IT犯罪の脅威が増大する中、検挙率が向上している
治安に対する日本人の不安が高まっている大きな要因の一つとしては、ITの発展により犯罪が多様化、複雑化していることも挙げられるでしょう。
知らない間にメールが流出し個人情報を盗まれていた、ツイッターや掲示板に虚偽の事実を書き込まれ風評被害を受けた…などなど、インターネットを悪用した〝サイバー犯罪〟の中身は多種多様であり、しかもその手口は年々巧妙化しています。
参考までに、警察庁が公表している「平成30年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」の中から最近の検挙事例をいくつか取り上げてみましょう。
(不正アクセス禁止法違反の例)
旅館従業員の男が、サイト管理者のID・パスワードを使用して鉄道会社のウェブサイトに不正アクセスし、同サイトのデータを削除して閲覧不能にした。
(不正指令電磁的記録に関する罪の例)
会社役員の男らが、サイト閲覧者のパソコンに不当な料金請求画面を繰り返し表示させる不正プログラムを供用し、真正なものと誤信させ現金を詐取した。
(コンピュータ・電磁的記録対象犯罪の例)
会社役員の男が、不正に入手した他人名義のクレジットカード情報を利用して、宿泊予約サイト運営会社に宿泊施設の予約を行い、カード決済をして宿泊料金の支払いを免れた。
(児童買春・児童ポルノ禁止法違反の例)
無職の男が、児童ポルノ画像ファイルを自らが運営するダークウェブサイト上に蔵置し、不特定多数のサイト会員に対して閲覧させた。
(詐欺等の例)
無職の女が、架空の人物の自動車運転免許証を真正なもののように装って、スマートフォンから預金口座開設とキャッシュカードの交付を申込み、金融機関からキャッシュカードを詐取した。
(著作権法違反の例)
会社員の女が、著作権者の許可を受けないで著作物である漫画をインターネット上で公衆送信し得るようにして、著作権を侵害した。
当社でも、こうしたサイバー犯罪の被害者から相談を受ける機会が近年、多くなっています。たとえば以前起こったある信用毀損罪が問題となった事件は、当社が警察に働きかけた結果、無事に犯人が逮捕されトラブルを解決することに成功しました(犯人には罰金30万円の命令が出されました)。
IT犯罪に対応するためには、複雑な犯行の手口を正しく理解できる専門的な知識を備えた人材が必要となります。しかし、一昔前は警察にはその方面の人員が不足していたため、どうしても捜査が後手後手に回ることが多く、事件のほとんどは未解決のままでした。しかし今はサイバー専門の部署もでき、前述した警察庁公表の事例のように、犯人が検挙されるのも増えてきたと言えるでしょう。
気軽な投稿からも、犯罪者予備軍は情報を集積している
サイバー犯罪の増加は、ITの発展がもたらした〝負の側〟と言えますが、情報通信技術が進化する中で、個人情報が漏えいするリスクも高まっています。先に触れたコンピュータ・電磁的記録対象犯罪の例のように、第三者によって故意に個人的なデータが盗まれる例もあれば、無意識のうちに個人情報を流出してしまっているケースも少なくありません。
具体的には、現在、ツイッターやインスタグラム、フェイスブックなどのSNSを使って個人が情報発信を行うのが一般化しています。そうしたSNSの利用を通じて、自らのあるいは他人の個人情報を知らず知らずのうちにさらけ出している例が非常に多いのです。しかし、これは大変に危険な行為と言えるかもしれません。
たとえば、若い女性が女友達とイタリアンレストランで会食したときの写真をインスタグラムにアップしたとします。すると、その店に行ったことがある人であれば、「ここは銀座の○○だ」などと場所を知ることができます。
しかも、リアルタイムで「今、前菜が来ました!」などと、自分や女友達の姿も入った写真をアップすれば、それを見て「おっ、なかなかかわいい子たちだな。最後のデザートまでには少なくとも1時間かかるだろう、よし今からこの店に行って、食べ終えて出てきたら、どちらかのあとをつけて家を突き止めてやろう」と思う者もいるかもしれません。
また、フェイスブックなどで自分の氏名、年齢、家族構成などを公開している人は大勢いますが、そうした行為は、獲物を探している犯罪者予備軍にわざわざ情報提供しているようなものです。カメラの画像がよくなり、瞳にうつる風景から住所を調べたという、今まででは考えられない事件が起きています。
ネットの闇の中には、「この家は子どもたちを有名私大の幼稚園に通わせているのか。どうやら金がたっぷりありそうだな。さて、どうやって奪ってやろう」などと、よからぬことを考える連中が大勢いることを肝に銘じておくべきです。
佐々木 保博
株式会社SPI 会長