雇用・消費の好調で、12月の政策金利は据え置きか
今回の雇用統計(11月)は、全般的に、米国の雇用市場が力強さを維持していることを示した形である。これは、前回10月の連邦公開市場委員会(FOMC)で示された米FRBの指摘に沿うものであるといえる。雇用市場の引き締まり感が、賃金の増加・維持に繋がり、これが個人消費を支えることで、景気の拡大が続くという構図である。
雇用統計に続いて同日発表された米ミシガン大学消費者マインド指数の12月速報値も、7ヵ月ぶりの水準に改善した。同指数は今年8月には、米中が相互に課した関税の影響から、約3年ぶり低水準にまで落ち込んでいたが、その後は4ヵ月連続で上昇し、改善してきたということになる。
ただ、消費者マインドの改善は高所得世帯に集中していることが特徴で、株式相場が高値圏で推移したことで、資産効果が働き、消費者の楽観的な見通しを支え、購入意欲を改善させたようである。米国の消費全般にとっては、毎年11-12月の時期は年間で最もボリュームが大きく、重要な時期である。11月の雇用市場も引き締まり感が確認でき、消費者のマインドが改善を続けている傾向が示されたことで、景気減速への懸念は和らぐとみられる。
こうした経済統計は、FRBにとっては追い風であろう。FRBは7月から10月までに開催された3回のFOMCで、連続して利下げを実施する決定を下したが、10月FOMCでは当面、金融政策を据え置くことを示唆した。米中通商協議が、長期化する懸念は根強く、不透明感が払拭されない中ではあるが、米国雇用市場の堅調ぶりとそれが支える消費の好調さを読み取っていたのである。12月10-11日のFOMCでは、FRBが政策金利を据え置く可能性が高まったと市場では受け止めている。
「妥協の必要性低下」の見方も?…米中通商協議の行方
ただ、政治は別物であることも確かであろう。米国の雇用市場が堅調で、経済が成長ペースを維持していることは、トランプ大統領の政策のプライオリティに変化を与えかねないという指摘も出てきている。米中通商協議が今年、幾度も滞り、米中両国は関税合戦を繰り広げたが、それにも関わらず米国雇用市場が安定感すら感じさせる推移をしていることは、トランプ大統領が中国との通商協議で変に妥協し丸く収める必要性を低下させるとの見方である。
11月は、政策の最重要ポイントを経済成長の維持に置き、米中通商交渉を部分的にしろ合意形成することを両国とも優先するという見方が台頭してきた。そしてそれが株式市場を始めとする金融市場でも、リスクオンな雰囲気の醸成に寄与したが、それに変化が起こることへの懸念である。 実際に、トランプ大統領は、雇用統計の発表を受けて、米国経済が健全に成長を続けていることに言及し、トランプ政権が展開してきた政策の成果を強調すると同時に、まだ中国との合意文書に調印する用意はできていないと述べた。
カドロー米国家経済会議(NEC)委員長も、米中通商協議に任意の期限は設けていないが、米中協議については「建設的に協議しており、ほぼ毎日話し合っている。われわれは合意に近い」とコメントした。一方で、対中追加関税の発動期日である12月15日に関しては、非常に重要だが、「これは完全にトランプ大統領次第」で、中国との「交渉に満足しなければ、関税引き上げをためらわないだろう」と述べた。
市場の一部には、12月15日の追加関税発動の可能性を懸念する声は根強い。ここ数日は、米中通商協議の成否を巡って、様々に情報が流れてくるであろう。本来なら閑散期になる年末相場とは、しばらく雰囲気が異なる動きがあるだろう。
長谷川 建一
Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO