長屋の1軒に住む鮎川健一郎さん(73歳)は、5万円の家賃を滞納し続けていた。その額はすでに70万円を超えていたため、建物明け渡しの手続きが進められていったが、裁判当日、鮎川さんは答弁書も出さず、裁判所にすら出廷しなかった。そこで家主は「強制執行」することを選択したのである。※本連載では、章(あや)司法書士事務所代表・太田垣章子氏の書籍『老後に住める家がない!』(ポプラ社)より、高齢者の賃貸トラブルの実例を挙げ、その実態に迫っていく。

「警察でご飯を食べるために」万引きを繰り返す…

家主から連絡先を聞いた警察は、私のところに電話をかけてきました。

 

「鮎川さんが万引きを繰り返していまして」

 

警察ではご飯も出してくれる、警察官も万引きに関して怒りはするものの対応してくれる、だからスーパーで安価な食べるものを万引きしては、警察に捕まることを繰り返しているようです。

 

「住んでいる家も、ある日突然に追い出されたと言っているのですが…。建て替えか何かですか?」

 

ついて行った女性宅からは、すでに出ちゃったということでしょうか。

 

「建て替えと言うよりは、鮎川さんが長年家賃滞納されていたので、それで裁判をしました。ご退去いただいたのは、法に則って強制執行の手続きですよ」

 

警察官も「そら、そうですよね……」とため息交じりの回答です。

 

「定住している家がないみたいです。それで頻繁に万引きしては、署に来て。生活保護とか申請して、住まいとお金を確保してくれるといいのですが、何度言っても役所に行かないんですよね」

 

警察も老人施設ではないので、警察でご飯を食べるために万引きを繰り返されたら、たまったものじゃないでしょう。万引きをして、警察で取り調べを受け、帰されたとしても、その足で万引きをしてまた警察に連絡があるようです。

 

行き場がなく、それでいて必要な情報が必要な人に届いていないのか、もしくは本人が「生活保護だけは受けたくない」と思っているのでしょうか。

 

警察や刑務所が老人施設のようになってきていると聞きます。夜中の110番は「淋しい」という電話も多いとのこと。どのような時間であっても電話に出てくれて、とりあえずは対応してくれる…誰かと繋がりたいと、淋しい思いをしている高齢者の最後の砦なのでしょうか。

 

「とりあえず最期に関わる前に退去してもらえて、本当に良かった」

 

そう安堵した家主。民間の家主が、背負う問題ではありません。それでも国の体制も整っていない中で、複雑な思いが残ってしまいます。

 

【次回へ続く】

 

【前編はこちら】

 

 

太田垣 章子

章(あや)司法書士事務所代表/司法書士

 

老後に住める家がない!

老後に住める家がない!

太田垣 章子

ポプラ社

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