都内勤務の男性会社員…負担できる家賃額は?
総務省の「住宅・土地統計調査」によると、東京の通勤時間の平均は約43分。全体の4分の1が1時間を超え、2時間以上という遠距離通勤の会社員もいる。もちろん、自ら進んでその通勤時間を容認している人もいるだろうが、できることなら、地獄のような満員電車には乗りたくないし、通勤時間は短いほうがいいと考えるのが大多数だろう。
東京では都心をはじめ、山手線内に多くの企業が集積することから、放射状に延びる私鉄沿線などが、住まい選びの基準になることが多いだろう。しかし、都心へのアクセスがよい東京メトロ沿線を希望する人がいる一方で、沿線の大部分が東京区部を走ることから「東京メトロ沿線=家賃が高い」という先入観をもち、最初から住まい選びの候補から外しているケースもあるのではないか。
そこで東京メトロ沿線の各駅の平均家賃から、会社員でも住まい選びの候補となりえる街はどこかをみていこう。
まず適正な家賃額はどれくらいか、考えてみよう。厚生労働省が発表している「賃金構造基本統計調査」によると、都内勤務の(独身)男性会社員の平均給与/月は、20代後半で26万円、30代で29万~32万円、40代で35万~38万円となり、50代前半で39.54万円とピークを迎える(図表1)。
これらから住民税や所得税などを差し引いた手取り額の1/3以内を適正家賃と考えると、20代後半であれば6.7万円、30代は7.4万~8.1万円、40代は8.8万~9.5万円、50代前半で9.7万円となる。あくまでも平均値ではあるが、都内勤務の男性会社員が10万円以上の家賃を負担するのは、どの年代でも厳しいのが現状だ。
銀座線、丸ノ内線、日比谷線…どれがベスト?
■東京メトロ銀座線
では路線ごとにみていこう。まず銀座線は「浅草」と「渋谷」を結ぶ14.2kmで、19の駅がある。1927年「浅草」~「上野」が開業した日本初の地下鉄として知られ、最近は「渋谷」の新駅舎オープンが話題になった。
「上野」「銀座」「新橋」「赤坂見附」「表参道」と都心の主要エリアを走ることから、沿線の平均家賃は高めであったり、そもそも駅周辺が繁華街で賃貸物件の供給数が極端に少ないエリアだったりする。そのなかでも、「上野」~「浅草」間は、平均家賃7万円台とリーズナブル。特に「浅草」周辺は供給数も多く、平均家賃も7.65万円と、30代であれば視野に入れられる価格だ(図表2)。
平日通勤時間帯であれば(8時出発と想定)「浅草」から「新橋」は14分、「赤坂見附」まで27分程度。「浅草」は観光地というイメージが強いが、駅周辺には「浅草エキミセ」などの商況施設や小・中規模のスーパーマーケットも点在しているなど、男性の一人暮らしにとっても生活利便性の高い街である。
■東京メトロ丸ノ内線
「池袋」と「荻窪」を結ぶ本線と、「中野坂上」と「方南町」を結ぶ支線からなる丸ノ内線は、計27.4km、28の駅から構成される。昨年の7月、方南町駅のホーム改良に伴い、「方南町」~「池袋」の直通運転が開始され、支線の利便性が飛躍的に向上した。
この路線での狙い目は、「池袋」「新大塚」など池袋周辺と、「新宿」を出て中野区、杉並区に立地する駅である。以前、消滅都市として話題になったり、治安が悪いと名をはせたりした「池袋」だが、近年は再開発などにより、すっかり「住みたい街」へと変貌した。いわずとしれた日本有数の繁華街だが、一方で住宅地が近接する街でもあり、駅から10分圏内でも、適正家賃内の賃貸物件が豊富だ。
「新大塚」駅はJR「大塚」駅から南へ徒歩9分ほど。「池袋」からひと駅、JR線の利用も可能という立地ながら、家賃は安めで、JR駅方面であれば商店街も充実している。
また「東高円寺」~「荻窪」、「中野坂上」~「方南町」は、平均家賃が7万円台前後。始発となる「荻窪」や「方南町」であれば座って通勤することも可能であり、「新宿」へも20分弱。駅周辺には商店が集積している駅が多く、生活利便性も申し分ない(図表3)。
■東京メトロ日比谷線
「北千住」と「中目黒」を結び、20.3km、21の駅からなる日比谷線は、「北千住」で東武伊勢崎線と相互乗り入れをし、「中目黒」では同一ホーム上で東急東横線に乗り換えて横浜方面にアクセスすることができる。また今年6月には「神谷町」と「霞が関」間に新駅「虎ノ門ヒルズ」が暫定開業する予定で、注目が集まっている。
狙い目となるのは「北千住」「三ノ輪」「入谷」の3駅。「北千住」は東京メトロ千代田線やJR常磐線も乗り入れ、多方面にアクセスできる交通利便性が魅力。駅周辺には大型商業施設が立地するほか、商店街も充実し、ある程度の買回り品も揃えることができる。「三ノ輪」駅周辺には商店街や大規模なスーパーも立地し、生活利便性の高い街である。「入谷」駅周辺には、目立った商店の集積はないが、小規模なスーパーやコンビニは点在しているうえ、上野周辺も生活圏内という利便性の高さが魅力である(図表4)。
