米国のビジネススクールに「無試験で」入学できたワケ
私は楽天での16年間のうち、8年間は米国に駐在していました。米国では、楽天が現地で買収した2社の建て直しに携わり、共にとても大変なミッションでしたが、今思えば何物にも代えがたい貴重な経験で、楽天にはとても感謝しています。
幸い1社目の建て直しがちょうど落ち着いた頃、米国滞在中にビジネススクールに行って学びたいという思いがふつふつと湧いてきました。理由は、これまでやってきた国内外のビジネス経験をもう少し体系的に整理したい、網羅性をもって学びたいと思ったことがきっかけでした。
ビジネススクールを取得された方、目指された方はご存知かと思いますが、ビジネススクールの試験は一般的に、①TOEFL(一般的な英語力をはかる試験)②GMAT(授業に十分貢献できるだけの地頭をはかる試験)③エッセイ④インタビューの四つがあります。
MBAの準備はとても大変です。大多数の方は働きながら、この試験勉強の時間を確保しなければならず、たくさんの人が途中で諦めています。希望するビジネススクールにもよりますが、帰国子女でなければ、この受験準備に1年以上必要といわれています。
私は、米国滞在期間中に働きながら通おうと思っていました。また、すでに米国に来て2年のビジネス経験があったので、入学するための勉強に費やす時間はできる限り使いたくない、という強い思いがありました。そこで最初に考えたことは、そもそも一般的にいわれている入学試験の要件を疑ったことでした。
エッセイやインタビューはしょうがないけど、TOEFLとGMATの試験はもしかして必要ない学校があるのでは? もしくは、TOEFLとGMAT受験の目的は、学生が英語でちゃんと授業を受けられて貢献できることの証明のためだから、交渉すれば何とかなるのでは(免除してもらえるのでは)、と考えました。
思い立ったが吉日、私は早速、米国の主要なビジネススクールの全カリキュラムと試験概要を上位から一気に調べていきました。するとそこには、やっぱりあったのです。
英語力をはかるTOEFLは、英語を母国語としない国の受験生はどの学校も必須でしたが、GMATは条件付きで免除してもらえるビジネススクールがいくつかあったのです。
その中でカリキュラム内容、学校の特徴、教授陣の質を考慮して、二つのビジネススクールに興味を強く持ちました。その一つがDuke(デューク)大学でした。日本ではなじみが薄いかもしれませんが、米国ではよく知られている大学です。
早速、Duke大学のビジネススクールの事務局に連絡を取りました。こうしたときのフットワークが軽いのは自分の取り柄の一つです。そして、その連絡方法はあえてメールではなく、電話をかけることにしました。理由は、電話であれば自分がネイティブレベルではないものの、コミュニケーションとして英語が話せることをアピールできて、結果としてTOEFLの試験免除も交渉できるのでは、との狙いがあったからです。
ビジネススクールの入学担当者には、一通りビジネススクールのこと、そして入学試験の条件を説明してもらいました。ある程度調べておいたので把握はしていたのですが、Duke大学のビジネススクールは他と比べて米国内の生徒が多いこと、業界出身者は金融系のバックグラウンドの生徒が多いことを説明してくれました。それを聞いた私は、あらかじめ準備していた話をしました。
自分が入学すれば、アジア人としてのユニークさがあります(Duke大学は米国人比率が他校より比較的高い)。またインターネット業界出身で、日本企業が米国で事業展開しているので、グローバルな視点があります。したがってクラスに様々なダイバーシティ(多様性)を持ち込むことができます。つまり授業に十分貢献できるから自分を入学させない手はないでしょ、ということを思いっきりアピールしたのです。
そのアピールの甲斐もあって、何とGMATもTOEFLも免除してもらうことができました。そして無事にDuke大学のビジネススクールへの入学許可もいただきました。
自分がなぜこういう行動を取れたのかを振り返ると、楽天の国際部時代の最も尊敬する恩師から教わった言葉があったからです。それは、「目的は一つ、手段は無数。既存のやり方だけがすべてではない」という言葉です。
このフレーズを何度も何度も念仏のように頭に叩き込まれました。これは、私が改善のプロジェクトで一つのやり方にこだわりすぎて本来の目的を見失ってしまっているときに、よく言われた言葉です。この言葉はビジネスシーンでよく使っていましたが、今回のように、自分がビジネススクールに入学したときも活用できました。
