緊急利下げでも米国株は大きく下落した
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大への懸念が強まり、金融マーケットが不安定な状況となっている中、アメリカの中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は3月3日午前(日本時間では3月3日夜)、緊急の追加利下げに踏み切りました。
FRBは臨時の会合を開催し、政策金利を1.00~1.25%のレンジにすることを全会一致で決めたのです。今回の利下げ幅は0.50%で、通常では0.25%ずつ利下げしたり、利上げしたりするケースが多いため、異例の対応と言えます。
この日、G7(主要7カ国)財務相・中央銀行総裁による電話会議が開かれ、景気への影響を抑えるため、協調姿勢を打ち出すことが決められました。緊急利下げはそれに沿ったもののようです。
3日のニューヨーク株式市場では、NYダウは寄り付き後に300ドル超の下げ幅を記録しましたが、この緊急利下げを好感し、いったんは300ドルの上昇に転換しました。しかし、プラス圏をキープし続けることはできず、株価上昇にアタマ打ち感が出ると再び売り圧力が強まったため、前日比785ドル安と大きく下げて、この日の取引を終えました。
FRBの緊急利下げにサプライズ性は薄かった!?
なぜ、米国株は大きく下落したのでしょうか。じつは、今回の緊急利下げにサプライズ性があったかと言えば、そうとも言えないのが正直なところです。
確かに、FRBが臨時会合を開いて利下げを決めるのは、リーマン・ショック直後の2008年10月以来、約11年半ぶりの「異例なこと」ですが、新型コロナウイルスの世界経済への影響は避けられず、各国の中央銀行は何らかの対応をせざるを得ないといった見方は、2月中からすでに市場関係者の間にありました。
トランプ米大統領が以前から「米国の金利は高すぎる」と繰り返し発言し、FRBの姿勢を批判しており、これも市場関係者の「利下げ観測」の背景にあったと言えそうです。
もともと、トランプ大統領の利下げ圧力は新型コロナウイルスの問題とは関係なく、利下げで景気を良くして(バブル状態にして)秋の大統領選に勝つというシナリオによるものでしたが、世界的な経済の失速懸念が強まっている状況下、FRBがトランプ大統領の利下げ要請にいずれ、応じざるを得ないとの見立ては広くありました。
加えて、日本や欧州など他の国・地域では記録的な低金利、金融緩和状態のままであり、日本銀行など、中央銀行にできる手段は限られてきます。この点で、これまでの利上げによって金利水準が上昇し、利下げ余地のある米国こそ、利下げ(金融緩和)→株価上昇→世界経済をけん引する(浮揚のきっかけになる)というシナリオを導いてほしいと思う市場関係者が多いのは、当然かもしれません。
日本株はしばらく上値の重い状況が続きそう
さて、日本の株式市場への影響は、どのようになるのでしょうか?
一般的に、中央銀行による利下げは景気を刺激するため、株にはプラスの話となります。FRBがさらに利下げ(金融緩和)を行い、米国株式市場が落ち着きを取り戻せば、日本株にもプラスという「方程式」が成り立ちそうです。
ところが、必ずしもそうとはならないかもしれません。
米国が利下げ(金融緩和)を行うということは、為替の話をすれば、米ドルが売られるということになります。資金は金利の高い通貨へと流れるため、米国が利上げすればドルが買われ(相手国通貨は売られ)、その逆ならば逆になります。
もちろん、日本円に対しても同様です。今回のFRB利下げでは、米ドル円でみた場合、米ドルが売られ、日本円が買われる、つまり、米ドル円は下落するということになります。3月3日の米ドル円は、アジア市場では108円台半ばで推移していましたが、この緊急利下げを受け、ニューヨーク市場では106円台後半にまで下落する場面がありました。円高になったのです。
ここからは、よく知られる話です。円高は日本の輸出企業にとって、マイナスの話です。大手の自動車会社では、1円の円高で利益が〇〇億円も目減りするといったニュースも見られます。
これまでは、強い米国経済が米国株を押し上げ、加えて、強い米ドルが米ドル円の上昇期待につながり、日本株にとって「望ましい状況」となっていました。ところが、新型コロナウイルスの登場で、状況は明らかに一変しています。
新型コロナによる混乱が収まり、それによって影響を受けた各企業の業績が回復するまで、日本株はしばらく上値の重い状況が続くとみておいたほうが良さそうです。
とりわけ、4月になって新年度に入ると、企業がどのような事業計画を立ててくるのか、どのような業績見通しを出してくるのか、それらを見極めたいとのムードがいっそう強まると考えられます。慎重な投資行動が求められると言えるでしょう。
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