楽天大学の講座で学んだ「コーチングメソッド」
◆楽天大学の「FAB」で学んだ「B」の威力
楽天には、楽天大学という部署があります。
楽天大学は、主に楽天市場の出店店舗向けに、インターネットで商品を売るための様々なノウハウを講座として提供しています。
現在では、オンラインクラスといった形に進化しているようですが、私が楽天市場に在籍していた頃は、楽天のオフィス内で講座を開いており、店舗さんに会社までお越しいただいていました。
この楽天大学にはとても優秀な学長がいて、様々なクラスがあります。それぞれマーケティングの基本をしっかりと押さえたオリジナルカリキュラムで、一方的に知識を教えるというよりも、今でいうコーチングのメソッドが使われています。そのため楽天市場の店舗さんに受講いただくと、「目からウロコ」とおっしゃる方々が続出していました。
今では楽天大学という部署に何人もの講師専門の方がいると思います。
が、当時は余分な人もいないため、ECコンサルタントが講座の販売をして、しかも自ら講師もするという状況でした。おかげで私も、楽天大学の初期の講座はすべて講師をすることができるまでになりました。
また当時、楽天大学の講師は講座終了後に講座内容に関する満足度についてスコアをつけられていました。それが社内で共有されるわけです。そのため、講師は受講者の満足度を高めるのに必死でした。
ひどいスコアだと、人に見せたくないものです。そのため本当に初めての講座をするようなときは、日中の営業でくたくたになりながら、夜に徹夜して必死に練習しました。
商品ページに記載するべき「FAB」とその順番
楽天大学は、店舗さんの運営の課題に関する気づきやヒントを提供できていて、店舗さんにとって意味のある仕組みで私は大好きでした。自分の担当する店舗へのコンサルティングにも活用できました。
数ある講座の中に、「魅力的な商品ページのつくり方」という講座がありました。その中で、FABという話があります。ネット販売において、商品の記載されているページは、お店でいうと、お客様への接客の場です。
FABとは、「Feature(特徴)、Advantage(差別化)、Benefit(その商品の先にあるメリット)」の略で、これらの情報をしっかりと商品ページに載せましょう、という話に加えて、一つとても重要なポイントがあります。それは、このFABにかかわる情報の順番です。
Benefitから記載をして、その後、Advantage、Featureというのがキーなのです。
つまり、ページ上でいきなり他より安いとか商材の質がダントツ(Advantage)、とかとても軽い素材を使っています(Feature)、などの差別化ポイントや特徴をアピールする前に、その商品を購入した先にあるメリット(Benefit)をまず最初に伝えましょう、ということです。
メリット(Benefit)とは、たとえばその商品を購入すると家族の団欒の場がつくれて皆さんの楽しい笑顔のイメージができたり、恋人とのデートで素晴らしい時間を過ごせる、などです。そのメリット(Benefit)を何よりも先に、ページの冒頭で画像やキャッチコピーでしっかり伝えることが重要、という話です。
今でいうリスティング広告などのランディングページは、ほとんどこのアプローチが取られています。結果にコミットする流行のダイエットプログラムのサイトなどでは、最初にこのBenefitをしっかりと出しているのがよくわかると思います。
営業活動でも活かせる、「FAB」を用いたアプローチ
これは、楽天大学の商品ページのよさを引き出す話ですが、実はこのFABの手法は、当然のことながら営業活動でも大いに役立ちました。また今でもよく使います。
たとえば私は、楽天市場でECコンサルタントをしていた時代、店舗さんへの広告販売目標を毎月達成し、未達のことは一度もありませんでした。
その勝因の一つに、営業時でもまず、FABのBenefitから伝えていたことがあります。
広告枠を購入したことがない店舗さんには、いかにこの広告枠が他の広告枠より良いか、いかに値段的にお得か、を伝えても、広告の必要性を感じない人には、まったく刺さりません。
なので、まず相手の方が中小企業や創業間もない社長であれば、広告がうまくいって事業が成功してまとまったお金が入ったらどうしますか? 会社のかっこいい車を買いますか? 社員みんなでハワイ旅行に行きますか? といった話で一緒に盛り上がります。そう、Benefitを想起させるわけです。
もし相手が会社の管理職の方であれば、大手小売業を営まれている企業内では当時、ネット通販事業は窓際族になりかけている人が行く部署というイメージがありました。
なので、〇〇さん、ぜひここでガツンと成果を出して、会社の主流事業の人たちを見返したいですね。見返す方法はどういうのがあります? 社内の評価制度ではどういう成果が出せれば最高ですか? 次の最短のタイミングはいつですか? などなど。
