あなたは、アマゾンという企業をどのくらいご存じだろうか? 日本でのサービス開始当初「世界最大のオンライン書店」と称されていたアマゾンは、わずか20年弱で「GAFA」と呼ばれる4大IT企業の一角にまで発展した。その驚くべきビジネス戦略や如何に。アマゾンジャパン元経営会議メンバーで現在は、kenhoshi & Companyの代表としてコンサルティングを手掛ける星健一氏の著書『amazonの絶対思考』(扶桑社)より一部を抜粋し、「内側から見たアマゾン」を解説する。

アマゾンの「顧客中心主義」を支える「コア」は何か

過去の連載では、アマゾンのビジネスモデル、アマゾンプライムプログラムや楽天市場と比較した場合の強みなどの分析を通してアマゾンの「絶対思考」はどのようなものなのかを解説してきた。ぜひ、詳しいことは拙書『amazonの絶対思考』(扶桑社)を読んでいただければありがたい。

 

今記事より連載して、顧客中心主義を徹底的に追求し、ビジネスモデルを作り上げ強みに変えていく人材を、どのように獲得し育成していくかを解説していく。かなり多くの点で読者の皆さんの参考になり、取り入れていただけるのではないかと思う。今回は、その人材採用と開発のベースにもなっている、アマゾンの行動規範でもあり企業文化の骨幹でもある「リーダーシップ・プリンシプル」に目を向けたい。

 

アマゾンには独特のカルチャーがある。旧態的な企業にありがちな「努力と根性」重視ではまったく通用しない。

 

データをとことん分析し、オポチュニティー(機会、好機)を探し出し、システムや仕組みのイノベーションによって自動化、効率化を進め、何ごとにもスケーラビリティ(拡張性があり大規模にしてもコストが規模に比例して増えないこと)を求められるのが、アマゾンの「普通の基準」。雇用する人材、そして既存の社員にもそうしたカルチャーへの理解と実践が求められるのだ。

 

◆「コア」となる規範「リーダーシップ・プリンシプル」

 

アマゾンで働く人たちは、世界中で「アマゾニアン」と自称している。私が入社した当時、アマゾンジャパンの社員数は数百人だったが、今では7000人規模※1になっている。さらに世界では約65万人の正社員※2がアマゾンで働いている。

 

※1…2018年5月22日 日本経済新聞―アマゾン、国内で1000人新規採用 オフィスも拡張 事業拡大に対応

※2…Statista―Number of Amazon.com employees from 2007 to 2018

 

日本はもちろん、世界中で急成長している拠点ばかりなので、新しく入ってくる人材に世界規模で事業を展開する企業としてのベクトルとカルチャーを共有する。そしてそれを維持するために「コア」となる規範が必要だ。

 

それが「Leadership Principles」(リーダーシップ・プリンシプル)である。アマゾン社内では「Our Leadership Principles」、略してOLPと呼ばれている。

 

プリンシプル(Principles)は直訳すると「原則」である。リーダーシップ(Leadership)は「指導者としての立場」や「統率力」を意味するが、特にマネージャー、管理職などに限定した規範ではなく、全社員に対してアマゾニアンは「全員がリーダーであるべし」と示す14項目だ。

 

リーダーシップ・プリンシプルの原型は、2001年にジェフ・ベゾスが提言した11項目の「リーダーシップ・バリュー」である。それから10年後の2011年、アマゾンが世界に拡大していく中で、世界共通のリーダーシップの「基準」として再考し定められたのが現在のリーダーシップ・プリンシプルである。

 

リーダーシップ・プリンシプルの意義について、次のように英文で示されている。

 

〝We use our Leadership Principles every day, whether we're discussing ideas for new projects or deciding on the best approach to solving a problem. It is just one of the things that makes Amazon peculiar. 〟

 

「新しいプロジェクトのアイデアを議論する場合も、問題解決のアプローチを決定する場合も、私たちは毎日リーダーシップ・プリンシプルを使う。それはアマゾンの独自性を支えているものの一つである」といった意味になる。

 

