煽り運転対策には、まず「ドラレコの設置」を
今、多くの人が脅威に感じ、社会で広く問題視されている犯罪トラブルの一つに「煽り運転」があります。
「煽り運転」は「道路を走行する自動車、自動二輪、自転車に対し、周囲の運転者が何らかの原因や目的で運転中に煽ることによって、道路における交通の危険を生じさせる行為」(ウィキペディアより)です。
煽り運転が社会問題化したきっかけとなったのは、2017年6月に起きた「東名高速夫婦死亡事故」でした。神奈川県の東名高速道路で、煽り運転を受けたワゴン車が追い越し車線上での停車を余儀なくされ、乗車していた夫婦が後続の大型トラックに追突され死亡したという事故です。煽り運転をした加害者は、危険運転致死傷罪の容疑で逮捕されました。
警察庁はこの事件を受けて、煽り運転の摘発強化を全国の警察に指示しました。しかし、その後も、煽り運転が原因となった事故・事件が繰り返し起こっています。近時も、茨城県守谷市の常磐自動車道で、男性会社員が煽り運転を受けた後に殴られ負傷した事件があったのは記憶に新しいところです。
煽り運転そのものを直接的に犯罪とする法律はなく、加害者は暴行罪、傷害罪、危険運転致死傷罪など、個々のケースで適用可能な罪で処罰されているのが現状です。
現在、煽り運転を直接的に処罰することを目的とした法律の制定が検討されているようですが、〝煽り運転罪〟を定めることには弊害もあるのを承知しておく必要があります。たとえば、運転手が運転を誤って過度に車間距離をつめてしまったようなケースで、「よくも煽ったな。〝煽り運転罪〟で訴えられたくなければ…」などと脅され、金銭を要求されるような事態が起こることも考えられます。
煽り運転の被害を避けるためには、自己防衛の手段を知っておくことが必要です。
具体的には、
●ドライブレコーダーを付ける
●煽られるキッカケを与えない
●何かあったら逃げる
●相手の挑発に乗らない
などの策が有効です。
また、もし煽られてしまった場合には、ドア・ロックは絶対に開けず、すぐに110番をすることです。もし、可能であれば煽ってきた人物や車のナンバー写真を撮っておくとなおよいでしょう。それから、事後には、必ず警察に報告することを忘れないでください。
警察も「反社の構成員」すべては把握しきれない
また、煽り運転と並んで、近時、社会的関心が高まっている刑事事件絡みの話題としては、「反社」すなわち「反社会的勢力」の問題も挙げられるでしょう。
平成19年に犯罪対策閣僚会議によってとりまとめられた「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」では、「反社会的勢力」を「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団または個人」と定義しています。
その典型例は暴力団であり、他には、暴力団関係企業(フロント企業)、総会屋、えせ右翼(政治活動標ぼうゴロ)、えせ同和行為者(社会運動標ぼうゴロ)や、いわゆる「半グレ」も「反社」に該当します。「半グレ」とは暴力団に所属せずに犯罪を繰り返す集団です。2010年に、有名歌舞伎役者が、半グレのメンバーから暴行を受けた事件で、その存在が一躍知られるようになりました。
最近、「反社」に対する世間の注目が集まっているのも、有名人が巻き込まれた事件、具体的には振り込め詐欺などの犯罪行為を行っていた半グレ集団の主催するパーティーで人気タレントたちが、有償で芸を披露していた事実が発覚したことがきっかけでした。事件の発覚後、「反社」とのつながりが疑われ大きな非難を受けたタレントたちはみな一様に「相手が反社とは知らなかった」と釈明しています。
そうした釈明の真偽はともかくとして、確かにお金を受け取っていないと嘘をついた彼らは責められて当然でしょう。しかし、逆に言えば彼らはそこしか責められる点がないのではないでしょうか。なぜなら、彼らはあくまで仕事として依頼を受け、それをこなしただけだからです。
テレビではコメンテーターが、「相手が反社とわかったら帰りなさい」などとアドバイスをしていたりしますが、実際に仕事先の相手が反社だとわかった時に、果たしてそのような行動をとれるでしょうか。
たとえばの話ですが、あなたがたまたま行った取引先に顔の怖い人がいたとします。そして、あなたはその人の顔を見て、もしかしたら「反社かもしれない」と嫌な気持ちになりました。
しかし、あなたはそれを理由に自分の会社に帰ってしまうでしょうか? そんなことはできますか?
しかも、実際問題として、パーティーの席などでたまたま出会った相手が「反社」の人間かどうかを見分けることは困難です。昔のような、サングラスをかけ派手なスーツを身にまとった〝ザ・ヤクザ〟な格好をした暴力団員はほとんどいなくなりました。
また、暴力団関係の企業の経営者、従業員の姿は、一般企業の社長やサラリーマンとまったく変わりありません。半グレにしても、腕などに入れた入れ墨をこれみよがしに誇示しているならともかく、そうでなければ見かけはどこにでもいる今どきの若者と同じです。
そもそも、警察でさえも「反社」の構成員に関して、つまりは「誰が反社のメンバーなのか」を把握しているのは、せいぜい暴力団員までです。現状では、フロント企業の関係者や半グレに関する情報は十分に押さえきれていません。
契約書には必ず「反社条項(暴排条項)」を入れる
このように「反社」の見分けがつかない、「誰が暴力団員なのか、半グレのメンバーなのかがわからない」ということは、誰もが「反社」と知らず知らずのうちに関わりをもつリスクがあるということです。たとえば、ゴルフ場でたまたま知り合って一緒にプレーをした相手が暴力団員だったり、取引相手が暴力団のフロント企業だったりする可能性があるわけです。
たとえ知らなかったとしても「反社」と深く関わってしまうと、社会的信用を失う恐れがあります。また、企業の場合にはコンプライアンス違反に問われ、公共取引からの排除や銀行取引停止などの重大なペナルティを受ける危険もあります。
そうしたリスクを軽減するためにも、「反社は身近に潜んでいる」という意識を強く持つことが求められる時代となったのかもしれません。事前にできる反社対策としては、反社条項(暴排条項)を必ず契約書に入れることです。
では、「反社」と接点を持たないようにするには、どのような行動をとったらよいのでしょうか? まず、相手が怪しいと思い始めたら、「会社名で検索して風評を調べてみる」「直接警察に聞いてみる」などの方法があります。
しかし、それでもわからずに関わってしまった場合は、警察に相談することをお勧めします。
一度支払ったら最後、相手に付け込まれてしまいます。速やかに警察に行くことが一番の解決策です。ただし、実際、自分の身に起こると恐怖から示談金を払ってしまうということもあるかもしれません。万が一、そのようなケースに陥ってしまった場合でも、要求がエスカレートする危険もあるので、必ず警察に相談するようにしましょう。
佐々木 保博
株式会社SPI 会長