと思いますが、そういう趣旨のお話ではありません。他にもいい方法がありますよというのが私の伝えたいことです。

税務調査が行われた場合、貸金庫の中を一緒に開ける

また、他にも貸金庫が対象になります。亡くなった方やそのご家族の方が貸金庫を銀行に借りている場合には税務調査が行われた場合、貸金庫の中を一緒に開けます。そこから多額の現金が出てきたりすると大変な問題に発展することがあります。

 

ちなみに余談ですが、私が立ち会った税務調査の際、貸金庫の中を一緒にあけろと言われて銀行に行ったことがあります。最初に申告書を出すときに、過去の通帳を見ると貸金庫手数料と書いてあるので貸金庫ありますよねということを聞いたら、あるのは不動産の権利証くらいです、というお話でした。特に財産になるようなものはないです。というお話だったため、私もその話を鵜呑みにしてそのまま申告を出していました。

 

ところが、貸金庫の中を開けたらそこから2000万ほどの札束が出てきたのです。ただ結果としてその2000万は亡くなったご主人の2000万ではなく、奥さんの2000万だということが立証できたのです。

 

なぜ立証できたかというと、ポイントとなったのは現金に巻かれていた帯です。100万円ごとにまかれる帯には銀行の名前やロゴなどが入っています。そこで出てきた2000万円には奥様とだけお付き合いのある銀行のロゴが入ってたため、これは奥様の通帳から出た2000万だということが立証できました。そのため事なきを得たということが実際にありました。なので、調査はそういったことも決め手になります。

 

このケースではたまたま奥さんものだったので良かったですが、逆のパターンであれば完全に言い逃れできない追徴課税になっていたと思います。

 

本当はもっと現金のあぶり出し方法が色々ありますが、皆さんが思っている以上に相続税の税務調査は厳しいです。本当にいろんな方向から皆さんが思いもよらない方法で現金の有無を調べていきます。

タンス預金で節税するよりも、正攻法で節税対策を

税務署で相続税の調査40年間やっている大ベテランの方が見たときは隠し通せるかというと本当に難しいと思います。

 

最初の話でもした通りタンス預金で相続税を節税しようとするよりも、正攻法でできる相続税の節税対策はたくさんあります。

 

 

例えば①小規模宅地の特例と呼ばれる制度をしっかり使えるように財産の分け方を工夫する。②1次相続2次相続の比率を何回かシミュレーション組んで1番いい割り振りにする。③2020年4月から始まる配偶者居住権をうまく活用していく。

 

などです。しかもこれらの方法を使った方が結果として納税額少なくなると思われます。そのため、正攻法で節税するのが1番いいです。

 

調査は亡くなってしまった方が受けるのではなくそのご家族の方が受けます。ご家族に怖い思いをさせないためにも、一緒に勉強していい対策をしていきましょう。

 

【解説者が「タンス預金がバレる理由」について、動画で解説】

 

橘慶太
円満相続税理士法人

 

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