金融機関の規制機関というイメージの強い米国証券取引委員会が、意外にも個人に向けた資産運用のガイドブックを出しています。たった32ページではありますが、その内容は「さすが投資先進国」と唸るほど、示唆に富んだものなのです。今回は、ガイドブックの内容をもとに長期投資の基本を再確認します。本記事は、一般社団法人日本つみたて投資協会代表理事の太田創氏が、長期投資成功のポイントについて解説します。

“Saving and Investing”という32頁のガイドブック

筆者はさまざまなセミナーに登壇することが多いのですが、立場上、やはり最近はつみたて投資や長期的な資産形成の話をしてほしいという依頼がほとんどです。もちろん資産形成の方法はひとつではありませんが、最も基本的なことだからこそ依頼が多いのだろうと考えています。

 

講演の冒頭で、必ず出席者にお聞きすることがあります。それは、

 

「幼少時に莫大な遺産を相続した人はいらっしゃいますか?」

「このなかで1億円以上の宝くじに当たった方はいらっしゃいますか?」

 

という2つです。

 

見事に(というか、当たり前ですが)挙手される方はいらっしゃいません。すなわち、当初から多額の資金で資産形成することはできない方がほぼ100%なのです。

 

なにもこれは日本に限ったことではなく、ビリオネアがゴロゴロいる米国でも同じです。最近はスタートアップIPOによって一夜でビリオネアになる人もいるでしょうが、実際のところそんな事例は稀有です。資産形成として一般人が真似をするものではありません。

 

それを見事に表しているのが、米国SEC(証券取引委員会)の“Saving and Investing”(貯蓄と投資)という32ページのガイドブックです。SECといえば金融機関の規制機関というイメージが強いのですが、個人に向けてこうしたガイドブックを出しているのは、いかな有価証券投資でも大儲けはできないことを示唆していると言えるでしょう。ということで、その内容を見ていきましょう。

 

<成功する資産形成の3か条>

 (1)資金計画を建てる。

 (2)(高利の)借金を返す。

 (3)できるだけ早く、つみたて投資を始める。

 

当たり前といえば当たり前ですが、金融リテラシーが高いと評されている米国でさえSECがこういった基本的なことを伝えているということは、やはり資産形成には基本が大切だということを示唆しています。

さすが金融機関の監督官庁、投資の注意点を列挙

まず、(1)については、具体的に何のために資産形成するかを列記せよとしています。つまり、住宅、車、教育、老後資金、医療・介護、失業対策などです。目的がわからなければ対策も施しようがないといったところでしょう。

 

次に家計のバランスシートを作成することを勧めています(下記図表参照)。一見、面倒なのですが、スプレッドシートを使えばすぐにできる簡単なものです。

 

出典:米国SEC
 出典:米国SEC

 

加えて、現在の資産だけではなくキャッシュフローが重要ということで、定期的な収支計算表の作成も付記しています(複式簿記は当然ですね)。

 

やっとここまできたところで、SECはこのように聞いてきます。

 

【質問1】

1日1杯のコーヒーを節約すると、30年後にどれくらいの資産になるでしょう?

 

普段お役所からは、あまり聞いたことがない質問です。こうも続けます。

 

【回答1】

あなたが1日1杯1ドルのコーヒーを1年間節約したとすると、年間365ドルの節約ができます。その365ドルを年間5%で5年間複利運用したら、466ドルになります。それを30年間続けると1580ドルになります。

 

ここまで懇切丁寧に教えてくれる役所があるでしょうか? 日本の金融庁も頑張っていますが、制度や政策を作るのがやっとで、個人が健全に資産形成をする方法をアドバイスしてはくれません。

 

最後に注意点が列挙されています。さすがに金融機関の監督官庁だけに、やって良いことと悪いことが列挙されています。

 

(1)投資しようとする金融商品はSEC登録済みか。

(2)投資対象商品にトラブルや訴訟はなかったか。

(3)業者に問題はないか。

 

まったくもって当たり前のことを告知しているのですが、やはり投資先進国の米国は基本がしっかりしています。一般の方が長期少額投資でしか資産形成できないのは承知の上で啓蒙・警鐘を行っているのです。個人投資家の方にはぜひ一読いただきたい資料です。

 

 

太田創

一般社団法人日本つみたて投資協会 代表理事

 

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