「今朝だって話していたんです」父の急死に息子は…
それから1カ月も経ったでしょうか。アパートの別の住人から、家主に連絡が入りました。
「なんかよく分からないけど、救急車が来ているよ。日下さんのところじゃないかなあ」
慌てて家主がアパートに行ってみると、救急車とパトカーが駐車場に停まっています。サイレンこそ鳴っていませんが赤色回転灯がくるくる回り、住民の方も集まって騒然としていました。問題になっているのは、確かに日下さんの部屋のようです。徹さんがドア付近で、茫然と立ちすくんでいました。
「ここの家主です。何があったのでしょうか?」
近くにいる救急隊員の方に声をかけると、日下さんが心肺停止の状態で見つかったようです。徹さんが朝家を出るときには、言葉を交わした、夕方戻ってきたら息をしていなかった、ということでした。
家主は徹さんのところに駆け寄って、声をかけました。
「大変だったね。心配していたんだよ。お父さん、ずっと体調崩していたの?」
その問いに徹さんは、小さく頷きます。
「仕事行かずよく家で寝ていたけど、でも今朝だって話していたんです。まさかこんなことになるとは……。家主さんからの手紙は分かっていたけれど、ちゃんと払える見込みがなかったので……。すみません」
徹さんはどうやら飲食店のアルバイトを辞めてからも、定職に就いていないようでした。
「これからどうするの? ここの家賃も払えないでしょう? 結構滞納しているよ。安い部屋、探しなよ」
家主の言葉に、徹さんは無言でした。
心肺停止だった博さんは、病院で死亡が確認されました。いろいろと手続きもあるだろうし、家主はあまり徹さんを追い詰めるのもと思い、しばらくそっとしておくことにしました。