「言葉の暴力」はコミュニケーション能力に影響
マルトリートメントは、その内容によって大きく5つの種類に分かれます。
①身体的マルトリートメント
体罰をはじめ、直接的な子どもの身体への暴力が身体的マルトリートメントです。
叩(たた)く、殴る、蹴る、物で叩く、火傷(やけど)を負わせるといったもののほか、溺れさせる、髪をつかむなど、外傷として残らない暴力もあります。
過度な体罰は感情や思考のコントロールを司る「前頭前野(ぜんとうぜんや)」の一部を萎縮させます。
そのほかにも、集中力や意思決定、共感などと関係の深い前頭葉の「前帯状回(ぜんたいじょうかい)」の萎縮も引き起こします。
また脳の一番外側に広がる大脳皮質の「感覚野(かんかくや)」へ痛みを伝えるための神経回路が細くなり、痛みに対して鈍感になるように脳を変形させていることも明らかになっています。
②心理的マルトリートメント
「あんたはバカだ」「本当にグズな子だ」「何をやらせてもダメな子ね」「あなたなんか生むんじゃなかった」「橋の下に置いてくるよ」などの蔑み、差別や罵倒、脅し、存在否定の言葉を投げかけ続けるのが、心理的マルトリートメントです。
こうした言葉の暴力は、子どもに「自分はダメな人間だ」という強い自己否定の気持ちを植え付けてしまいます。
脳もダメージを受けます。長期間にわたって暴言にさらされた子どもの脳は、側頭部にある「聴覚野」の一部が肥大し、聞こえや会話、コミュニケーションがうまくできなくなることがわかっています。
③面前DV
子どもの前、あるいは子どもの耳に届く場所で家庭内暴力が行われることです。
両親間のDV(ドメスティック・バイオレンス)や、夫婦ゲンカを目撃することも面前DVに入ります。親同士の激しい罵り合いや暴力を見ていると、大脳後方の「視覚野」が萎縮し、他人の表情を読めず、対人関係がうまくいかなくなります。
「ネグレクト」は愛着障害や脳梁の委縮を引き起こす
④ネグレクト
必要な養育を子どもに与えないで放置することを言います。
食事をさせない、お風呂に入れない、服を着替えさせないなどのほか、わが子が泣いているのにゲームに夢中でほったらかしにする、スキンシップをしないといった、子どもの要求にきちんと応えてあげない行為もネグレクトになります。
ネグレクトは愛着障害につながり、喜びや快楽を生み出す「線条体」の働きを弱め、左右の脳をつなぐ「脳梁」を萎縮させます。
⑤性的マルトリートメント
身体に触るといった接触、性行為の強要のほか、性器を見せる、ポルノグラフィーを見せる、裸の写真を撮る、性行為を見せるといった行為も性的マルトリートメントに含まれます。性的マルトリートメントを受けると後頭葉の「視覚野」が萎縮します。
性的マルトリートメントの線引きは難しいところがあるのですが、性に関わる事柄で子どもが嫌がることはしないという一点を大切にしてください。線引きが難しいからこそ、子どものこころと身体の発達を尊重し、「嫌がるならやめる」を心がけましょう。
福井大学 子どものこころの発達研究センター 教授・副センター長
福井大学 医学部附属病院 子どものこころ診療部長兼任
小児神経科医
医学博士