新しいアイデアを取り入れる「カルチャー」がある
◆アナロジー発想で新しいやり方を試す
楽天がこれまで成長し続けた理由の一つに、中途社員として新しく楽天に加わった優秀な方々が、新しいサービスアイデアや導入手法、そして仕事のやり方を異なる業界から持ち込んできてくれたことが挙げられます。
同時に、そういった新しいアイデアをどんどん取り入れる柔軟性のあるカルチャーがあることも成長し続けている大きな要素だと思います。
たとえば、楽天スーパーポイント。発想は三木谷社長だと思います。ただ、この導入時の設計やプロモーションの考え方は、百貨店で活躍されていた数名の方々が楽天に入社し、リアルの百貨店のポイントの付与や充当、そして、会員プログラムの設計等を非常に参考にされていたと記憶しています。
また、楽天市場の店舗さん向けのプロモーション広告販売は今でも楽天の大きな収入源の一つです。これも広告販売の仕組み、社内プロセスの整備は、リクルートで大活躍されていた方が持ち込まれたと記憶しています。
もう一つ。楽天の店舗サポート体制が大きく改善されたのは、店舗カルテと呼ばれる店舗さんの売上状況を定量的に分析できるツールを作成したことにあります。
これによりサポート体制が大きく変わりました。この手法は楽天に入社した銀行員の方が、中小企業の融資を前提としたサポート手法の一環として、銀行スタイルを持ち込んできてつくられたと記憶しています。
当時は意識していなかったのですが、こうした他業界・他業種でうまくいっているやり方を導入することは、まさにアナロジー発想なのだと思います。
アナロジーとは、日本語だと「類推」と訳されます。ここでの考え方は、新しいアイデアをまったく異なる業界や仕事から引っ張ってくるイメージです。その借りてくる業界が、遠ければ遠いほど、新鮮さとインパクトが大きいと思います。
逆に、近くからだと、あまり新鮮さもないですし、そういった場合はすでに誰かが導入しているケースが多いようです。
グルメ事業部時代、流通総額にインパクトを与えた発想
私も、今ここで述べたような大きなインパクトのあるものはなかったかもしれませんが、グルメ事業部時代は、オフラインで行われているサービスを取り込むことに人一倍気をかけていました。
生まれ年のビンテージワインを各生まれ年でセグメントしてメルマガで配信をしたり、今では当たり前ですが、お中元・お歳暮の時期の送付先リストのオンライン登録サービスなどをリアルの世界から持ち込みました。頒布会といった企画もオフラインから参考にして実施しました。
失敗したものもありますが、いくつかは楽天のグルメジャンルの流通総額に大きなインパクトを与えることができました。業界や業種によって異なるかと思いますが、いいアイデアというのは、ゼロから思いつくのではなく、既存サービスの掛け合わせといわれます。
目標達成のための打ち手に行きづまり、思考パターンがマンネリ化してきて、いいアイデアが出ないときなど、他のまったく異なる業界からアナロジーするのも一つの手です。そのためには常に、内外にアンテナを張っておくことが重要になります。
◆楽天で学んだ達成力+α
自分のやっているビジネスを必要以上に特殊視しないことがアナロジー成功の秘訣。
「So what is your gameplan?」
◆アクションは大胆に、ゲームプランは緻密に
米国時代、よく職場で「So what is your gameplan?」というフレーズを聞きました。
これは別にスポーツの話をしているのではなく、今取り組んでいる施策についての進捗であったり、何かサービスのリリースがあればその具体的な準備状況はどうなのか、とか、あなたの秘策は何? 的な要素もあります。
米国駐在当初は、「へー、こういう言い回しってかっこいいなぁ」と思ったものでした。常に目標達成している方々は、そのアクションに脚光を浴びることが多く、戦略的に打ち手を考え、一心不乱にそれをやり切るというイメージがあり、非常に熱量が高い人を思い浮かべるかと思います。
そういう人が多いとは思いますが、実際は千差万別で、色々なタイプの方がいると思います。ただ共通している点はあります。それは目標を常に達成する人は、その「ゲームプラン」に関してはとても緻密に考えていて、何が起こっても達成できるように、ということを前提にプランを立てています。
「最終日に達成できればいい」とは考えない
たとえば、楽天市場への新規出店獲得営業活動。
これは当時、毎月20件ぐらいの目標が設定されていました。これを常に達成している人は、まず最初に自分が活動できる時間がどのくらいあるのか? を考えます。具体的には営業日の数を確認します。その月は、21日なのか20日しかないのか。祝日がどのタイミングであるのか。こういう1日があるかないかにすごくこだわります。
次に月末までの達成を考えた場合に最終日に達成できればいいとは、決して考えません。たとえば、3営業日を残した27日までに達成に持ち込むプランを立てます。最後の最後に体調不良や何か天災が起こっても大丈夫なように。よく、最終日に体調不良で休んでしまい未達になった、というような発言をする人は、そもそも、このあたりの考えが甘いといえます。
次に、時間だけでなく、自分の活動にもバッファ(余裕)を持たせます。たとえば、100件電話して1件契約が獲得できると考えられる場合は、必要な契約件数×100件ではなく、120件で設定します。つまり、ここでも20件分バッファを取って、なぜか転換率が若干悪くなっても量でカバーできるようにしておくわけです。
ここまでやって、具体的なアクションとして1日120件の電話をかけることを粛々とやります。
これでも論理上は達成できる計算になると思います。なので、余計なことを考えず、やるべきことに集中することができます。
同時に、常に目標達成する人は、うまくいかなかったときのための「プランB」を考えています。たとえば、今の例でいくと一つひとつ契約するわけではなく、団体やグループに働きかけてまとめて契約する方法を仕込んでみるとか。
契約した企業の子会社へも新しいアカウントとして参加を促進するキャンペーンを用意してみるとか。そして、重要なポイントは、このプランBを本格的にやるかどうかを月の半ばには判断するようにしておきます。
つまりギリギリまで粘らずに、意思決定タイミングをあらかじめ決めておくわけです。なぜなら、様々な施策も準備や効果が出るまでに一定の時間がかかるものです。それも踏まえて準備しておき、いつその施策を開始するかの基準も決めておくのです。
ここまで用意しておいてあとは、集中して粛々とアクションを取れば、基本はプランBがなくても達成することができます。そうすれば、しめたもの。翌月の準備もできる形で月末をむかえることができます。
つまり、常に目標達成している人は、何が起こっても大丈夫なようにワーストシナリオを想定して、ゲームプランを考えているのです。
◆楽天で学んだ達成力+α
常に目標達成している人は、自分がコントロールできる部分にフォーカスしている。
小林 史生
株式会社鎌倉新書 社長COO