中小企業の人手不足が深刻化しています。2018年上半期における「人手不足倒産」の件数は3年連続で前年同期を上回り、2013年1月の調査開始以降の半期ベースでも最多を記録しました。中小企業が生き残るためには、まずは冷静に問題点を分析することが求められます。そこで本記事では、株式会社k・コンサルティングオフィスの代表取締役・中西宏一氏の著書『粗利「だけ」見ろ 儲かる会社が決して曲げないシンプルなルール』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、日本企業の問題点について解説します。

見解がわれる疑問「なぜ利益が出ないのか」

毎年毎年、1万社前後の会社が倒産しています。単純計算すると1日に20数件の倒産です。倒産件数としてカウントされず、経営不振によって休業・廃業していく会社を入れれば、その数はさらに何倍にもなります。

 

また、存続している会社も経営状態がさまざまで、何十年にもわたって安定的に経営が続いている会社があれば、その一方には赤字がかさんで風前の灯の状態になっている会社もあります。

 

直近のデータを見ると、日本の会社の6割から7割は赤字経営となっています。その中には、営利目的ではないNPO法人も含まれますし、節税や税金逃れを目的にあえて赤字にしている会社もあるのでしょうが、倒産予備軍の会社も決して少なくないと思います。

 

なぜ経営不振に陥るのでしょうか。答えは簡単で、利益が出ないからです。このことは、社長であれば誰でも認識しているでしょうし、社長ではない人でも感覚的に理解できるはずです。では、なぜ利益が出ないのでしょうか。ここは意見が割れるところです。

 

「景気が悪い」「業界環境が悪い」といったマクロ要因や外的要因を挙げる人もいますし、「人が足りない」「ヒット商品が出ない」といった社内の要因を挙げる人もいます。ただ、そういった要因は経営不信の表面的な問題であり、本質ではないというのが私の考えです。

 

利益が出ない根本的な原因は、利益率が低い仕事や、最終的に利益がマイナスになる仕事でさえも引き受けているからなのです。

日本ビジネス界にまん延する「売上至上主義」という病

たくさん仕事を引き受けることや、たくさん売ることは、一見、利益を増やすことに結びつくように見えます。しかし、イコールではありません。

 

コンサルタントとして経営改善の現場に赴き、いろいろな会社、いろいろな社長と話をする際も、そのことを分かっていない社長はかなり多いように感じます。「売上さえ増やせば自然と経営は上向く」そんな風に考えている人がたくさんいるのです。

 

こういった考えは、一般的に「売上至上主義」と呼ばれています。「とにかく売上を増やせ」と口癖のようにハッパをかける社長がその典型といえるでしょう。私が知る限り、そのやり方で経営状態が良くなった会社はありません。

 

むしろ、日常的に「とにかく売上を増やせ」と言われることによって、営業社員も生産現場の社員も疲弊し、結果、安売りによる薄利が続き、経営状態がさらに悪くなります。

 

今のところ経営が安定している会社でも、この思考に陥っている社長が多いかもしれません。例えば、前期の売上が10億円だったとしたら、利益のことはあまり考えず、多くの社長が「今期は12億を目指そう」と考えます。

 

また、私は仕事上、経営改善の過程で金融機関の人や税理士さんたちと会うことが多くあり、彼らの中にも、「まずは売上を増やすことが必要だ」と考える人たちが大勢いるのです。

 

会社に必要なのは利益ですから、売上の増減は実は重要ではありません。しかし、銀行の担当者からは「なぜ売上が減っているのですか」「売上が減った理由をちゃんと説明してください」と聞かれます。

 

利益が上がり、会社が立ち直ったにもかかわらず、まるで経営が悪化したかのような扱いで売上が下がったことを問題視するのです。そういう状況を踏まえると、もはやこの売上至上主義というものは日本のビジネス界にまん延する病といってもいいかもしれません。

 

「売上至上主義」という病
「売上至上主義」という病

「売上至上主義」は歪んだ経営方針でしかない

冷静に考えれば、売上至上主義が歪んだ経営方針であることが分かるはずです。なぜなら、企業が生き延びていくために必要なのは利益であって、売上ではないからです。

 

