米国ニューヨークに本拠を置き、世界各国の年金基金や機関投資家なども多数クライアントに抱える独立系資産運用会社、ニューバーガー・バーマン。同社でハイイールド債※1のポートフォリオ・マネージャーを務める、ジョゼフ P. リンチ氏にインタビューを行った。第3回目のテーマは「米国企業の財務健全性をどう見るか?」。聞き手は、香港の新しい金融機関であるニッポン・ウエルス・リミテッド(NWB/日本ウエルス)の長谷川建一氏である。
レバレッジ・ローン規定で保守的なM&Aが主流に
長谷川 次に、企業レベルの話を伺いたいと思います。自社株買いやM&Aが増えていますが、米国企業の財務健全性が悪化する懸念はありますか?
リンチ 確かに、昨年から自社株買いやM&Aが増加しています。過去の例を見ると、他に投資先がない、もしくは自社の事業に投資しても収益拡大が見込めないなどが背景にあり、これらの案件増加は市場での懸念材料となりがちです。しかしながら、私は財務健全性が悪化しているとは思いません。
実際に、企業経営陣との面談でも、2008年のリーマンショックをはじめとする過去の苦い経験から再発を防ぐため、各企業とも比較的保守的な運営をしていることがわかります。また、米国当局も、レバレッジに対する検査を強化しており、金融機関に向けて新たなレバレッジ・ローン(※1)規定を定めました。
その結果、企業の財務状態悪化を招くようなレバレッジ比率の高いLBO(買収先企業の資産または将来のキャッシュフローを担保に資金調達して行う企業買収)案件をあまりやらなくなりました。過去に見られたような積極的なLBO案件が減少していることから、市場は健全だとみています。
強化されたレバレッジ・ローン規定によって、今後も比較的保守的なM&Aが主流になるとみており、企業の財務健全性は比較的良い水準を保持していくと思います。
※1レバレッジ・ローン
信用格付けが投資適格未満の企業の債務。
ニューバーガー・バーマン
マネージング・ディレクター
2002年入社。ローン・ポートフォリオにフォーカスしたハイイールド債(非投資適格債)のポートフォリオ・マネージャー。ハイ・イールド債およびバンク・ローンにおけるクレジット委員会のメンバーを務める。2007 年に同社が買収したライトポイント・キャピタル・マネジメントLLC(Lightpoint Capital Management LLC)のメンバー。それ以前は、ABN AMRO でレバレッジド商品の組成を担当。イリノイ大学で学士号を取得、デュポール大学でMBAを取得。
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連載米系大手資産運用会社の「ハイイールド債」専門のポートフォリオ・マネージャーに聞く
Wells Global Asset Management Limited, CEO最高経営責任者
国際金融ストラテジスト <在香港>
京都大学法学部卒・神戸大学経営学修士(MBA)
シティバンク東京支店及びニューヨーク本店にて、資金証券部門の要職を歴任後、シティバンク日本のリテール部門やプライベートバンク部門で活躍。 2004年末に東京三菱銀行(現:MUFG 銀行)に移籍し、リテール部門のマーケティング責任者、2009年からはアジアでのウエルスマネージメント事業を率いて2010年には香港で同事業を立ち上げた。その後、独立して、2015年には香港金融管理局からRestricted Bank Licence(限定銀行ライセンス)を取得し、Nippon Wealth Limitedを創業、資産運用を専業とする銀行のトップとして経営を担った。
2021年5月には再び独立し、Wells Global Asset Management Limitedを設立。香港証券先物委員会から証券業務・運用業務のライセンスを取得して、アジアの発展を見据えた富裕層向けサービスを提供している。(香港SFC CE No. BIS009)
世界の投資機会や投資戦略、資産防衛にも精通。個人公式サイトなどを通じて、金融・投資啓蒙にも取り組んでいる。
● 個人公式サイト
「HASEKENHK.com」(https://hasekenhk.com/)
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