行動規範とはいえ、14項目にはシンプルなワードが並んでいる。アマゾンジャパンでは英語のまま理解するよう求め、社員に向けて翻訳はしていない。ただし、各項目に添えられた説明文部分は翻訳し、人材採用の情報サイトなどでも公開している。

 

まずは、原文のリーダーシップ・プリンシプルと、アマゾンジャパンが公式に示している説明文の日本語訳を列記しておこう。また、通常、それぞれに番号は付けないが読み進める上でわかりやすいので、本記事では番号を付けさせていただく。

 

アマゾンが勝ち続ける理由
アマゾンが勝ち続ける理由

14項目からなる「リーダーシップ・プリンシプル」

【 Our Leadership Principles 】※3

※3…amazon.co.jp ウェブサイトより抜粋

 

1 Customer Obsession

Leaders start with the customer and work backwards. They work vigorously to earnand keep customer trust. Although leaders pay attention to competitors, they obsessover customers. 

リーダーはカスタマーを起点に考え行動します。カスタマーから信頼を獲得し、維持していくために全力を尽くします。リーダーは競合に注意を払いますが、何よりもカスタマーを中心に考えることにこだわります。

 

2 Ownership

Leaders are owners. They think long term and don't sacrifice long-term value for short term results. They act on behalf of the entire company, beyond just their own team.They never say “that's not my job.” 

リーダーにはオーナーシップが必要です。リーダーは長期的な視野で考え、短期的な結果のために、長期的な価値を犠牲にしません。リーダーは自分のチームだけでなく、会社全体のために行動します。リーダーは「それは私の仕事ではありません」とは決して口にしません。

 

3 Invent and Simplify

Leaders expect and require innovation and invention from their teams and always findways to simplify. They are externally aware, look for new ideas from everywhere, and are not limited by “not invented here”. Because we do new things, we accept that we may be misunderstood for long periods of time.

リーダーはチームにイノベーション(革新)とインベンション(創造)を求め、常にシンプルな方法を模索します。リーダーは状況の変化に注意を払い、あらゆるところから新しいアイディアを探しだします。それは、自分たちが生み出したものだけには限りません。私たちは新しいアイディアを実行する上で、長期間にわたり外部に誤解されうることも受け入れます。

 

4 Are Right, A Lot

Leaders are right a lot. They have strong judgement and good instincts. They seek diverse perspectives and work to disconfirm their beliefs.

リーダーは多くの場合正しい判断を行います。強い判断力を持ち、経験に裏打ちされた直感を備えています。リーダーは多様な考え方を追求し、自らの考えを反証することもいといません。

 

5 Learn and Be Curious

Leaders are never done learning and always seek to improve themselves. They arecurious about new possibilities and act to explore them.

リーダーは常に学び、自分自身を向上させ続けます。新たな可能性に好奇心を持ち実際に追求します。

 

6 Hire and Develop The Best

Leaders raise the performance bar with every hire and promotion. They recognise people with exceptional talent and willingly move them throughout the organisation.Leaders develop leaders and are serious about their role in coaching others. We work on behalf of our people to invent mechanisms for development like Career Choice.

リーダーは全ての採用や昇進において、パフォーマンスの基準を引き上げます。優れた才能を持つ人材を見極め、組織全体のために進んで人材を活用します。リーダーはリーダーを育成し、コーチングに真剣に取り組みます。私たちは全てのメンバーのために新しい成長のメカニズムを創り出します。

 

7 Insist on the Highest Standards

Leaders have relentlessly high standards – many people may think these standards are unreasonably high. Leaders are continually raising the bar and driving their teams to deliver high quality products, services and processes. Leaders ensure that defects do not get sent down the line and that problems are fixed so they stay fixed.

リーダーは常に高い水準を追求します。この水準は高すぎると感じられるかもしれません。リーダーは継続的に求める水準を引き上げていき、チームがより品質の高い商品やサービス、プロセスを実現できるように推進します。リーダーは不良を下流に流さず、問題を確実に解決し、再び同じ問題が起きないように改善策を講じます。

 

8 Think Big

Thinking small is a self-fulfilling prophecy. Leaders create and communicate a bold direction that inspires results. They think differently and look around corners for ways to serve customers.

