「送料無料化」をめぐり、世間を騒がせている楽天。三木谷氏の発言に注目が集まっているものの、内部の声が聞こえてくることは少ない。楽天市場初期の主要メンバーとして事業部長を歴任していた小林史生氏は、書籍『楽天で学んだ「絶対目標達成」7つの鉄則』(日本実業出版社)にて、当時の経験を語っている。

入社1週目から「毎日終電」が続いた、楽天での日々

◆やり切った強烈な「成功体験」がたった一つあれば大丈夫

 

私が楽天に入社した2000年の頃、楽天は皆さんがイメージするハードワークな「ベンチャー企業」でした。私の社員番号は128番でしたが、当時は仕事が激務だったこともあり、実際の在籍社員数はその半分ぐらいでした。

 

当時は、中小企業をエンパワーメントしよう、インターネットで世界を変えよう、という強い想いのもと、多くの優秀な社員が集まり、毎日終電近くまで働いていました。私は一営業マンとして楽天に中途入社しました。

 

最初に配属されたのは、日本企企業に、楽天市場のオンラインショッピングモールへの新規出店を促す営業の部署でした。

 

入社1か月目の私の営業目標は15件、つまり15の新規出店を獲得することでした。楽天では、目標は達成するのが当たり前のカルチャーがすでにでき上がっており、初月から未達のわけにはいかない、というプレッシャーをヒシヒシと感じていたことを今でも鮮明に覚えています。

 

前職では、それほど厳密な個人目標はなかったので、毎日数字を追いかけていく楽天での営業スタイルは、当初とてもストレスに感じ、「これはエライところに入社したかも」と不安になっていました。

 

毎日必死に電話をかけまくり(一日150件以上はかけていました)、電話のかけ過ぎで人差し指が突き指になるほどでした。一日150件の電話がけは、経験された人はおわかりだと思いますが、とても大変です。たとえば、150件を一日12時間で割った場合、1時間に13件の電話をする計算になります(12時間で割ること自体がそもそも問題かもしれませんが……)。それを朝から晩までずっとやり続けるわけです。

 

突き指になるほど電話をかけた
突き指になるほど電話をかけた

 

入社1週目から、毎日終電をつかまえて、翌日朝8時前には出社する日々が続きました。この状態が続くのは体力的にも精神的にも厳しいし、何か対策を打たねば、と思い、単純な性格の私がとった対策は、楽天市場で寝袋を買うことでした。そんな感じで仕事に没頭し、家に帰らない日もありました。

 

こうして必死で営業活動をしていましたが、初月の成績はとても厳しい状況でした。月末営業最終日の朝の時点で、目標15件に対して13件と、目標に対して2件足りませんでした。周りのメンバーは月末に近づくにつれ、続々と達成していたことも大きなプレッシャーになりました。

目標未達だった筆者の前に、三木谷社長が現れた

最終日の朝、いつも通り8時に出社したときに三木谷社長が私の席の前をぶらっと通りがかりました。当時、三木谷社長は、社長室とは別に、営業本部のあるフロアーの真ん中にも席があり、その存在感はハンパなかったものです。三木谷社長は、おもむろにホワイトボードに記載されている新人の私の進捗状況の数字を見ながら、私に声をかけてくれました。

 

「小林君、13件であと2件か、もう見えたね。人間は到底達成しない高さの目標を達成したときに成長するもの。成功するやり方が正しいから。頑張ってね」とだけ述べて、去って行きました。

 

私としては、いやいや全然見えてないんですけど……と思う反面、社長にそこまで言われてこのまま未達に終わるわけにはいきません。その日は、ランチもトイレも我慢し、一度も席を離れず電話をかけまくりました。午後遅くに1件は積んで14件になりました。が、15件まではまだ1件足りず、夜までかけ続けました。

 

20時を過ぎると一般の法人企業はもう電話がつながりません。そのあとは農家や漁師の方々といった自営の方、そして携帯電話の番号をお聞きしている中小企業の社長様に引き続き必死にかけまくりました。

 

23時まで電話をかけ続けていたところ、奇跡は起こるものです。ある企業の社長様から、こちらの熱意というか必死さを感じてもらえたのか、「しょうがないね」という声のもと、契約OKをいただき、最後、土俵際で何とか達成することができました。

 

