後継者争いの結果「こんな社長のもとで働けない」となる前に…

親族内承継が多い中小企業。景気の低迷、適当な人材の不在などの理由から、廃業を考える社長も少なくありません。また、息子などの後継者候補側も、知識不足や現社長の意志を尊重したいとの考えから、事業承継に消極的な人が多いものです。そこで本記事では、株式会社わかば経営会計大磯毅氏・中山昌則氏の共著『「親族内」次期社長のための失敗しない事業承継ガイド』より、中小企業の「事業承継」における問題点を解説します。

「やはり長男が継ぐべき」という古い考えも…

ポイント1 派閥争いなどのトラブルがあった場合のリスク管理も意識する

 

親族内に複数の後継者候補がいた場合、社内にそれぞれを支持する派閥が生まれ対立し合うことがあります。たとえば、次のような事態は事業承継の際にどの会社でも十分に起こり得るケースです。

 

〈CASE〉

甲社のA社長は、長男で経理部長を務めるB氏と、次男で総務部長であるC氏のどちらを後継者にするか迷い続けていた。古参の幹部たちは「やはり長男が継ぐべき」という理由でB氏を、より若い幹部たちは「経営者としての資質を備えている」と主張してC氏を支持していた。最終的にA社長はB氏を後継者に決めたが、Cを支持していた幹部たちはその決定に納得していなかった。

 

なんでだよ…
なんでだよ…

 

このような場合、B氏に反対していた幹部たちはB氏の社長就任後「こんな社長のもとでは働けない」と会社を辞めて同業他社に移ったり、あるいは自ら同様の事業を営む会社を設立したりする可能性があります。

 

その場合には、優秀な従業員を引き抜かれたり顧客を奪われたりするおそれがあり、もしそうなれば、当然、会社にとって大きな痛手となるはずです。

 

こうしたトラブルへの事後的な対策手段としては、訴訟を起こし従業員や顧客の引き抜きによって会社に生じた損害を元幹部たちに賠償請求するという方法もありますが、裁判には手間と時間がかかることもあり、実効性がどれだけあるかは疑問です。

 

それよりは、幹部の退職時に「従業員の引き抜きは行わない」「顧客を奪わない」旨を文書で約束させるなど、事前の対策を講じておくほうが効果的といえます。いずれにせよ、承継時に不満を持って辞める幹部が現れる場合には、トラブル防止を目的としたリスク管理を何らかの形で行う必要があります。

社員満足度を高めるためには何をすべきか

ポイント2 従業員満足度を高める経営を意識する

 

基本的なことになりますが、社内の組織作りにおいては「従業員の満足度」を高める仕組みを構築する必要があります。従業員満足度を高める組織を実現すれば、次のような好ましい効果が期待できるためです。

 

① 会社のパフォーマンスが高まる

 

生産性向上と従業員満足向上とは単純に比例しないともいわれますが、「従業員満足」は高い「顧客満足」を獲得するための基盤となるものであり、会社の「経営目標の実現」に向けて欠かせないものです。

 

② 景気などの外部環境に左右されにくい強い会社が作れる

 

経済環境が悪化し企業を取り巻く状況が厳しくなったとしても、働きがいのある会社であれば、大きな業績の落ち込みをある程度避けられることが各種の調査によって明らかにされています[図表]。

 

米国に本部を置く専門機関『Great Place To Work® Institute』は、毎年、世界40か国以上で「働きがいのある会社」調査を実施している。同調査で上位にランクインした日本企業の中から15社を選び、2007年3月末時点において15社の株式に等金額を投資した場合(例えば15社それぞれの株式に1万円ずつ投資する場合)、2011年3月末時点でポートフォリオはプラス35.5%のリターン(年率換算前)となった。一方で、同期間にTOPIX(東証株価指数)に投資した場合、リターンはマイナス50.1%(年率換算前)だった。 出所:リクルートマネージメントソリューションズ『「働きがい」は業績に関係するのか』より
米国に本部を置く専門機関『Great Place To Work® Institute』は、毎年、世界40か国以上で「働きがいのある会社」調査を実施している。同調査で上位にランクインした日本企業の中から15社を選び、2007年3月末時点において15社の株式に等金額を投資した場合(例えば15社それぞれの株式に1万円ずつ投資する場合)、2011年3月末時点でポートフォリオはプラス35.5%のリターン(年率換算前)となった。一方で、同期間にTOPIX(東証株価指数)に投資した場合、リターンはマイナス50.1%(年率換算前)だった。
出所:リクルートマネージメントソリューションズ『「働きがい」は業績に関係するのか』より

 

従業員満足度を高めるための施策は様々な形が考えられますが、前提として「従業員が自社にどのくらい満足しているか」の把握が必要です。社内アンケートなどを利用して社員の意識調査を行うことをお勧めします。

 

ポイント3 使えない外部ブレーンの見極め方

 

「自社株に課される相続税の負担を減らすためにはどうすればよいのか」「経営計画はどのように策定すればよいのか」「先代から引き継いだ多額の債務を減らしたいのだが……」

 

事業を承継する際にはヒト、モノ、カネに関して考えなければならないこと、解決しなければならないことが山のように存在します。こうした問題の全てに自分一人の力だけで取り組むのは大変で、「誰か相談できる相手はいないだろうか」と思うこともあるでしょう。

 

そのような場合、具体的な相談相手の選択肢として「経営者仲間」「顧問税理士」などが考えられますが、たとえば財務の問題1つ取ってみても、果たして満足できるアドバイスを得られるかどうかはわかりません。

 

まず、経営者仲間が同業の場合、競争相手でもあるため自社の決算書をオープンにしてあれこれ相談することはできません。

 

また異業種の場合でも、相手が相談者の業界に通じていなければ、当事者意識が薄く、踏み込んだ助言を得ることは難しいはずです。また顧問税理士は、会社の中身は把握しているでしょうが、あくまでも税務の専門家であり企業経営のノウハウに通じているわけではないので、経営課題に関して適切な解答ができるかどうかは疑問が残ります。

株式会社わかば経営会計 代表取締役
公認会計士・税理士・中小企業診断士

1984年、兵庫県神戸市出身。2006年、京都大学経済学部卒業、在学中に公認会計士試験に合格し、大手監査法人・中堅税理士法人での勤務を経て、2013年に大磯経営会計事務所(現「わかば経営会計」)創業。「中小企業の未来を創造する」を経営理念に、事業承継・M&A企業再生といった中小企業向けの財務・経営コンサルティングおよび税務サービスを展開。

著者紹介

株式会社わかば経営会計 代表取締役
公認会計士・税理士・中小企業診断士

1986年、千葉県松戸市出身。2009年、慶應義塾大学経済学部卒業、在学中に公認会計士試験に合格し、大手監査法人、中堅税理士法人での勤務を経て、2013年より千葉県中小企業再生支援協議会に出向。数多くの中小企業再生支援業務(経営改善支援、金融調整業務等)に従事。2015年4月に株式会社わかば経営会計代表取締役に就任。

著者紹介

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