大阪・築60年以上の建物に暮らす杉山二郎さん(83歳)。月5万円の家賃を滞納し続け、その額は200万円にまで膨れ上がっていた。耐えかねた家主が強制執行の催告をしたものの、ドアを開けば「帰れ!」の一点張り。連帯保証人である二郎さんの兄は「勘弁してくれ」と取りつく島もない。八方塞りの状態が続く中、役所の担当者から一本の連絡が届いた。※章(あや)司法書士事務所代表・太田垣章子氏の書籍『老後に住める家がない!』(ポプラ社)より一部を抜粋し、高齢者の賃貸トラブルの実態に迫っていく。

「何すんねん」強制執行当日、必死の抵抗も虚しく…

季節は廻り、物件近くの大通りは、街路樹の銀杏が黄色く色づいてきました。気が付けば、催告の日から半年以上が過ぎていたのです。関係者に諦めの空気が流れだした頃、奇跡的に目の見えない人専門の施設が見つかりました。

 

でも身元保証人が……。

 

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「いなくても、受け入れてくれるそうです」

 

役所の担当者の人の声に、私たちも心が躍ります。すぐさま執行官に連絡をして、中断していた執行手続きを再開してもらうことになりました。

 

本来であれば、身体検査を事前に受けなければなりません。今回は緊急性があるということで、それすら入所後落ち着いてから施設でするとのことでした。もう何も阻むものはありません。やっと二郎さんの終の棲家が見つかった、安堵感が関係者に広がります。

 

断行の日、二郎さんの体調を考慮して救急車もスタンバイです。建物の外には執行官、荷物を運び出す業者の人たち、役所の関係者、施設の担当者、そして私たち、家主さん、皆が固唾を呑んで見守ります。

 

引き戸は二郎さんを連れ出すために、最初に外そうということになりました。執行官が先頭に立って、廊下を歩きます。そのすぐ後ろに鍵屋さん、そして引き戸を外すためのドライバーを持った業者さんが続きます。建物中に緊張が走りました。

 

「二郎さん、ドア開けるよ」

 

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執行官が声をかけたと同時に、鍵屋さんが鍵を開け、業者さんが一瞬で引き戸を外します。室内からゴミが廊下になだれ込んできました。

 

「二郎さん、家賃払ってないからね、強制執行でこの部屋には住めなくなったからね」

 

執行官の補助をする大柄な男性二人が、二郎さんを両脇から抱えます。

 

「何すんねん。なんでドアがないんや」

 

痩せた二郎さんは、ひょいと簡単に汚い部屋から連れ出されます。

 

「家賃払ってないから仕方ないんやで。でもちゃんとした施設やから、安心してや」

 

執行官が声をかけます。二郎さんは、抵抗するかのように最後まで足をバタバタさせていました。建物から出てきた二郎さんに、役所の方と施設の方が駆け寄ります。

 

「今から一緒に行きましょうね」

 

観念したのか少し落ち着きを取り戻した二郎さんは、施設の車に乗せられて先に出ます。もう一人での生活も、限界だったのでしょう。今までのことを考えると、嘘のようなおとなしさでした。

 

次ページ:トラックが山積みになるほどのゴミから大金が出てきた

 

 

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