親の何気ない一言で「子どもの脳」は物理的に変形する

虐待をはじめとする「マルトリートメント(不適切な養育)」が、子どもの脳を物理的に変形させることがわかってきました。残念ながら、不適切な養育はどの家庭でも行われる可能性があります。子どもの一生を左右しかねないマルトリートメントの問題に迫ります。本記事は、小児神経科医の友田明美氏の著書『実は危ない! その育児が子どもの脳を変形させる』(PHP研究所)より一部を抜粋し、マルトリートメントを軌道修正する重要性を解説します。

こころや脳にダメージを負った子どもたち

私は現在、福井大学の「子どものこころの発達研究センター」で医師として働いています。このセンターは、養育環境によって「こころや脳」にダメージを負った子どもたちの治療と回復、そして育児に悩む親御さんたちの支援を目的としている医療機関で、年間約800組の親子が相談・治療のために訪れています。

 

私のもとにやってくる子どもの多くは、「マルトリートメント(maltreatment)」、日本語で言うと「不適切な養育」によって、こころと脳が傷ついてしまった子どもたちです。

 

不適切な養育の最も典型的なケースが、皆さんもよくご存じの「虐待」です。多くの先進国で虐待件数が減りつつある中、実は日本での虐待は増えており、2014年度の時点で8万8931件だった虐待件数は、2017年度には13万3778件にも増えました。

 

親からのひどい虐待で命を落としたり、大きくなってからもトラウマで苦しみ続けたりする子どもたちは後を絶ちません。

 

このような虐待が、具体的に子どもたちの脳にどのような影響を与えるのかを、私は16年にわたって研究し続けてきました。

 

結論から言うと、「マルトリートメント」=「不適切な養育」は子どもの脳を物理的に変形させます。そしてこの「マルトリートメント」は、残念ながら日常の子育ての中にいくつも存在しています。

多くの親は「わが家は虐待と無関係」と思っているが…

「わが家は虐待とは関係ない」と多くの親御さんが思っていることでしょう。けれども「マルトリートメント」は、虐待だけを指すのではありません。

 

□ ついイライラして子どもに八つ当たりし、きつい言葉を浴びせてしまう

□ 同じ行動を親の気分で叱ったり叱らなかったりする

□ 仕事や家事に追われて子どもが話しかけてきても聞いてやらない

□ 大人しくしてくれるからとスマホやタブレットを与えて子守りをする

□ 子どもを家に残して数時間外出する

□ 子どもの前で激しい夫婦ゲンカをする

□ 子どもは嫌がっていることを「あなたのため」と言って続けさせる

 

こうしたこともマルトリートメントにあたります。おそらく、この中のひとつぐらいは、皆さんにも覚えがあるのではないでしょうか。

 

子どもと向き合う日々は思うようにいかないことのほうが大半です。とはいえ、親の何気ないひと言や行動が子どもの脳を傷つけ、下手をすれば子どもの一生を左右してしまうかもしれないことも、これを機にぜひ知ってください。

 

親の何気ないひと言や行動が子どもの脳を傷つける
親の何気ないひと言や行動が子どもの脳を傷つける

脳の大きさ・働きが大人とほぼ同じになるのが10歳頃

「私たちが人間らしく生きていくために欠かせない器官はどこ?」

 

こう聞かれたら、どう答えますか? 心臓? 肺? たしかにどちらも欠ければ生きていけませんね。でも人間らしく生きていくということを考えたら答えはひとつ。脳しかありません。

 

脳は、あらゆる生命活動を担う身体の司令塔であると同時に、考えたり、理解して判断したり、感情を呼び起こしたり、記憶したり、人が人らしくあるために欠かせない大事な組織です。

 

子ども時代は、その大事な脳が成長・発達している時期です。生まれたばかりの赤ちゃんの脳は約300〜400グラム。大人の脳が1300〜1400グラムですから、大きさはわずか3分の1から4分の1ほどしかなく、とても小さくて未熟なのです。そこから、子どもの脳は目覚ましいスピードで成長と発達をしていきます。

 

小さかった脳が、大きさも働きも大人とほぼ同じになるのが10歳頃です。

 

この世に生まれてきて、わずか10年で大人と同じくらいの大きさにまで育つわけですから、いかに目覚ましい成長を遂げていくかがおわかりいただけるでしょう。そして、この間の子どもの脳の成長に欠かせないのが、大切な人との楽しくてうれしい関わりや、外からのさまざまなおもしろい刺激なのです。

 

[図表]乳幼児期に脳が育つ

脳はどのように成長していくのか?

