年間約130万人の方が亡くなり、このうち相続税の課税対象になるのは1/10といわれています。しかし課税対象であろうが、なかろうが、1年で130万通りの相続が発生し、多くのトラブルが生じています。当事者にならないためには、実際のトラブル事例から対策を学ぶことが肝心です。今回は、父が遺した自宅が争点となった相続トラブルを、円満相続税理士法人の橘慶太税理士に解説いただきました。

「なんでも張り合う兄弟」を心配していた

今回ご紹介するご家族は、ある地方の中核都市にお住いだった、M子さん家族。夫、長男、次男の4人家族です。

 

M子さんの夫は、長男が生まれた年に独立。呉服屋を営んでいました。とにかく人懐っこい性格で、お得意様はどんどん増えていき、お店の規模も拡大していきました。子どもたちが小学生になるころには、地方にも支店を出すほどになっていたといいます。

 

一方で、堅実な一面も持ちあわせていました。「子どものころ貧乏で、本当に苦労したから」というのがM子さんの夫の口癖だったといいます。事業が拡大しているときも、決して贅沢はせず、何かあったときのために、とコツコツと資産運用を進めていました。

 

そんなM子さんの1つの悩みが、2人の子どもたちでした。年子だったこともあり、長男が野球を始めると同時に次男も野球を始め、長男が塾に通い出したのと同時に次男も塾に通い始める……何か子どもたちが始めるときは、2人一緒だったからでしょうか、子どもたちは小さなころから何かにつけてお互いを意識し、ライバル視していたのです。それがプラスに働けばいいのですが、お互いをけなしあうことのほうが多かったそうです。

 

野球の試合を見に行けば「なんだ、クソみたいな返球しやがって!」「兄貴だって、ハエが止まるようなスイングしてんじゃねーよ」と人前で言い合ったり、学校でテストが返ってきたら「英語で80点って、頭悪くない!?」「俺の方が学年順位、上だし」とマウンティングしあったり。争う姿を見て、M子さんのほうが疲れてしまうほどでした。

 

そんな子どもたちのことを、M子さんは何度も夫に相談しましたが、「兄弟なんてそんなもんだよ。大人になれば自然と収まるから」と繰り返すばかり。確かに中学校、高校と進学するに従い、面と向かってけなしあうことはなくなったといいます。しかしお互いを意識し、相手よりも何とか上に立とうとする行動は相変わらず、M子さんは「どこで子育てを失敗したのかしら……」と後悔することもあったそうです。

 

兄弟の関係はその後も変わることなく、月日は流れていきました。仲のいい兄弟になることはありませんでしたが、2人とも、一流大学に進学、一流企業に就職、年頃になったころには結婚をしました。

 

「それぞれの心配はないんですけどね。私たち(=M子さん夫婦)がいなくなったら、あの子たち、どうなっちゃうのかしら」

自宅を「売る」「売らない」で家族が激論

問題が起きたのは、M子さんの夫が亡くなったときでした。すでに事業は譲渡していたので、遺産の対象となるのは、貯金と株などの金融商品、そして不動産がありました。

 

長男「父さん、遺言とか、残してないの?」

 

M子さん「遺言はないわ。私たちで、分けたいように分けなさいって」

 

次男「それにしても、結構な財産を残してくれたね、父さん」

 

M子さん「お父さん、お仕事、がんばったもの」

 

貯金と金融商品で1億円ほど。不動産は、一戸建ての自宅とマンションが5戸。M子さん夫婦は、2人暮らしでは広すぎると自宅を離れ、5戸のマンションのうち1戸に引っ越していました。

 

長男「これをどのように分けるか、だな」

 

M子さん「いい場所に建っているマンションだから、賃貸経営に興味があるなら、そのまま持っていればいいし、ないなら売ってしまいなさい、って、お父さん、言っていたわ」

 

次男「俺には、不動産経営なんて無理かな」

 

長男「俺も、パス」

 

M子さん「じゃあ、マンションは売ってしまって、現金にしてしまいましょう」

 

長男「あの一軒家はどうするの?」

 

次男「元の自宅ね。空き家のままなんだっけ?」

 

M子さん「どうしたらいいのかしらね。あの家、あなた達からみて、曽祖父からのものなの。だからお父さんも愛着があって……」

 

次男「じゃあ、そのまま持っておいてほうがいいな」

 

長男「ちょっと待てよ。誰が管理するんだよ」

 

次男「でも、父さんが生きていたら、売りたくないって考えるだろう?」

 

長男「馬鹿だなお前。父さんはもういないんだから、俺たちが考えないといけないだろ」

 

