2025年には、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になります。30~50歳の子どもたちが直面する「親の介護」問題は、深刻化していく一方です。在宅介護、老人ホーム…選択肢はいくつか考えられますが、まずはプロとして介護に携わっている人の声を聞き、将来に備えましょう。本記事では、地域福祉の発展に貢献する、社会福祉法人洗心福祉会の理事長・山田俊郎氏が、介護業界の現状を解説します。

「規則でできないんです」に憤慨する高齢者の方々

利用者への責任感が信頼関係を生む 津中央ヘルパーステーション

 

【トラブルを信頼関係に変えるテクニックを身につける】

●現場とステーションの連絡を密にとる

●臨機応変、柔軟な対応を身につける

●明日はどうなるかを考え、利用者との関係を結ぶ

 

◆できることとできないことは柔軟に線引きする

 

ホームヘルパーの仕事では、施設介護とは違うトラブルが起こりがちです。

 

たとえば、介護保険サービスの規則では、掃除は利用者が使う部屋やトイレなどの共用部分のみとされているので、ほかの家族と同居している場合、基本的には台所や玄関などは掃除することができません。それについては、ケアプランを定める際に利用者とその家族に確認をし、理解を得ていますが、時間が経つにつれてうやむやになってしまうこともよくあります。

 

気心がしれてくると、「ついでにここもお願いしていい?」といわれることがあります。その際に「規則でできないんです」というと、ときに「そのくらいのことができないのか!」と気分を害されてしまう場合もあります。

 

「そのくらいのことができないのか!」
「そのくらいのことができないのか!」

 

そういう場合、現場のホームヘルパーと利用者の関係が崩れてしまわないよう、ヘルパーステーションを活用します。ホームヘルパーは返答に困ることがあれば、ステーションに連絡をして、管理部門の職員に断ってもらうようにすることが大事です。嫌われ役はヘルパーステーションが担い、現場スタッフが利用者の反感をかうことがないようにします。

 

また、すべてをマニュアルどおりにするのが必ずしもよいとは限りません。たとえば、台所の拭き掃除はホームヘルパーの仕事ではありませんが、食べこぼしがあれば、自然と拭いてしまうはずです。玄関に砂埃がたまっていたらササッと簡単に掃き掃除をすることは、利用者の安全を確保することにもなります。

 

こうしたことは、現場で個々のホームヘルパーが臨機応変に判断し対応しますが、疑問に思うことはすべてステーションに報告をし、定期的なヘルパー会議の議題としてほかのホームヘルパーとも共有します。

 

◆「自分が必要とされている理由」と責任感でトラブルを乗り切る

 

現場での心構えとして「なぜ、ホームヘルパーがここに派遣されているか」という存在意義を考えることが大事です。ヘルパーの存在価値は、在宅生活で不自由を強いられる利用者や、大変な思いをして在宅介護をする家族を支援することにあります。その責任を忘れてはいけないのです。

 

あるホームヘルパーが担当した、脳梗塞を患って退院したばかりの70代の男性は、脳障がいの影響もあり、言語障がいと拒否反応が強い人でした。排泄介助をしようとしても、布団を蹴飛ばして、介助をさせてもらえませんでした。

 

見かねた家族から「私がやりますから帰ってください」といわれましたが、担当したホームヘルパーは家族ができないからこそ、自分たちホームヘルパーに委ねられているのだと考え、「お気に召さないことをしてしまったんですね、すみませんでした」「つらかったですよね」と繰り返し、介助を続けました。

 

するとそのうち、ふと空気が和らいで、お尻を上げる協力動作をしてくれたそうです。

 

トラブルが起こると「ここでやめて帰ってしまいたい」と思うものですが、そこで帰ったら、利用者との関係は今日で終わってしまいます。私たちの仕事に明日やればいいということはありません。

 

ホームヘルパーが担当する利用者はさまざまです。加えて、日によって利用者の体調や気分も違います。ホームヘルパーには、利用者が何を求めているのか、なぜそれを求めるのか、今どんな気持ちなのかを正しく理解した上で、臨機応変に対応する柔軟な判断力が必要になります。

シェルター的役割を果たす「小規模多機能型居宅介護」

小規模多機能型居宅介護 地域の暮らしを支えるオールラウンダー

 

●「通い」「宿泊」「訪問」3つのサービスを柔軟に組み合わせ可能

●どのサービスもなじみの職員から受けられるので安心

●地域と積極的にかかわる姿勢と幅広い知識・経験が求められる

 

◆近年注目されている小規模多機能型居宅介護

 

小規模多機能型居宅介護は、2006年にスタートした介護サービスです。要支援1から要介護5まで、幅広い利用者が住みなれた地域で自立した生活ができることを目指し、施設への「通い」、短期間の「宿泊」、自宅への「訪問」といったサービスを組み合わせて提供しています。

 

つまり、通所介護を中心に、ショートステイとホームヘルパーの3つを組み合わせたようなものと考えることができます。それぞれの回数もケアマネジャーと自由に調整できるため、利用者のさまざまなニーズに柔軟に対応できます。また、生活困窮者や介護虐待がみられる場合のシェルター的な役割を果たすことも可能です。

 

[図表]小規模多機能型居住介護

 

◆柔軟な対応ができる分、幅広い知識が身につく

 

通常の訪問介護や通所介護などよりも時間の規定が厳格でないため、利用者の希望に応じて柔軟に対応ができます。たとえば、定期的な安否確認、服薬介助だけの短時間の訪問、体調不良による突発的な訪問、入浴・食事の時間のみの通いなど必要なサービスのみを短い時間だけ提供できるのです。急な受け入れや、突発的な要望にも対応しなければならないため、職員間の連携や協力体制が必要となります。

 

また「通い」「宿泊」「訪問」の3つのサービスは、同じ施設の職員が利用者のニーズに合わせて対応します。その分、介護職員は幅広い知識が必要となりますが、現場で経験を積みながら、自然と身につけていくことができます。

 

◆地域密着である分、利用者の生活歴を把握し密なコミュニケーションをはかる

 

住み慣れた地域での暮らしを希望する利用者にとって、必要なのは「地域密着型」の支援です。多くの人にこのサービスを知ってもらい、利用してもらうこと、さらに利用者一人ひとりに寄り添ったサービスを提供することで、安心・安全な生活や人間関係、生きがいを提供することにつながります。そのためには、職員一人ひとりが利用者の生活歴を知り、急な要望にも応えられるようにしなければなりません。また情報の共有、職員の連携も必要になってきます。

 

私の法人の小規模多機能型居宅介護施設では、朝礼・夕礼、業務日誌、連絡ノート、ケースファイルなどを活用して、常に最新の情報を共有・確認できるように努めています。緊急時には職員連絡網を活用し、職員同士が率先して連絡をとり合い対応しています。

 

在宅で暮らす高齢者の生活は毎日変化します。そのため利用者の状態を把握することは、在宅での生活を維持する上で必要不可欠です。利用者のリアルタイムな情報を職員同士で共有することが、柔軟な小規模多機能型居宅介護サービスを提供する上で重要になります。

利用者満足度100%を実現する 介護サービス実践マニュアル

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山田 俊郎

幻冬舎メディアコンサルティング

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