キャンパス内に寮を有し、学業だけでなく、共同生活を通じて社会性の育成までをサポートするボーディングスクール。多様性を重要視する富裕層が、我が子を通わせたいと注目しています。本記事では、SAPIX YOZEMI GROUPの海外事業開発部長・髙宮信乃氏が、その実情について解説します。

スタンフォード大学への進学を勝ち取った生徒も

自然科学、社会科学、人文科学を幅広く学ぶリベラルアーツ教育を重視するアメリカのボーディングスクールは、柔軟性と多様性に富んだカリキュラムを提供しています。例えば、全米1、2位を争う名門校であるフィリップス・エクセター・アカデミー(Phillips Exeter Academy)では、生徒の潜在能力を開花させるために、17の学問領域からなる450種類以上のコースを用意しています。

 

具体的には、国語や数学、科学、歴史といった伝統的なコースから、コンピューター・グラフィックスやアルゴリズムなど先端的なコース、“Interdisciplinary”(複数の学問領域)とハークネス(Harkness®)メソッドを組み合わせた“Exeter Innovation”といった同校ならではのプログラムまで、その種類は多岐にわたります。

 

Phillips Exeter Academyのみならず、北米で350校以上あるボーディングスクールでは、多くの学校でユニークな特別プログラム(Signature Program)を提供しており、入学希望者が学校選択を行う上で重要な要素の1つになっています。

 

例えば、マサチューセッツ州にあるバークシャー・スクール(Berkshire School)には、Advanced Math/Science Research(AMSR)と呼ばれる上級数学/科学リサーチコースがあり、本コースは由緒ある全米科学大会“The Regeneron Science Talent Search”への出場者を多数輩出してきました。

 

同じくマサチューセッツ州のウィンチェンドン・スクール(The Winchendon School)では、インターンシップ、生徒主導の自主プロジェクト、教師主導の実践型クラスのなかから1つを選んで参加する体験型学習・ColLABs(Collaborative Laboratory)を年2回提供しています。

 

この自主プロジェクトを通じて、ギフトラッピング・カッター(ギフト用のラッピングペーパーを安全かつ簡単に切れる用具)を開発した生徒は、そのアイデアと自主性が認められ、見事Stanford Universityへの進学を勝ち取りました。

 

また、ペンシルベニア州のパーキオメン・スクール(Perkiomen School)には、医療分野への進学希望者対象のThe Medical Institute、ビジネスの起業に興味を持つ生徒対象のThe Entrepreneur Instituteという特徴的なプログラムがあります。生徒はそれぞれのコースで、実習を含めた実践的学習(Hands-on, Experiential Learning)に参加し、コース修了者は大学に送られる成績にその履修記録が明記されます。

 

Signature Programを通じて開発されたギフトラッピング・カッターは、人気テレビ番組でも紹介された(The Winchendon School)
Signature Programを通じて開発されたギフトラッピング・カッターは、人気テレビ番組でも紹介された(The Winchendon School)

「特別プログラム取得」は大学出願時に有利

こういった学校独自となる学業プログラムのメリットの1つは、何といっても大学出願に際して、プラスに働くことです。特にアメリカの大学の場合、成績やTOEFL iBT®、SAT®などのテストスコア以外にも、エッセイの提出や課外活動に関する記述が求められ、それらが合否に大きく影響します。

 

そのため、前述の活動を通じて自身の興味がある分野の知識を深め、教室内外でリーダーシップや批判的思考力を伸ばすことは、成績やテストスコアなど数値だけでは測りきれない生徒の個性と資質をアピールするのに有効です。したがって、ボーディングスクール出願前に気になる学校の提供科目やSignature Programsについて、しっかりとリサーチを行うことが大切です。

 

トップ大学への進学を目指す場合、早い段階から戦略的に科目選択を行うことも重要です。アメリカの場合、9年生(中3生)から12年生(高3生)の4年間が高校課程にあたりますが、アイビーリーグなどの名門大学進学を目指すには、主要科目を基本として特進(Honors)コース、または大学初級レベルの学問をカバーするAP(Advanced Placement)コースを10年生(高1生)で2~3科目、11年生(高2生)で3~5科目、12年生(高3生)で3~5科目を選択するのが理想的です。

 

これらのコースはいつでも自由に選択できるわけではなく、それぞれに履修要件(Prerequisite)が定められています。そのため早い段階でこの要件を確認した上で、計画的かつ戦略的に科目選択を行う必要があるのです。

 

ボーディングスクールが誇るこれらの学業プログラムは、優秀な教授陣と恵まれた施設によって支えられています。各科目の指導を行う教師の多くは修士号・博士号の取得者で、Honors(特進)コースを含めた上級科目にも精通するその道の専門家です。そして、研究者として「新たな知」を生み出すことよりも、10代の生徒達とキャンパスライフを共にしながら教えることを選んだ教員たちは、非常に教育熱心です。

 

授業が行われる場所についても、日本とは事情が異なります。日本の高校の場合、授業ごとに担当教師が教室にやってきて指導を行いますが、ボーディングスクールでは生徒が科目ごとに教室や建物を移動するのが一般的です。

 

例えば科学であれば、サイエンスセンター、コンピューター・サイエンスであればイノベーション・センター、アートであればアートセンターなど、科目に応じて最新の機器と設備を備えた専門の建物へ移動し、より深い領域の学問に取り組みます。

 

演劇の授業の一環として、大道具・小道具を製作する教室を完備(Phillips Exeter Academy)
演劇の授業の一環として、大道具・小道具を製作する教室を完備(Phillips Exeter Academy)

 

習熟度に合わせて、きめ細かい対応ができるのもボーディングスクールの特徴です。例えば数学が得意な生徒については、クラス分けテストの結果に応じて大学レベルの授業が受けられる一方、何らかの支援が必要な生徒に対しては、そのニーズに応じて特別なサポートが提供されることも珍しくありません。北米のボーディングスクールでは、生徒の可能性を最大化するために、柔軟で多様な教育が行われているのです。
 

 

SAPIX YOZEMI GROUP 海外事業開発部長

Triple Alpha 副会長

髙宮 信乃

 

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