仮に売上1億円の仕事を引き受けたとしても、原価が1億円掛かるのであれば利益はゼロです。なかには、売上以上にコストが掛かる仕事を引き受けて、利益がマイナスになっているケースもあります。そういう仕事が増えるほど、経営が苦しくなるのは当然です。

 

社員としては、仕事そのものは増えていますが、会社としては利益が出ていないので、どれだけ頑張っても給料は増えず、自然とやる気も低下します。

 

社長としても、利益が出なければ社員の給料だけでなく、自分が受け取る役員報酬を増やすこともできません。それどころか、運転資金のために借金を続けなければならず、そのせいで精神的な負担もかなり大きくなります。創業社長もその職を引き継いだ人も、利益がなければ経営が苦しくなることは認識しているはずです。ならば、経営は利益があってこそ成り立ち、利益を得ることが経営の主たる目的であることも分かるはずです。

 

しかし、なぜか利益ではなく売上の数字を目標にします。利益ではなく売上に目を向けた経営をします。そもそも経営に対する根本的な視点がズレてしまっているため、自分で自分の首を絞めることになるのです。

「売上規模しか公表されない」事態が、悪循環を生む

なぜそこまで売上に目が向いてしまうのでしょうか。理由はいくつか考えられます。まずは単純な理由として、売上が多いほど会社の規模が大きく見られるという実態があるからだと思います。

 

上場企業の場合は売上のほかに利益なども公表されるわけですが、世の中の会社の99%以上は資本金3億円以下の中小企業で、売上規模しか公表されません。つまり、売上を増やすことが会社を大きく見せる唯一の手段になっているため、社長や経営陣が「売上を増やそう」という意識を持ちやすいのです。

 

業界によっては、規模が大きい方が仕事を取りやすくなるといった現実があります。しかし、そのために売上を追いかけるのであれば、その弊害も考えなければならないでしょう。仮に売上が1億円増えたとしても、その1億円が利益を生まないのであれば、社員は無駄に忙しくなります。

 

忙しくなればミスが出やすくなり、仕事の質も落ちやすくなります。その状態で新たな仕事が取れたとしても、仕事の質が悪ければかえって評価を落とします。それならば、利益が得られる仕事に絞り、質の高い仕事をする方が、結果として会社の評価を高める近道になると思うのです。

「経営陣の自己満足の追求」になっていないか?

社長の中には、競合他社の売上高を過剰に意識する人もいます。また、売上高の桁数や節目にこだわる人もいます。例えば、自社と競合の売上が5億円で競っているときに「売上を8億円まで増やして一歩抜け出そう」と考えるようなケースです。

 

桁数や節目というのは、現状8億円の売上を10億にしよう、26億円を30億にしようと取り組むことで、このパターンもよく見られます。社長としては、売上規模で競合を上回ったり、売上の桁数が変わることにより、自社を取り巻く環境や、業界内での立ち位置が変わるはずと考えるのかもしれません。

 

「競合より売上が多ければ競争が楽になる」「規模が大きいほど受注量が増える」そんな風に考えるのでしょう。そう思うから、余計に売上至上主義に陥るのです。

 

しかし、実際にはそんなことはありません。仮に売上8億円の会社が10億円になったとしても、社長さんたちが思っているほど環境は変わらないのです。

 

単純に桁数だけで見れば一つステージが上がるかもしれません。しかし、上のステージにも競争はあります。そもそも、売上が増えても利益が付いてこなければ、経営が行き詰まって売上高も逆戻りします。

 

感情的な話として、売上10億円の会社となり、5億円規模の競合会社などから「すごい」と思われるのがうれしいのかもしれません。しかし、そんな小さな世界の評価にこだわっても意味がないと思うのです。

 

しかも、会社の経営状態は売上ではなく利益によって決まりますので、売上規模で競合に勝ったとしても、利益額で負けている場合もあります。厳しい言い方をすれば、売上を増やし、競合に対して優越感を持とうとする姿勢は経営陣の自己満足の追求でしかありません。

 

断言しますが、本当に経営を良くしたいのであれば、そういう無意味な争いはしない方が良いと思います。

 

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