「ノリのいい人」は初動が速く結果も出やすい
楽天で結果を出し続けている人は、100%ノリがいい人です。つまり、目標達成する力とノリに、相関関係があるのは間違いないと思います。なぜかを少し考えてみると、おそらく楽天のスピード感についていくためには、いちいち細かいことを考えている暇がないことが考えられます。
つまり、ネガティブに考えているよりも目の前に与えられた課題やチャレンジをどうやって打ち返すかを考えたほうが、100倍生産性があるという視点です。そしてそう割り切れる、ノリのいい人は初動が速く、当然結果も出やすいはずです。
振り返ると、私自身の楽天での役割の変更、人事異動はいつも唐突でした。たとえば東北支社への異動のケース。これは楽天がプロ野球に参入した年に、急きょ東北支社を仙台に立ち上げるため異動になりました。
実はこのとき、東京で今の妻と知り合い同棲をすることになり、恵比寿でマンションを借りました。そして恵比寿に引っ越した3日後に、恩師の一人である当時の営業トップの方から夜中、急に呼び出されました。待ち合わせの場所に行ってみると、明日から仙台に常駐で行ってくれ、との辞令でした。あまりの衝撃でしたが、同棲先に送った私の段ボールを開けず、仙台にそのまま送った覚えがあります。
米国のオンラインマーケティング企業の建て直しのため、ニューヨークへの駐在指示が出たときも同様です。当時は欧州の事業開発のため、ルクセンブルクに欧州本社を設立するプロジェクトを担当していました。そのため、将来的には自分はヨーロッパに駐在できればいいな、とひそかに期待していました。
しかし、ヨーロッパ出張から帰国した翌日、ニューヨークの会社の建て直しに来週から行くように、との一言で、ニューヨークに異動になりました。ニューヨークの会社からカリフォルニアの会社へ異動したときも、同じく会社の業績が良くなってきて、少しニューヨークでプライベートも楽しみたいな、と思っていた矢先でした。
今週でニューヨークの仕事はすべて引き継いで、来週からカリフォルニアの任務で、よろしく、と一言だけでした。当時は、妻と子供がいます。でも、そんなノリなのです。
私の場合は、妻がとても肝が据わっている女性で、かつ楽天市場の出店者だったこともあり、こうした楽天の急な変化にも、文句の一言も言わず前向きにとらえてくれたことは、とても感謝しています。
ノリのことをもう少し深く考えてみます。
ノリが必要な状況というのは、数値や根拠に基づいた意思決定ができないときだと思います。そのときに、人間は一般的に不安になり、その決定をしないことによる、何も起こらない方向に向かおうとするものだと思います。
そのため、放っておくとネガティブに考え結果としてノリが悪くなるのでしょう。このときに何とかなるはず、と言い切れるかどうかがノリのよさだと思います。そして、ノリがよい人は、まずYESと言って、それからできるやり方を考えるわけです。
そのため、周りの使えるものをすべて使ってでも何とかしよう、という思考になります。孫子も、「善く戦う者は、これを勢に求めて人に責めず」(戦上手は、何よりもまず勢いに乗ることを重視し、一人ひとりの兵士の動きに過度の期待をかけない。最も大切なのは、組織全体を勢いに乗せることである)と言っています。まさにその通りだと私も信じます。
やはりノリは何よりも大切です。
◆楽天で学んだ達成力+α
ノリがよいほうが、新しい価値観や異なる世界の人に会う機会が圧倒的に増える。問題解決のカギは「因数分解」
楽天社内にいると、普段最も聞く言葉の一つが、「因数分解」です。これは簡単に言うとビジネスを構成している要素をバラバラに分解することです。
一般的にはKPI(Key Performance Indicator)を設定するとも言われます。ただ、色々な企業に入り込んでコンサルティングをした経験がありますが、この言葉や、やり方自体は知ってる企業は多いものの、しっかりと結果につながるまで徹底してやっている企業はあまりないというのが私の印象です。
因数分解についての例をまずは一つ。あなたがインターネットショップで、ある商品を販売しているとします。そして月商1000万円の現在の売上を1年後に2000万円にしたいと思います。つまり、売上2倍が目標です。かなり難易度が高く感じられるかもしれません。おそらく広告費を2倍投下する、といった施策に走るかと思います。
この事例を因数分解する際には、そのときにまずインターネット上の売上の構成要素が何から成り立っているかを考えます。
そうすると、一つの例としては売上1000万円=アクセス人数(サイトに来た人の数)×転換率(来た人が購入につながる確率)×客単価(一人当たりの平均購入単価)というふうに、三つに因数分解ができます。
この因数分解は、ほかにも様々な角度から分解できます。違う視点で見ると、売上1000万円=客数(購入したお客様の数)×購入頻度(購入してくれる頻度)×客単価(一人当たりの平均購入単価)という形にも因数分解できます。
厳密には因数分解ではなく分解になりますが、売上1000万円=新規顧客の売上+既存顧客の売上というように分けたり、売上1000万円=商品Aの売上+商品Bの売上+商品Cの売上と分けてみたりと、色々な分解方法があります。
先ほどの売上1000万円=アクセス人数×転換率×客単価とした場合、2倍にするやり方は、この三つのどれか一つのレバーを2倍にできれば、売上は2000万円になります。一方で、一つのレバーを2倍にしなくても、各三つのレバーを1.3倍にすれば、それでも2.2倍になります。各レバーを1.3倍にすることは、一つを2倍にするよりも容易なケースが多いでしょう。
また状況によっては、単価は絶対に上げることができない、ということがあるかもしれません。その場合は、アクセス人数と転換率の二つのレバーで何とか2倍に持ちあげる必要性があります。
もしくは、先ほどのように異なる方向に分解して違うレバーを上げられないか、と考えることもできます。こうして因数分解することが「ステップ1」であれば、どのレバーがどのぐらい上げられるかを考えて数字、つまり目標数値を入れることが「ステップ2」です。
この目標数値を入れるときも、様々な考慮をする必要性があります。たとえば、現状の実力を把握するために直近3か月の数字はどうだったのか? また季節要因の影響を受ける場合は、去年の同月の数字がどうだったのか? などの状況把握を正確に行います。それに対して、最も達成確率が高くなるように、各レバーの目標数値を設定するのです。
「ステップ3」はアクションの洗い出しです。楽天では上げるべきそれぞれのレバーのためのアクションを一つではなく、二つ三つ、多いときは10ほどのアクションを洗い出します。一つのアクションがうまくいかないこともあるので、2手目、3手目を打てるようにしておくため徹底的なアクションの洗い出しが、実はとても重要です。
最後の「ステップ4」は、日付を決めて粛々とやることです。ここから先はその人、その部署、その会社のオペレーションの強さにかかわってきます。重要なのは、高速にPDCAサイクルを回してやり切り、期限を決めて結果が出るまで信じて粛々とやる。あくまで因数分解は、アクションを決めてPDCAを高速で回すこととセットです。
これを踏まえて、とにもかくにも因数分解から入りましょう。
◆楽天で学んだ達成力+α
因数分解をマスターすれば、問題の50%は解決したも同然。なぜなら課題が見えれば、あとは対策だけだから。
小林 史生
株式会社鎌倉新書 取締役執行役員