「着物を引き取ってくれる」に心動かされたものの…
◆訪問買取で貴金属を強引に押し買いされたCさん
「古くなった着物はございませんか? お引き取りさせていただきます」
玄関先でこう言われて、Cさんは、ずっと簞笥の肥やしとなって眠っている着物があることを思い出しました。
〝娘にも着物は着ない、要らないと言われているし、ずっとこのまま置いておいてもしょうがないな……〟と、少し前から考えていらしたそうです。そして、〝思い出のあるモノだから、売るのは何か気が引けるし、捨てるのはちょっともったいない。それであれば、誰かに大切に使ってもらって、役に立ててもらいたい……〟とも。
着物を売るのではなく、「引き取る」からこそ心が動かされてしまうのです。Cさんは、その着物を引き取ってもらおうと、業者を家の中に入れました。
Cさんは60代の女性で、一人暮らしをしていました。一人暮らしであれば、業者は余計に、一人でいる寂しさを利用して話し相手となり、その心の隙間につけ込んでいきます。実際、その業者は着物を引き取ると、その後、切り替えて本番モードへと入っていきました。
「貴金属も高く買い取りできますので、試しに査定させてください」
Cさんとしては、着物を引き取ってもらった手前、断りづらかったということもあったのでしょう。お試しなら良いかという軽い気持ちで査定してもらうことに。しかし、そうしたところ、唐突(とうとつ)にその業者の態度が豹変(ひょうへん)し、「これを売ってくれるまで帰りませんから」と言って、一方的に金額を提示したかと思うと、強引にその代金だけをおいて、そそくさと帰ってしまったというのです。
後でわかったことですが、このとき業者が買い取った金額は、市場評価額とはかなりかけ離れた金額でした。しかし連絡をとろうにも、業者の名刺もなければ、買い取り取引のための書類手続きもしていない。最悪の状況が重なったわけです。
これは、推測するに確信犯であり、あえて身分も明かさず、足がつかないように、自身の利益だけを考えた、完全な悪質な詐欺(さぎ)行為といえるものです。
興味本位で査定してもらったモノが、まさか、そのような形で持っていかれてしまおうとは、Cさんはただただ驚くばかりで、思いもしなかったことでしょう。大切にしていた品物であればなおさら、その被害者のお気持ちを考えただけでもとても悲しい気持ちになります。しかし持ち去った業者は、相手がどれだけ傷ついているかなどといったことは、考えもしていないかと思います。
悪徳業者の被害に遭わないための「3つのポイント」
いったん悪徳業者のペースにはまってしまうと、特に立場が弱いご高齢者や女性はどうすることもできません。そして、こんなことを体験したら、トラウマとなって、もう売ること自体に嫌悪感を覚えて拒絶してしまうようになるでしょう。
どこに依頼しようが、買取業者はすべて悪いというイメージを持たれる可能性が高くなります。真面目にやっている我々の立場からすると、とても迷惑な話です。実際に起こっている、こういったトラブルや事例を伝えていくことで、悪循環にならないようにしていかなければなりません。
私自身ももちろんのこと、会社としても、関わる業界としてやるべきことは、顧客に常に声がけをしていくこと、その周りのお知り合いの方々にも伝えてもらうこと、そうやって地域のコミュニティに伝える役割を担っていくことだと考えます。ここで、このような被害に遭わないためのポイントを、いくつか挙げておきましょう。
〈悪徳業者の被害に遭わないために〉
① 業者の選定は慎重に行なうこと。
(インターネット等で情報を確認し、信用できる業者かどうか判断する。電話してみて対応を確認してみるのも○)
② 買い取る際に納得いく説明をしてくれるかどうかを見極める。
(査定額に対して、なぜこの価格がついているのかといった説明が極力あることが望まれる)
③ 取引するための書類が用意されているかを確認する。
(特定商取引法にもとづくクーリングオフ等に関する説明があることが望まれる)
繰り返しますと、そもそも、売るか売らないかの最終決定権は、その品物を所有している側にあるのです。お互いに満足した状態で、気持ち良く取引できることが、もっとも大切なことです。
近藤 俊之/島根 猛/石川 宗徳/森田 努/佐藤 良久/幾島 光子