兄弟の「売る」「売らない」の議論が白熱していきました。

 

長男・次男「母さんは、どうしたいの?」

 

兄弟は突然、M子さんに意見を求めました。

 

M子さん「えっ、私!? えーと……やっぱり代々受け継いできた家だから、売らないほうがいいんじゃないかしら」

 

長男「なんだ、母さんは、売らない派か。母さんがいいんなら、いいけど」

 

M子「どっち派とか、そういうのじゃないのよ……」

 

長男「いいよ、そんな気を使わなくて」

 

結局この日は、自宅はいったん残すことで話は終え、詳細はまた後日、詰めていくことで解散しました。そして、改めて遺産分割について話し合う日になりました。

 

M子さん「ねえ、この前、あの家は売らないっていったじゃない。やっぱり売ったほうがいいと思って」

 

長男・次男「えっ!?」

 

M子さん「……維持費に結構お金かかりそうだし」

 

長男「そうだよね、それでいいと思う」

 

次男「ちょ、ちょっと待ってよ。代々受け継いできた家なんだろ、父さんが大事にしていた家なんだろ。それを簡単に売るのかよ」

 

長男「持っていたって仕方がないだろ! 空き家なんだから」

 

次男「なんだよ、何でそんなに割り切って考えられるんだよ!」

 

兄弟2人の言い争いに、オロオロするばかりのM子さん。結局、自宅は売ることで話はまとまり、詳細はまた後日、詰めていくことになりました。そして、改めて遺産分割について話し合う日に……。

 

M子さん「ねえ、この前、あの家は売るっていったじゃない。やっぱり売らないほうがいいと思って」

 

長男・次男「えっ!?」

 

M子さん「……やっぱり、先祖代々の家だし」

 

この日も、兄弟の2人の言い争いに、オロオロするばかりのM子さんの姿がありました。結局、「自宅を売る/売らない問題」は相続税の支払い期限までに解決させることはできなかったといいます。「自宅を売るって言えば長男の肩をもっているみたいになるし、売らないと言えば次男の肩をもっているみたいだし。どうすればいいか、わからなくて……」とM子さん。問題の解決はまだ先のようです。

 

どうしたらいいのか、わからない
どうしたらいいのか、わからない

遺言書を残すなら「公正証書遺言」を

相続問題で不動産が焦点になることは、非常に多いです。事例の場合、兄弟仲が良くないということもあり、遺言があるとよかったですね。

 

遺言書には、作るのに手間とお金がかかりますが法的な効力が強い「公正証書遺言」と、誰でも簡単に無料で作れますが法的な効力が弱い「自筆証書遺言」の2種類があります。また亡くなった人の遺産の分け方には法律で定められたルールがあり遺言書がある場合には、遺言書の通りに遺産を分け、遺言書がない場合には、相続人全員で話し合いをして遺産を分けます。

 

自筆証書遺言は名前の通り、自分の手で書き上げる遺言書です。15歳以上の人であれば、誰でも紙とペンだけで簡単に作ることが可能です。

 

自筆証書遺言の財産目録をパソコンや代筆、通帳のコピーなどで作成できるようになりましたが、ほかは、自分の手で書きあげます。細かい条件が盛りだくさんなので「絶対に自筆証書で遺言書を作るんだ!」という人は、専用の本を一冊買ってもいいかもしれません。

 

また亡くなった人が自筆証書遺言を残しておいた場合には、家庭裁判所に持っていき、相続人立会いのもとで開封しなければなりません(この手続きを、検認といいます)。

 

一方、公正証書遺言は、公証役場という所で、公証人という人が作ってくれる遺言書です。安全性と確実性が非常に高く、偽造変造のリスクが一切ないことと、公証役場で預かってもらえることがメリットです。

 

また亡くなった人が生前中に、遺言書を作ったことを家族に伝えていないケースもあります。自筆証書遺言であれば、運よく家族が見つけてくれなければ永久に見つかりません。その場合には、遺言書はないものとして取り扱われてしまいます。しかし、公正証書遺言の場合には、公証役場にいくと「遺言検索システム」というシステムがあり、亡くなった人が生前中に公正証書遺言を作っていたかどうかがすぐにわかります。

 

なお、このシステムは、健在の人に対しては使えません。たとえば、母が健在のうちから、「うちの母が、私にとって不利な遺言を作ってるんじゃあるまいか、調べることはできないかしら?」と、公証役場に遺言の有無を聞くことはできない、ということです。

 

【動画/筆者が「パソコンや代筆も使えるようになった遺言書」を分かりやすく解説】

 

橘慶太

円満相続税理士法人

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