最後は沖縄の塩を扱うグルメジャンルの店舗さんでした。その店舗さんから23時30分に出店申込書のファックスが届いたときの、安堵のため腰が抜けそうになった感覚を今でも覚えています。何とも言えない、これまで経験したことのない達成感でした。

 

翌日、トイレで三木谷社長に会ったときに、「達成できたね。おめでとう」と一言いただいたときのうれしさを、今でも忘れられません。

 

振り返ると、活動量を上げるだけでなく、もっと知恵を使えば工夫の仕方は色々あったはずです。今ならもっと効率的なやり方で、もっと早く達成できたはずです。

 

目標を達成しようとしたときに、このままだとちょっと足りない、と思う局面が時にあります。そんなときに、「さぁ、ここからが勝負。必ず挽回できるはず」と自然と思い込めることが目標を達成し続けるにはとても重要です。

 

そうなるためには、ビジネス経験の中で、たった1回、1回でいいので、強烈なやり切った成功体験をすることです。一度その成功を経験すれば十分。その1回の成功体験が、苦しい局面で、あなたを奮い立たせてくれます。それが、もっと大きな、たくさんの成功体験を生み出す原動力になります。

 

◆楽天で学んだ達成力+α 

成功体験は早ければ早いほど、そして大きければ大きいほどよい。

「相手の期待値を最初に下げる人」に期待できないワケ

◆「やります」と人前で宣言すると「帳尻力」が鍛えられる

 

目標達成を何度も繰り返している人の中でも、相手の期待値を最初に下げて目標を設定している人をよく見かけます。こういう人は、賢い方だと思います。が、私の周りを見渡すと、どこかでうまくいかなくなっていることが多い気がします。

 

それは本人の実力がストレッチされない状態が続いたため、周囲からの期待値をどこかで越えられなくなるからです。チャレンジすること、それを周囲に宣言することはとても重要です。自らの目標達成意識を高めるだけでなく、あなたの周りの人々が勝手にあなたを評価してくれるようになるという副産物もあるからです。

 

たとえば、あなたが「やります」と言い切って、その後チャレンジがうまくいった場合は、皆さんはあなたを「有言実行な人」「新しいヒーロー出現」と見てくれるでしょう。仮に1回目はうまくいかなかったとしても、2回目でそのチャレンジがうまくいった場合は、皆さんはあなたを「学習能力が高い」と褒めてくれるでしょう。

 

もし1回目も2回目も失敗して、3度目のチャレンジをして、そこでうまくいけば、皆さんはあなたのことを「努力の人」「不屈の魂」と言ってくれるに違いありません。仮に、3回チャレンジしてうまくいかなかったとしても3回目が達成に近い場合は、みんなに「誰もやらないことに向かっていってガッツがあるね。よいところまでもっていったのはさすが!」という温かい言葉をかけてもらえるでしょう。

 

万が一、3回チャレンジして結果がピクリとも出なかった場合、それは申し訳ないのですが、やり方が間違っていたのだと思います。

 

冷静に考えてみると、「やります」と言って得るメリットのほうが、言わないメリットよりも、圧倒的に大きい。つまり、言ったほうが断然お得なのです。また、周囲に言い切ることは、自分自身へのプレッシャーにもなります。そのプレッシャーをどう良い方向に導けるかが重要です。つまり、「よーし、やってやるか」と思えるかどうか。

 

目標を達成し続ける人は、この達成アドレナリンがとてつもなく高い人だと思います。それは、スポーツ選手が、叫んだり気合を入れたり、心の中で自分はできると念じることと同じで、脳のリミッターを意図的に外すことにより普段出ない力が出ることは科学的に証明されているようです。

 

ビジネスの世界も同様です。「最後に目標に到達するため、何としてでも帳尻を合わせるぞ」と考え方を切り替えることが、「できます」と宣言することのキモだと思います。

 

◆楽天で学んだ達成力+α

仮に宣言通りにいかないことが続いても大丈夫。次回で宣言通りいけば、すべて上書きされる。

 

 

小林 史生

株式会社鎌倉新書 取締役執行役員

 

楽天で学んだ「絶対目標達成」7つの鉄則

楽天で学んだ「絶対目標達成」7つの鉄則

小林 史生

日本実業出版社

スピードを上げる、できる方法を考えぬく、楽天「ならでは」の行動習慣を初公開! 30代で楽天が買収した赤字の米国企業の社長を任され、見事に再建した著者が、現場で実践してきた考え方、行動の仕方、習慣を7つのポイント…

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