連帯保証人の「相続人」へ滞納家賃を請求することに
さて、借主IEは、横浜市内の別のアパートへ引っ越しています。その後、借主IEの滞納家賃に対する債務名義を取得したものの、借主IEの差押対象が見つかりません。現地調査やインターネットでの検索など手を尽くしましたが、手掛かりが見つかりません。
ここで平成27年に死亡した連絡保証人ITの出番となります。戦前の最高裁判所である大審院の昭和9年の判決には、「賃貸借契約における保証人の相続人は、その相続開始後発生する賃料債務についても、保証の責がある」とあります。そのため、この判例によれば、連帯保証人ITの相続人へ滞納家賃の請求が可能ということです。
大審院昭和9年1月30日判決
「賃貸借契約における保証人の相続人は、その相続開始後発生する賃料債務についても、保証の責がある」
→連帯保証人ITの相続人へ滞納家賃を請求
余談になりますが、別の相続人への滞納家賃請求案件で裁判所へ訴えたとき、当時担当した裁判官はこの大審院の判例を知らなかったらしく、「連帯保証人の相続人へ請求をするのはおかしくないですか?」と裁判官に言われ、私が「いやいや、こういう大審院の判例がありますよ」と答えますと、裁判官がいったん、法廷の裏手へ引き下がり、判例があるのかどうかを調べていました。どうやらあまり知られていない判例のようです。
さて、まず連帯保証人ITの相続人を調査する必要があります。一般債権者が、第三者請求として役所へ住民票を請求する際、その請求対象者の本籍地と戸籍筆頭者が不明の場合、役所は本籍地と戸籍筆頭者の記載がある住民票の交付を拒みます。
ただし、請求対象者がすでに死亡している場合、役所は本籍地と戸籍筆頭者の記載がある住民票を交付してくれます。"請求対象者の相続人への債権請求のために、相続人調査をする必要がある"という正当な理由があるからです。これによって死亡した債務者の相続人調査が可能となります。
・債務者の「本籍地」「戸籍筆頭者」が不明の場合
役所に、「本籍地」「戸籍筆頭者」の記載がある債務者の住民票を請求しても、役所は住民票への記載を断る(※一般債務者の場合)。
・ただし、債務者が死亡した場合
「本籍地」「戸籍筆頭者」の記載がある債務者の住民票の請求を認めてくれる。
→債務者の相続人調査が可能になる。
こうして、連帯保証人ITの戸籍を取得しますと、連帯保証人ITの戸籍には、「養子縁組届け出」や、「協議離婚届け出」、「協議離縁」といった文言の記載があります。
戸籍の内容をまとめると、① 平成2年、連帯保証人ITと、借主IEの母親が婚姻、② 同日、連帯保証人ITと借主IEが養子縁組、③ 平成12年、連帯保証人ITと、借主IEの母親が離婚、④ 同日、連帯保証人ITと借主IEが離縁、このような流れがわかりました。
ちなみに当社と借主IEとの間で、賃貸借契約を締結したとき、連帯保証人ITは借主IEの父親と名乗っていましたが、戸籍上は父親ではなかったようです。
さて、戸籍での調査の結果、連帯保証人ITには、法定相続人が2名いることがわかりました。法定相続人は、連帯保証人ITの妹2名で、ともに千葉県在住です。2名とも、千葉県内の山間部に居住しているらしく、私もなかなか訪問しづらい場所のため、ひとまず、次のような請求書を送ることにしました。
「連帯保証人ITが死亡しまして、あなたは法定相続人です。連帯保証人ITは借主IEの連帯保証人となっていました。借主IEは当社に対し滞納家賃があります。そのため、法定相続分に則って、当社に対し滞納家賃を支払ってください」という内容の請求書を作成し、これを、内容証明郵便と特定記録郵便で、法定相続人である妹2名へ郵送しました[図表]。