私のビジネススクールのケースは、米国に駐在していたことで有利な面があったと思います。ただ重要なのは、どうやったら最短でビジネススクールに入れるか、皆と同じアプローチを取らずに、最短距離を考える。目的はひとつ、手段は無数。目標達成のすべてにおいて、言えることだと思います。
◆楽天で学んだ達成力+α
手段にこだわりすぎると目的を見失う。「手段の目的化」というワナに気をつける。
会社での評価は「最初の3か月で決まる」と思え
楽天時代に一緒に働いた仲間から教えてもらった言葉の中でも印象的なものの一つは、「新しい環境に飛び込んだときには、最初の3か月で必ず結果を出すことが重要」という言葉です。
とくに私は、企業の建て直しや、短期間での改善活動のプロジェクトに入ったこともあり、まさにその通りだと体感しています。自分の体験から考えてみて、理由は主に三つ挙げられます。
一つ目。3か月というのは会社で考えると四半期分であり、目標や予算は月単位で設定されているので、3か月あれば3回の経験ができます。私自身は、日米でオペレーション(日々の業務)の改善プロジェクトに何度か携わりました。何かのオペレーションを変えて、その結果を見ようとするときに、すぐに結果がわかるものもあれば、効果測定の関係ですぐに見ることができないものもあります。
自分たちはインターネット業界ということもあり、ほとんどのことは1か月あれば何らかのアクションを打って結果を見ることができます。仮に1か月目で結果が出なかったとしても、3か月あれば3回トライできます。もしくは少しやり方を変えてみて何度か試してみれば、当初の仮説が大外れしていなければ、たいてい良い結果は出せます。
私が行った改善活動の一つに、米国のオンラインマーケティング会社の、新規クライアントのオープンリードタイム(契約をしてからビジネスを開始するまでにかかる時間)短縮プロジェクトがありました。これは、新規ビジネスオープンまでのプロセスを見える化して、期間短縮のために、速くやれるもの、同時にやれるもの、やらなくてよいものを洗い出して、一気にリードタイムを短縮するものでした。
この作業は元々30日間のリードタイムがかかっていました。これを3か月間で、ちょうど3回試すことができて、25日、20日、そして最後は14日まで短縮することができました。この改善は、事前の準備やオペレーションの変更と効果測定の期間を考えると1か月は必要でした。しかし、3か月あったので何度も改善にトライすることができました。
二つ目は、3か月あればあなたがその組織の新顔であっても、組織のメンバーと十分なコミュニケーションを取ることができる点です。コミュニケーションの取り方は色々あります。仕事上やプロジェクトを通じてのコミュニケーションもありますし、ランチや夜飲みに一緒に行くこともありです。もし共通の趣味やイベントがあれば、週末にでも一緒に行くことができます。
3か月というと、ランチ、飲み会合わせると最大60回、週末も12回あります。このチャンスをどのくらい、誰のために使うかはその人次第です。忙しくて、毎日コンビニでランチ、などとなりがちになりますが、仕事においてはコミュニケーションがすべてだと思います。そして、3か月あれば十分な関係性をつくることができます。
また、3か月あれば組織内でのビジネスに関してのトラブルも起こります。そのピンチをあなたが救うことができれば、もしくは、チームメンバーと一緒に解決することができれば、それはあなたの信頼を得る最高のチャンスに様変わりします。これが三つ目の理由です。
私は常々、人間はピンチのときにその人の本性が出ると思っています。つまり、ピンチで逃げ出したいとき、自分に火の粉がかかってきそうなときにどれだけそのプロジェクト、チームのために飛び込めるかがとても重要です。そしてそのときに逃げずに対峙すると、必ず周りの人は見てくれているものです。
この三つのポイントから、最初の3か月間はとくに必死に目の前の目標やプロジェクトに力を注ぎ、周りのメンバーから信頼を得て、小さくてもよいので成果を早く出すことが、その後に成功するためにとても重要な要因といえるのです。
◆楽天で学んだ達成力+α
とくに大切なことは、結果を出しても自分がヒーローになるのではなく、周りをヒーローにすること。
小林 史生
株式会社鎌倉新書 取締役執行役員