通商協議、合意後の米中コメント「4つの食違い」の意味

米中両政府は12月13日、通商協議で「第1段階」の合意に至ったことを発表した。対中関税の一部引下げなどが取り決められたものの、中国側「すでに適用している関税を取り消すと約束した」米国側「(合意の成功は)中国の行動次第」など、双方の主張には食違いも見られる。Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bankの長谷川建一CIOが解説する。

米中が通商協議で「第1段階」の合意も両国には溝残る

米中両政府は12月13日、米中間の通商協議で「第1段階」の合意に至ったことを発表した。合意内容としては、米国側が対中関税の一部を引き下げ、中国側が今後2年間で米農産物、工業製品、エネルギー製品の購入を約2000億ドル拡大すると伝えられた。中国は米知的財産権の保護強化や、中国企業への技術移転の強要抑制、金融サービス市場の開放、為替操作の回避なども約束したとされている。

 

一方で、合意に至ったことが公表されてからの両国政府関係者からのコメントには、食違いが散見される。いくつかのポイントを挙げておきたい。

 

<文書への調印タイミング>

米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表は13日、米中両国が来年1月第1週に合意文書に調印するとの見通しを示した。一方の中国政府は、16日時点で調印のタイミングに関して、はっきりと言及していない。中国外務省の報道官は、両国は依然として法的な審査や翻訳の校正など必要な手続きを進めている段階であり、いつ、どこで、どのように調印するかはこれから決めるといった趣旨の発言をしている。中国政府当局者は慎重な姿勢を崩していない。合意文書の文言は、依然としてデリケートな問題のようであり、文言を巡って再び関係が緊張することのないよう、慎重に協議が進められている様子が伺われる。

 

<関税引下げ提案>

関税に関しては、米国側が12月15日に発動予定としていた1600億ドル相当の中国製品に対する関税措置を見送った上、1200億ドル相当の中国製品に対する関税を従来の15%から7.5%に引き下げた。一方で、2500億ドル相当の中国製品に実施されている25%の関税は維持されている。

 

中国の政府高官は、「米国は中国に発動するつもりだった関税の一部と、すでに適用している関税を取り消すと約束した」と、米国が中国製品への追加関税を段階的に廃止するコミットメントを得たとコメントした。その上で、さらなる関税の撤回も約束に含まれていることを示唆している。関税の撤廃は中国側の主張の核心部分でもあったため、踏込みが強いことは理解できる。一方で、ライトハイザーUSTR代表は、通商合意の成功は米国ではなく、中国側の行動次第であり、中国当局者の決定に左右されるとしている。この点でも微妙な食違いが透けて見える。

 

<米国製品の輸入拡大>

中国の輸入拡大に関して、ライトハイザーUSTR代表は、中国政府が今後2年で米国製品・サービスの2000億ドル相当を追加購入するとの約束が含まれていると述べた。しかし、中国政府は具体的な購入額や対象品目について言及していない。会見に応じた中国政府高官らは、「中国企業は、世界貿易機関(WTO)ルールと市場ルール、企業原則のもとで、米国などの諸国から品質が高くて競争力のある製品とサービスの輸入を拡大する」と、用意されたコメントを読み上げるなど、つれない素振りである。

 

<米農産品購入>

トランプ米大統領は、合意が伝えられた13日に、中国が2020年に500億ドルの農産品を買うことを約束したと述べた。しかし、中国政府高官は、高品質かつ市場競争力のある米農産品の調達を増やすのは「間違いない」としながらも、何を購入するかは今決めている最中だと、具体的な品目や金額については明言を避けた。韓俊・農業農村省次官は、この合意を米国が実行すれば「われわれが米国から輸入する農産品は格段に増える」と発言して、ボールは米国側にあるかのような素っ気ない対応だった。また、食料安全保障の観点から、中国は穀物自給を重視しており、それを犠牲にしてまで米国産農産物を購入することはないとした。

 

また、米国から輸入すると伝えられた農産物のうち、大豆などは、報道にあるような量を購入してしまうと、中国の国内需要をはるかに上回り、過剰になってしまうとも指摘されている。ちなみに2017年に中国が購入した米農産物は240億ドルで、今回約束された規模は、この倍近い量である。

米中通商協議、次なる焦点は「合意内容の履行」

中国側の関係筋は、あくまで段階的な合意であることを強調している。今回の合意だけで、米中間の通商問題がすべて解決するわけではなく、約束されたことの履行が重要な優先課題になると指摘している。

 

なかには、米中の経済や企業の構造がそもそも異なるため、両国がすりあうには、相当に時間が掛かるという指摘をする高官もいる。全般的に、中国当局者側は、今後も継続する通商交渉の行方に慎重な姿勢を示している。

 

今回の合意を受けて、米国株式市場はじわりと高値更新を続けている。大統領選を控えるなか、米国下院での弾劾法案が審議入りする直前のトランプ大統領にとって、支持率底上げのためには、喜ばしいニュースだろう。しかし、経済下支えの成果が欲しいという点では、中国も同じ立場である。

 

フィッチ社は、今回の合意を踏まえ、中国の2020年成長率見通しを6.0%近辺とし、従来の5.7%から上方修正した。もっとも、合意内容の履行と、次の段階の交渉が前に転がり続けることが必要になる。これは始まりにすぎず、米中両国間に横たわる問題は複雑かつ多面的で、時間を要するものだろう。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

京都大学卒、MBA(神戸大学)。
シティバンク日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、2000年にシティバンク日本のリテール部門で商品開発や市場営業部門のヘッドに就任。2002年にシティグループ・プライベートバンクのマーケティング部門ヘッドに就任。 2004年末、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に移り、マーケティング責任者として活躍。2009年からはアジア・リテール戦略を担い、2010年は香港にてBTMUウエルスマネージメント事業の立ち上げに従事。
2013年よりNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク/日本ウェルス)を創業し、COOに就任。2017年3月よりCIOを務める。

WEBサイト https://jp.www.nipponwealth.com/

長谷川建一氏登壇のセミナー https://gentosha-go.com/articles/-/13973

著者紹介

連載香港発!グローバル資産防衛のためのマーケットウォッチ

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
会員向けセミナーの一覧