高齢者の「家賃滞納」問題。本来、法律に基づき退去させることも可能だが、財産の少ない高齢者への強制執行に、苦しむオーナーも少なくない。そこで本連載では、章(あや)司法書士事務所代表・太田垣章子氏の書籍『老後に住める家がない!』(ポプラ社)より、高齢者の賃貸トラブルの実例を挙げ、その実態に迫っていく。

「この高齢者を追い出して、生きていけるのか…」

家主側にとって、高齢者の賃借人は、いったん入居すると若い人ほど引っ越しすることがなく、結果として長期入居してくれる優良な存在である一方、さまざまなトラブルを引き起こす存在でもあります。もちろん若い世代に何もトラブルがない訳ではありませんが、確率的には高齢者の方が負担を強いられることは否めません。

 

賃貸業がビジネスならば、リスクがあるのも当然としても、相手方が高齢者の場合、事務的に法律だけでの解決ができないこともたくさんあります。

 

たとえば、賃借人に家賃を滞納されてしまった場合。話し合いで解決できなかったとしても、訴訟手続きで明け渡しの判決をもらい、最終的には強制執行の手続きで滞納者を強制的に退去させることができます。

 

 

ところが高齢者の場合には、判決はもらえても執行官が「この高齢者を追い出して、果たして生きていけるのか……」と躊躇ってしまうと、執行してくれない場合もあるのです。そうなると家主は、家賃を払ってもらえない、仕方がないから訴訟をする、判決をもらって強制執行を申し立てる、でも出て行ってもらえないという最悪の事態となってしまいます。

 

また何かあったときに話し合いがうまくできず、早期に解決しようと思うと、家主だから管理会社だからという以前に、人としての手間暇を求められることも少なくありません。空室が長期化して困り果てているという状況以外は、高齢者に部屋を貸したくないと思うことは仕方がないことかもしれません。事例を挙げて、説明していきます。

手ぶら外出しては、「自転車」を盗んでくる老人

手ぶらで歩いて外出しては、自転車に乗って帰ってくる賃借人がいました。賃借人の名前は、鮎川健一郎(73歳)さん。身寄りもなく、一人でこの長屋の1軒に住んでいます。

 

4軒長屋の建物は、築60年以上。設備も古いため、鮎川さん以外の3軒は、新しい部屋へと転居していきました。不動産は生き物とはよく言ったもので、4軒中1軒しか使われていないせいか築年以上に建物は傷み、今にも崩れ落ちそうな勢いでした。

 

次ページは:自転車の上に、自転車が。さながら自転車のテトリスのようでした

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