「何すんねん」強制執行当日、必死の抵抗も虚しく…
季節は廻り、物件近くの大通りは、街路樹の銀杏が黄色く色づいてきました。気が付けば、催告の日から半年以上が過ぎていたのです。関係者に諦めの空気が流れだした頃、奇跡的に目の見えない人専門の施設が見つかりました。
でも身元保証人が……。
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「いなくても、受け入れてくれるそうです」
役所の担当者の人の声に、私たちも心が躍ります。すぐさま執行官に連絡をして、中断していた執行手続きを再開してもらうことになりました。
本来であれば、身体検査を事前に受けなければなりません。今回は緊急性があるということで、それすら入所後落ち着いてから施設でするとのことでした。もう何も阻むものはありません。やっと二郎さんの終の棲家が見つかった、安堵感が関係者に広がります。
断行の日、二郎さんの体調を考慮して救急車もスタンバイです。建物の外には執行官、荷物を運び出す業者の人たち、役所の関係者、施設の担当者、そして私たち、家主さん、皆が固唾を呑んで見守ります。
引き戸は二郎さんを連れ出すために、最初に外そうということになりました。執行官が先頭に立って、廊下を歩きます。そのすぐ後ろに鍵屋さん、そして引き戸を外すためのドライバーを持った業者さんが続きます。建物中に緊張が走りました。
「二郎さん、ドア開けるよ」
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執行官が声をかけたと同時に、鍵屋さんが鍵を開け、業者さんが一瞬で引き戸を外します。室内からゴミが廊下になだれ込んできました。
「二郎さん、家賃払ってないからね、強制執行でこの部屋には住めなくなったからね」
執行官の補助をする大柄な男性二人が、二郎さんを両脇から抱えます。
「何すんねん。なんでドアがないんや」
痩せた二郎さんは、ひょいと簡単に汚い部屋から連れ出されます。
「家賃払ってないから仕方ないんやで。でもちゃんとした施設やから、安心してや」
執行官が声をかけます。二郎さんは、抵抗するかのように最後まで足をバタバタさせていました。建物から出てきた二郎さんに、役所の方と施設の方が駆け寄ります。
「今から一緒に行きましょうね」
観念したのか少し落ち着きを取り戻した二郎さんは、施設の車に乗せられて先に出ます。もう一人での生活も、限界だったのでしょう。今までのことを考えると、嘘のようなおとなしさでした。
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