一般人が「適正な金融商品」を選ぶのはほぼ不可能?
一見簡単に始められそうな「つみたて投資」。テレビCMやインターネット広告で目にする機会も増えてきました。しかし、これだけ情報入手がたやすくなった令和の時代においても、実はそれほど単純にスタートできないということをご存知でしょうか?
金融機関関係者、特にリテール業務に携わっている方は、日常的につみたて投資を取り扱っていますから、特段複雑さを感じないかもしれません。しかし平成になるまで、金融商品の種類は限りなく少なく、預貯金、株式ぐらいでした。もちろん、投資信託もあるにはありましたが、預貯金代替の中期国債ファンドがメジャーで、そのほかの公社債投信や株式投信は、とても人気商品とはいえなかったのです。
そして令和の今、これほどまでに長期投資・資産形成への関心が高まっていても、一般の方のほとんどは「資産運用を行いたいけれど、何から始めていいかわからない」と感じているのが実情です。さらに言うなら、個別株式のトレードを行っている方でさえ、つみたて投資の効用や複利効果を知らない・理解していないことも少なくありません。
以下の[図表]をご覧ください。これは、つみたて投資を始める際に検討しなければならない条件を表にまとめたものです。ざっと9種類の条件が出てきます。
ご覧になっていかがでしょうか。これでは、一般の方々はもちろん、金融機関関係者であっても、的確な条件で適正な金融商品を選ぶことは、かなり難しいといえます。
「NISAやiDeCoをやりましょう」とのアナウンスは大変結構なのですが、実際のところ、読者のみなさんが長期つみたて投資に適した商品にたどり着くのは至難の業なのです。
金融機関の従業員ですら心もとない「適切な商品選択」
まず、上記図表の「①金融機関の選択」ですが、どこの金融機関を使うのがいいかといった情報は、意外と見当たらないものです。
つみたて投資に限らず、そもそも銀行と証券会社の商品ラインナップが異なります。商品数と種類は証券会社に分があるとはいえ、「証券会社」と一言で表しても、対面営業型とオンライン証券では、選べる商品数はまったく違います。オンラインの方が圧倒的に多いのです。
「②課税口座」から「⑤ジュニアNISA」は、「①金融機関の選択」が決まればすんなり選べそうですが、それでもすでにほかの金融機関にNISA口座を開設していたとしたら、意中の商品が販売されている金融機関に移管するのはかなり煩雑です。加えて、NISAからつみたてNISAに変更すると、以降はつみたてNISAでしか運用できませんから、それを正確に理解していただくのも大変です。
「⑥DC/iDeCo」も条件が複雑です。加入者による年金の種類によってiDeCoへの加入可否や払込金額が異なってくるうえに、運営管理機関によって運用商品ラインナップも異なりますから、顧客の知識がかなり高くないと、お目当ての金融商品にたどり着けない可能性が大です。金融機関に勤務している方でも、的確な条件で適正な金融商品を選ぶことはかなり困難でしょう。
「⑦投資対象選択」のつみたて対象商品は、預貯金、投資信託、株式等と何千種類もありますから、すべての商品の商品知識をカバーするのはほぼ不可能です。
「⑧投資金額・期間」はお客様の判断になるでしょうが、これまた悩ましい選択をしなければなりません。
「⑨ロボアド/ラップ(投資一任取引)」は、最近注目されている運用商品ですが、これは個人向けの少額投資一任取引でポートフォリオの種類が何種類かに分かれています。顧客には便利ですが、残念ながらNISA、iDeCoの対象ではありませんので、非課税メリットはありません。また、投資一任取引は毎年外枠で0.5%~1%程度の口座管理手数料を徴求します。
このようにざっと上げただけでも、つみたて投資を行うには36種類の条件があります。
つみたて投資といっても間口は広いため、検討をしているみなさまは、まず「長期つみたて投資でしっかりとしたリターンを上げられる金融商品は以外と少ない」と腹をくくった上で、自ら情報収集するか信頼できるアドバイザーに相談いたしましょう。
太田創
一般社団法人日本つみたて投資協会 代表理事