東京を代表する観光地になった「浅草」
あと数日で2020年が始まるが、正月といえば初詣である。正月初詣の参拝客数は、明治神宮で300万人、成田新勝寺で310万人、川崎平間寺で305万人といわれているが、それに続くの浅草の浅草寺で、その数は約290万人にのぼる。
例年、大晦日の23時から、翌元旦の午前4時くらいまでは、2~3時間待って賽銭箱までたどり着くことになるが、午前4時~午前10時くらいまでは参拝客の数も落ち着くという。混雑を避けたいのであれば、この時間がベストだ。
そんな浅草では、昨今、外国人観光客の増加が顕著で、日本人よりも外国人のほうが目にとまるほど。隅田川を挟み東京スカイツリーにも近いことが、人気を得ている理由のひとつだという。
国内外から人気を集める浅草だが、投資対象としては、どうなのだろうか。人口動態や不動産取引の状況などから、その可能性について考えてみよう。
まず浅草のある台東区は、23区の東部に位置し、面積は特別区の中で一番狭い。東側は隅田川に、区の南端で隅田川との合流点付近の神田川に接する。江戸時代のころから、東京で最も古い市街地のひとつに数えられ、1947年に下谷区と浅草区が合併して誕生した。
浅草は、上野と並ぶ台東区を代表する繁華街で、東京を代表する下町である。古くから浅草寺の門前町として栄え、江戸時代には蔵前に米蔵がつくられたことで、商人や武士たちの多くが浅草周辺に集まった。
明治時代には、当時としては高層の12階建ての凌雲閣が建てられ、演芸場や劇場が集積する、東京の文化の中心地として発展してきた。しかし高度成長期に入り、新宿や渋谷などの副都心が台頭してくると、段々とその地位は低下。数多く点在していた映画館や劇場は閉鎖され、街の衰退に拍車をかけることになった。
しかし近年、浅草サンバカーニバルなどのイベントや、古き日本を体感できるスポットとしてメディアで特集されるようになると、次第に日本人観光客が増加し、東京を代表する観光地として地位を確立。さらに近年は外国人観光客の増加で、その人気は海外にまで知れ渡っている。
浅草にアクセスする鉄道は、東京メトロ銀座線、東武鉄道伊勢崎線、都営地下鉄浅草線、首都圏新都市鉄道つくばエクスプレスの4路線。ただし、つくばエクスプレスの「浅草」駅は、3路線の「浅草」駅と、約600m離れている。
駅の周辺には、雷門、仲見世通り、浅草寺、花やしきなど、観光スポットが点在し、観光客をターゲットにした飲食店や物販店が数多く集積する。一方で、スーパーなど、日常使いの買い物スポットは街の賑わいに対して少なめ。居住を考えるなら、ファミリーよりも単身者向きの街といえるかもしれない。
この先も安定した「単身者ニーズ」が見込める
不動産投資の観点で「浅草」を見ていく。まず直近の国勢調査(図表1)によると、浅草のある台東区の人口は約19万人。人口増加率は東京23区平均3.7%を大きく上回る12.6%と、東京の人口増加を牽引する区のひとつである。
そのような台東区にどのような人が住んでいるのか、人口構造と世帯の状況を見てみよう(図表2、図表3)。人口構造で目立つのが、15歳未満の少なさ。23区の平均を下回る9.0%である。また単身者世帯数は、23区平均を上回る56.3%。台東区は、ファミリー層よりも単身者層に好まれる地域のようである。
次に住宅事情を見てみよう。台東区の賃貸住宅における空室率(図表4)は6.8%と、23区平均8.1%を下回る。また賃貸住宅の建設年の分布(図表5)を見ると、台東区では2000年以降に建てられた賃貸物件が、23区平均を大きく上回る。旺盛な単身者ニーズに応えるため、近年、単身者物件が増加。また建替え需要も多かったのだろうと推測される。
駅周辺に絞って見ていこう。「浅草」駅周辺の一世帯当たりの人数(図表6)は1.8人と、台東区の平均と同等。「浅草」駅周辺も、単身者層に選ばれる地域であることがわかった。「浅草」駅周辺の1K・1DKの平均家賃は7.78万円。都心からの距離から考えるとリーズナブルであることも、単身者から好まれる理由だろう(平均家賃はいずれも、公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会調べ12月24日時点)。
続いて直近の中古マンションの取引から、駅周辺の不動産マーケットの状況を見てみる(図表7)。平均取引価格は3,065万円で、平均平米数は37.4㎡である。現在取引されている物件を種類別に見てみると、1K・1DKが5割弱、1LDKも含むと7割を超える。浅草エリアでは、単身者ニーズをいかにつかむか、空室期間をいかに短くするかが、不動産経営のカギとなりそうだ。
台東区の将来人口の推計を見ていこう(図表8)。2015年時点の人口を100とすると、2030年で111、2040年で115と、台東区では、今後も安定した人口増加が見込まれている。さらに黄色~橙で10%以上、緑~黄緑0~10%の人口増加率を表し、青系色で人口減少を表す将来人口推移のメッシュ分析(図表9)では、「浅草」駅周辺は暖色系が広がる。今後も、安定した賃貸ニーズが見込まれると推測される。
「洪水リスク」を無視はできない、浅草エリア
このように、旺盛な単身者ニーズが今後も見込まれる「浅草」エリアは、都内でも有力は投資対象といえるだろう。しかし、記憶に新しいのが、都内でも発生した台風による浸水被害である。浅草の横には隅田川が流れるため、不動産投資家としては、洪水リスクが気になるだろう。そこで、ハザードマップを確認してみよう。
台東区では、「荒川が氾濫した場合」と「神田川が氾濫した場合」の2種類の水害ハザードマップをつくっている。
荒川が氾濫した際、浅草エリアは0.5~3m未満の浸水区域とされているが、つくばエクスプレス「浅草」駅周辺や、寿1~2丁目あたりは、3~5mの浸水が予測されている。
また神田川が氾濫した場合については、平成12年に起こった東海豪雨相当の雨が降った際を想定しており、浅草エリアでは0.2~0.5m、0.5~1mの浸水域が点在している。
台東区のなかでも低地の浅草エリアは、洪水のリスクは十分に加味しておかなければならない。
もう一つ、浅草エリアで気になるのが地震ではないだろうか。関東大震災時には、凌雲閣が8階から折れて倒壊し、一帯は火災により焼失した。当時を物語る、写真や絵を見たことのある人も多いのではないだろうか。
地震による建物倒壊と火災の2指標から、地震の危険度を数値化し、都内の市街化区域の5,177町丁目を相対的に評価している「地震に関する地域危険度測定調査」によると、浅草エリアは、川によって運搬された砕屑物(礫、砂、泥)が積もった沖積低地で、地盤は弱い。
2指標を合わせた総合危険度では、「浅草2丁目」や「花川戸2丁目」を除き、危険度の低い「1」の評価。特に浅草寺雷門より南側のエリア、住所でいうと「駒形1~2丁目」「寿1~3丁目」「雷門1~2丁目」付近は、危険度は低いと評価されている。
将来的にも単身者ニーズが見込まれる浅草エリアだが、洪水を中心とした災害リスクをどれほど許容できるか、投資を行う前に確認しておく必要があるだろう。