これはつまり、本人にオーナーシップを持って行動をしてもらうためのBenefitの想起です。
ここで前向きになれば、次にその広告がなぜ一番良いか、つまりAdvantageの話になります。ここまでくればもう広告販売は間違いなくできます。
こうしたFAB、とくにBenefitを相手に想起してアクションを起こしてもらうアプローチは、明日からすぐに成果を出せる営業のアプローチとして非常に有効です。
◆楽天で学んだ達成力+α
FABの手法は、人材モチベーションのマネージメントにもまるごと適用できる。
初期の楽天で行われていた「営業研修」の内容とは…
◆本当に求めていることに商売のチャンスがある
楽天の営業研修は、非常に学びが多かったです。
楽天という会社が大きくなるにつれ、そのつど中途入社の方が色々な会社の素晴らしい考え方や手法を持ち込んでくれて、やり方が形成されていったところがあります。今は、しっかりと体系だった研修があると思いますが、私の入社当時は手づくり感が満載でした。その中で、面白い内容の営業研修をやっていましたので、一例をご紹介します。
この研修内容も、ベースは中途で入社した優秀なメンバーが前職から持ち込んでくれました。
「あなたは、とても忙しい営業マンです。ある日、1か月前から妻と一緒に予約を入れていた今晩のディナーを、急な仕事の関係でキャンセルしなければいけませんでした。その日の夜遅くに家に帰ってきたあなたは、涙目で明らかに怒っている奥さんから、究極の質問をうけます。
『あなた、私と会社どっちが大事なの?』。人によってはよくある光景かもしれませんが、あなたはどう答えますか?」という質問。
答えは以下から選択してください。
①何言っているんだよ、君に決まっているだろ。
②何言っているんだよ、仕事があるから今の生活ができているんだよ。
③仕事と君は比べるものじゃないよ、そんなこと言わないで。
実はこの研修では、回答は、1でも2でも3でもなく、4があるというオチがあります。
1を選んだ場合、「じゃ、なぜ私を選ばなかったの?」とさらに怒りが爆発して、解決しません。2を選んだ場合、火に油を注ぐとはまさにこのこと。おそらく大ゲンカになり修復不可能な局面を迎えることでしょう。
3を選ぶ人は多いのですが、これも「それは回答になってないわ、私と仕事どっちが大事なの?」という無限ループに入ってしまいます。つまり、解決策は見えません。
実は回答となる4は、「君はあのディナーをずっと楽しみにしていたよね。怒る気持ちはとてもよくわかるよ。さみしい思いをさせてしまいごめんね。本当に申し訳ない」です。この質問と回答4のポイントは、妻は質問に正確に答えてもらいたいわけではないのです。
彼女の本質は、仕事を選ばれてしまった悔しさを、誰かにぶつけたい、わかってもらいたいのです。なので、1も2も3も、質問に真正面に答えようとしています。
4はそうではなく、彼女の本質の悩み、寂しさを理解して、それに対して回答していることになります。
相手の本当の悩み・課題が何なのかを捉える「傾聴力」
世の中に、「傾聴力」という言葉があります。
そして、傾聴力は、耳を傾けて相手の話をじっくり聴く力と定義されることがあると思います。ただ、本当に重要なのは、相手の話を聞きながら相手の本当の悩み・課題が何なのかの真実が瞬間垣間見えるところをとらえることです。そして、その本当の悩みに対して、ほしい回答を提供するということです。
楽天だけでなく、世の中で目標を確実に達成している人は、社内外に対してこうした高い傾聴力を身につけています。それはここ一番の交渉事であったり、メンバーのマネージメントであったり、色々なところで威力が発揮されます。
余談ですが、私がこの営業研修の講師として立っていたときに、傾聴するときにやってはいけない例として、以下のことを伝えていました。
楽天市場の店舗さんからお電話いただくと、「小林君、昨日、楽天ホークス、接戦で最後逆転勝ちしたね、いやー、いい試合だったよ」といった会話があったりします。この場合、「楽天ホークスじゃなくて楽天イーグルスですよ!」と間違いを訂正される方がいると思います。
ただ、そこは訂正する必要性はないのです。
その店舗さんの中で、楽天イーグルスと福岡ソフトバンクホークスが混ざったことは明らかなので、そこで話の腰を折ってまで修正する必要性はありません。むしろ「そうなんですよ、楽天ホークスの勝利に僕も小躍りしてました!」ぐらいがよいと思います。
ただ後々のことを考えて、話の最後に「そうですね、これからも楽天イーグルスをよろしくお願いします」というようなさりげない気づきを提供することもよいかもしれません。
◆楽天で学んだ達成力+α
傾聴のキモは、相手が言ってもらいたいと思っていることをとらえて、言ってあげること。
小林 史生
株式会社鎌倉新書 取締役執行役員