■東京メトロ東西線
「中野」と「西船橋」を結び、30.8km、23の駅からなる東西線は、「中野」でJR中央・総武各駅停車、「西船橋」でJR総武線と東葉高速鉄道に乗り入れる。首都圏の鉄道路線のなかでも混雑率はワーストクラスであるが、東京区部を抜けて千葉県下の駅周辺の平均家賃は当然リーズナブル。朝のラッシュ時で「西船橋」~「大手町」は40分強と、都心勤務であれば有力な居住地候補になるだろう。
一方で「中野」「高田馬場」「神楽坂」あたりも、家賃8万円台と、30代であれば視野に入れられるエリアである。「中野」「高田馬場」の周辺には、リーズナブルな飲食店が集積するうえ、小・中規模のスーパーも多く点在する。外食派、自炊派、どちらのニーズも応えられる街だといえるだろう(図表5)。
■東京メトロ千代田線
「綾瀬」と「代々木上原」、「綾瀬」と「北綾瀬」を結ぶ千代田線。計24km、20駅からなり、「綾瀬」でJR常磐線、「代々木上原」で小田急小田原線に乗り入れる。「代々木上原」周辺は高級住宅地としても知られ、平均家賃も高めだが、「綾瀬」~「千駄木」エリアは、5~6万円台と20代会社員でも十分居住地候補になりえるエリアである。
そのなかでも「北綾瀬」は昨年、ホームの改良工事が完了したことで「北綾瀬」~「代々木上原」の直通運転が開始され、利便性が飛躍的に向上した。朝のラッシュ時でも座って通勤でき、「大手町」まで30分弱という距離感。駅周辺には規模の大きい24時間営業のスーパーがあり、生活利便性、交通利便性、双方を兼ね備えている(図表6)。
■東京メトロ有楽町線
「和光市」と「新木場」を結ぶ、28.3km、24の駅からなる有楽町線。「和光市」では東武東上線に乗り入れるほか、「小竹向原」で西武(有楽町線)とも接続する。
前出の「池袋」のほか、豊島区~練馬区~和光市に立地する駅周辺の平均家賃は6万~8万円台であり、「和光市」にいたっては5万円台となる。「和光市」駅周辺であれば、商業の集積も進む南口がおすすめだ(図表7)。
「イトーヨーカドー和光店」の入る「和光ショッピングプラザ 」や、「サミットストアシーアイハイツ和光店」の入る「シーアイハイツショッピングセンター」など商業ビルが建ち、飲食店も多く点在。駅前で、生活に必要なひと通りのものは揃うだろう。「和光市」~「有楽町」は朝ラッシュ時で40分超となるが、「池袋」までであれば20分弱。池袋周辺勤務であれば、有力な居住候補地のひとつになる。
■東京メトロ半蔵門線
「渋谷」から「押上」の16.8km、14駅を結ぶ半蔵門線。「渋谷」で東急田園都市線、「押上」で東武伊勢崎線に接続する。
「渋谷」周辺の平均家賃は高めだが、都心を通り、「住吉」以降は7万~8万円台と、30代以降の会社員であれば視野に入る水準となる(図表8)。
「押上」は東京スカイツリーの最寄り駅でもあり、「東京スカイツリータウン」では最寄り品はもちろん、買回り品まで揃えることができる。朝ラッシュ時「大手町」まで20分弱と、都心へのアクセスも抜群だ。
■東京メトロ南北線
「目黒」と「赤羽岩淵」を結ぶ南北線。21.3km、19駅で構成され、「目黒」では東急電鉄目黒線、「赤羽岩淵」では埼玉高速鉄道に接続する。
「目黒」を過ぎると、白金や高輪など都内でも高級住宅地で知られるエリアを通るため、平均家賃は高め。一方、都心を過ぎ、城東エリアに立地するエリアの家賃はリーズナブルであるが、今回のリサーチでは参照物件数が少なく、物件選びの際、選択肢が限られてくる可能性が高い。一方で、掘り出しものの物件が見つかるかもしれない穴場ともいえるだろう(図表9)。
■東京メトロ副都心線
「小竹向原」と「渋谷」を結ぶ11.9km、11駅からなる副都心線。東京メトロでは唯一、都心を通らず、池袋、新宿、渋谷と東京の3つの副都心を貫く形で走る。東武東上線、西武線、東急東横線・みなとみらい線と相互直通運転を行い、埼玉~東京~神奈川をダイレクトにつないでいる。
「小竹向原」~「池袋」は有楽町線と共用部分で前出の通り。「池袋」~「渋谷」の平均家賃は高めだが、「池袋」に近い「雑司が谷」「西早稲田」は7万~8万円と30代以降の会社員であれば適正家賃内。駅周辺に目立った商店の集積は見られず、スーパーなどの立地も限られる。家探しの際は、最寄りのスーパーやコンビニまでの距離に注意したい(図表10)。
東京メトロ全線の駅の平均家賃を見てきたが、東京東部や東京北西部の駅であれば、20代会社員でも適正家賃内。通勤時間20分程度というのも十分可能だ。通勤時間を短縮したいと考えるのであれば東京メトロ沿線も含めて、物件探しをしてみてはどうだろう。