狭い視野で考えてしまうと、大きな結果を得ることはできません。リーダーは大胆な方針と方向性をつくり、示すことによって成果を導きます。リーダーはお客様に貢献するために従来と異なる新たな視点をもち、あらゆる可能性を模索します。

 

9 Bias for Action

Speed matters in business. Many decisions and actions are reversible and do not need extensive study. We value calculated risk taking.

ビジネスではスピードが重要です。多くの意思決定や行動はやり直すこともできるため、大がかりな分析や検討を必要としません。計算されたリスクをとることも大切です。

 

10 Frugality

Accomplish more with less. Constraints breed resourcefulness, self-sufficiency and invention. There are no extra points for growing headcount, budget size or fixedexpense.

私たちはより少ないリソースでより多くのことを実現します。倹約の精神は創意工夫、自立心、発明を育む源になります。スタッフの人数、予算、固定費は多ければよいというものではありません。

 

11 Earn Trust

Leaders listen attentively, speak candidly, and treat others respectfully. They are vocallyself-critical, even when doing so is awkward or embarrassing. Leaders do not believe their or their team's body odour smells of perfume. They benchmark themselves and their teams against the best.

リーダーは、注意深く耳を傾け、率直に話し、人に対して敬意をもって接します。たとえ気まずい思いをする事があったとしても間違いは素直に認め、自分やチームの間違いを正しいと言ったりしません。リーダーは常に自分たちを最高水準と比較、評価します。

 

12 Dive Deep

Leaders operate at all levels, stay connected to the details, audit frequently, and are skeptical when metrics and anecdote differ. No task is beneath them.

リーダーは常に各業務に気を配り詳細も認識します。頻繁(ひんぱん)に現状を確認し、メトリクス(定量化したデータの指標)と個別の事例が合致していない時には疑問を呈します。リーダーが関わるに値(あたい)しない業務はありません。

 

13 Have Backbone; Disagree and Commit

Leaders are obligated to respectfully challenge decisions when they disagree, even when doing so is uncomfortable or exhausting. Leaders have conviction and are tenacious.They do not compromise for the sake of social cohesion. Once a decision is determined,they commit wholly.

リーダーは、賛成できない場合には、敬意をもって異議を唱えなければなりません。たとえそうすることが面倒で労力を要することであっても例外ではありません。リーダーは、信念をもち、容易にあきらめません。安易に妥協して馴れ合うことはしません。しかし、いざ決定がなされたら、全面的にコミットして取り組みます。

 

14 Deliver Results

Leaders focus on the key inputs for their business and deliver them with the right quality and in a timely fashion. Despite setbacks, they rise to the occasion and nevercompromise.

リーダーは、ビジネス上の重要なインプットにフォーカスし、適正な品質で迅速にそれを実行します。たとえ困難なことがあっても、立ち向かい、決して妥協しません。

 

◆私が経験した14項目の具体的な示唆

 

説明文の日本語訳は私たちアマゾンジャパンの役員が担当した。私自身は翻訳作業には参加していないが、アメリカ英語を日本語に置き換えるのは難しい点も多く、なかなか苦労したと聞いている。

 

その際、14項目のタイトルも日本語訳するかどうか議論して、これはあえて英語のままとした経緯がある。たとえば「Ownership」を直訳すると「所有者」や「所有権」という意味となり、ニュアンスが大きく変わってしまう。

 

リーダーシップ・プリンシプルは世界共通の規範なので、米国本社での議論や他国のメンバーと電話やテレビ会議などの席でもしばしば登場する。あえて日本語訳せずに英語のまま覚えたのは正解だったと思っている。

 

次回は、「リーダーシップ・プリンシプル」のそれぞれの項目について、私自身の経験を交え、さらに深堀して解説していく。

 

 

星 健一

kenhoshi & Company 代表

 

amazonの絶対思考

amazonの絶対思考

星 健一

扶桑社

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