「私的にはぬいぐるみがいいです!」
前項で「株主は企業の経営に対し議決権を行使する権利がある」と述べました。権利を持ったとは言え、ある一定以上の株式を保有しない限り、その企業の経営に直接口出しをすることはできません。
一般の株主が意見を発する場は、主に株主総会になります。株主総会を通じて、経営の重要事項決定に関与できるのです。また株主総会で質問や意見などを発言することが認められています。
とは言え、大抵の株主総会はスケジュールに従って粛々と進行し、決議について異議を唱えるといったシーンはほとんど見られなくなっています。このような状況は果たして、株主の声に耳を傾けていると言えるのでしょうか。
2014年、サンリオ(8136)の株主総会の質疑応答で、10歳前後の女の子が株主番号と名前を述べた上で、こう意見しました。
「株主優待がタオルばかりでタンスに入りきりません。私的にはぬいぐるみがいいです!」
それに対し、サンリオの辻信太郎社長は笑顔で「いいですね、ぬいぐるみやりたいです。やらせましょう」と前向きに回答しました。これに対し、株主総会の出席者が拍手喝采となり、会場は温かいムードに包まれたそうです。
翌年、その約束を守る形で、『サンリオ創立55周年記念 ハローキティ オリジナルぬいぐるみ』が株主優待とは別に、記念品として贈呈されました(下記図表)。
[図表]サンリオ(8136)創立55周年記念品ハローキティオリジナルぬいぐるみ(100株以上の株主用)
口約束で終わらせず、実現させるところに辻社長やサンリオの企業としての懐の深さを感じます。
株主の意見に耳を傾けてくれる企業かどうか?
一方で、株主である女の子との約束を守るために、かなりのコストをかけることも間違いありません。一部の株主からは、「優待にそれだけのお金をかけるなら配当に回すべきでは?」との意見も聞かれました。
もっともな意見ではありますが、辻社長は「増配すると自分が筆頭株主なので、儲かるのは自分になってしまいます」と回答し、質問した株主も納得されたそうです。
企業規模が大きくなれば、それだけ制約も増えますが、その中で株主の声を聞き、しっかり応えたサンリオは個人株主にこれからも支持され続けるでしょう。こうした株主の意見に耳を傾けてくれる企業かどうかは、投資先選定の一つの要素として重要だと考えます。