ところで脳はどのように成長していくかご存じでしょうか?

 

脳の細胞は、神経細胞(ニューロン)と呼ばれます。細胞と聞くと、丸い形を思い浮かべるかもしれませんが、神経細胞は少し特殊な形をしています。「樹状突起(じゅじょうとっき)」というトゲのようなものや、「軸索(じくさく)」と呼ばれる尻尾のようなものがついているのです。

 

どうしてこのような形をしているかというと、脳の中の情報伝達はすべて電気信号でやり取りされているからです。「樹状突起」はほかの細胞からの電気信号の受け取り、「軸索」はほかの細胞への電気信号の送り出しに必要となる部分です。

 

神経細胞と神経細胞の間で情報を伝達するには、「シナプス」と呼ばれている情報伝達回路が必要になります。

 

シナプスは、細胞と細胞とをつないでいる部分。情報(電気信号)をやり取りするための道路のようなものと考えていただくとよいでしょう。

 

脳が育つとは、簡単に言うと、シナプスを増やして脳の中に情報を届けるためのネットワークを張り巡らせていくということです。

経験や体験によって「脳の育ち方」が変わってしまう

親からの言葉かけや肌と肌との触れ合い、自分の五感を使って感じたものなど、外界からの刺激を通して、子どもの脳はある時期までシナプスをどんどん、どんどん、爆発的に増やしていきます。

 

脳のあらゆるところで道路建設工事が始まって、脳全体に交通網が拡大していくと考えていただくとわかりやすいかもしれません。

 

ところが、いったんは劇的に増やしたものの、中にはあまり使わない道路も出てきます。使わなくても、それを維持するためにはエネルギーがかかります。

 

不要な道路まで抱えて維持しようとすれば脳には大変なエネルギー負荷がかかってしまいますから、脳は負荷をかけず、なおかつ情報を効率的に届けようとします。

 

そこで起きるのが、いらないシナプスの削除です。これを「刈り込み」と言って、新しい道路がつくられる一方で、いらない道路は刈り込まれるというダイナミックな働きが子どもの脳の中では行われているのです。

 

これは言い換えれば、何を経験するか、どんな体験をするかで、〝どのような脳が育つか〟も変わってしまうということです。

 

子ども時代の脳は柔軟で、その分とてもデリケートです。ですから、外からどのような刺激を受けるかでシナプスの形成も変わり、成長や発達の仕方が変わるということをまずは知っておいてください。

 

 

福井大学 子どものこころの発達研究センター 教授・副センター長
福井大学 医学部附属病院 子どものこころ診療部長兼任
小児神経科医
医学博士

 

 

福井大学 子どものこころの発達研究センター 教授・副センター長
福井大学 医学部附属病院 子どものこころ診療部長兼任
小児神経科医
医学博士

専門は小児発達学、小児精神神経学、社会融合脳科学。1987年熊本大学医学部医学研究科修了。2009~2011年、および2017年4月より日米科学技術協力事業「脳研究」分野グループ共同研究日本側代表者を務める。

主な著書に『新版いやされない傷―児童虐待と傷ついていく脳』(診断と治療社)、『子どもの脳を傷つける親たち』(NHK出版)、『マンガですっきりわかる脳を傷つけない子育て』(河出書房新社)などがある。

著者紹介

連載実は危ない! その育児が子どもの脳を変形させる

実は危ない! その育児が子どもの脳を変形させる

実は危ない! その育児が子どもの脳を変形させる

友田 明美

PHP研究所

親の何気ない行動やひと言が子どもの脳を傷つける!? 子どもの脳とこころの成長のために知っておきたいこととは? 場面例とイラストでわかりやすく紹介。 「怒りにまかせて長々と叱りつける」、「子どもが見ている前で激しい…

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