4畳の下宿で「200万円」家賃滞納した「生涯独身83歳」の行方

高齢者の「家賃滞納」問題。法律に基づき退去させることも可能だが、財産の少ない高齢者への強制執行に、苦しむオーナーも少なくない。そこで本連載では、章(あや)司法書士事務所代表・太田垣章子氏の書籍『老後に住める家がない!』(ポプラ社)より、高齢者の賃貸トラブルの実例を挙げ、その実態に迫っていく。

4畳ほどの小さな部屋に、一人の老人が住んでいた

高齢者になると頼れるのは「お金だけ」と思うのか、私の叔母はお金をティッシュに包んでどこかに隠してしまい「泥棒に入られた」と大騒ぎを繰り返していました。そんな叔母は若い頃、びっくりするくらいお金に頓着しない人でした。

 

70歳を過ぎ、家中にお金を隠し、外出しても財布にお金が入っているのに出さない、いつもお金でトラブルになる、そんな叔母になってしまったのです。当時まだ若かった私はその真意が分からず、歳をとると人は性格が変わるのかな、その程度にしか考えていませんでした。

 

ところが賃貸トラブルの現場に身を置くようになると、ここで出会う高齢者も叔母との共通点がたくさんあります。お金があるのにお金を出さなかったり、お金のコントロールができていなかったり。日本人は長くお金の管理を人に任せるということをせずにきた文化がありますが、これには限界があるのではないかと思うようになりました。

 

年金だけでは、老後を過ごせない時代。2000万円問題が、世間を震撼させました。社会保障額はどんどん増える中、ますます高齢者は急増していきます。しかもこれからは高度成長を経験した高齢者と違い、資産をさして持たないグループの増加です。

 

滞納している高齢者と話をすると、解決策を見つけられず出口のない迷路に入り込んでしまった気になってしまうのです。

 

◆預金があるのに家賃を払わない高齢者

 

「今にも崩れ落ちそうだから、建物を取り壊したいのよ」

 

相談に来られた家主は、大阪の中心地にある築60年以上経つ建物を、相続で引き継いだ所有者でした。

 

大阪のど真ん中を走る6車線もある大きな道路は、両側にオフィスビルが並びます。そこから50メートルほど中に入ったところに、ひっそりとたたずむ大昔の下宿スタイルの建物が、問題の物件でした。

 

靴は玄関で脱ぎ、靴棚に置きます。入ってすぐ廊下の右側に広い食堂があって、ここで昔はご飯まで提供されていたのでしょうか。夢を語りながら、食後には麻雀をしたのでしょう。埃を被って画が見えなくなった麻雀のパイが転がっています。

 

細い薄暗い廊下を進むと、食堂奥側に共同の洗面所とトイレ。風呂場はありません。そもそもこんな大阪のオフィス街のど真ん中に、まだ銭湯というものが存在しているのでしょうか。洗面所は学校の手洗い場のように鏡が蛇口の上に貼られていますが、曇りすぎて鏡の役目は果たしていません。廃校になった小学校のイメージです。

 

廃校のような佇まいだった
廃校のような佇まいだった

 

洗面所を通り過ぎてやっと廊下を挟むように、4畳もないほどの小さな部屋が6つ並びます。各部屋のドアも引き戸になっていて、狭い廊下がドアで塞がれないようになっていました。

 

足早に行き交うビジネスマンが溢れる街中に、この建物だけが時間が止まったように昭和の名残を漂わせています。ここに、たった一人の高齢者が住んでいます。

 

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章(あや)司法書士事務所代表
司法書士 

章(あや)司法書士事務所代表。司法書士。

神戸海星女子学院卒業後、プロ野球のオリックス・ブルーウェーブ球団で広報として3年半勤務したのち、平成13年司法書士試験に合格。
平成14年から家主側の訴訟代理人として、延べ2300件以上の悪質賃借人追い出しの訴訟手続きを受託してきた、賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。トラブル解決の際は、常に現場へ足を運び、訴訟と並行して悪質賃借人と向き合ってきた。その徹底した現場主義から、多くの大家さんの信頼を得る。

また、「全国賃貸住宅新聞」には12年間連載をし、現在は健美家をはじめ、月3本の連載を抱える。他にも三井不動産をはじめ、各ハウスメーカーが発行する大家さん向け会報誌に、相続問題や賃貸トラブルの解決・予防に関する記事を年間20本以上寄稿。

さらに、年間60回以上、計600回以上にわたって、5万人以上の大家さんおよび不動産管理会社の方向けに「賃貸トラブル対策」に関する講演も行なう。現場を知り尽くす司法書士ならではの臨場感のある事例と実践的なノウハウを公開する講演は、受講者の心をつかみ、常に満席、立ち見が出るほどの人気がある。

【章(あや)司法書士事務所】http://www.ohtagaki.jp/
【あやちゃん先生のひとり言】https://ameblo.jp/ohtagaki/

著者紹介

連載老後に住める家がない!明日は我が身の「漂流老人」問題

老後に住める家がない!

老後に住める家がない!

太田垣 章子

ポプラ社

今すぐ、「住活」を始めなさい!「住活」とは、自分のライフプランに合った「終の棲家」を得ることです。60代以降の自分の収入を確認して、最期まで払っていける家賃に合う住居を決めるのです。そのためには、さまざまな「断捨…

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