米国ニューヨークに本拠を置き、世界各国の年金基金や機関投資家なども多数クライアントに抱える独立系資産運用会社、ニューバーガー・バーマン。同社でハイイールド債のポートフォリオ・マネージャーを務める、ジョゼフ P. リンチ氏にインタビューを行った。第2回目のテーマは「ハイイールド債は買いか否か?」。聞き手は、香港の新しい金融機関であるニッポン・ウエルス・リミテッド(NWB/日本ウエルス)の長谷川建一氏である。

大幅に拡大している投資適格債券とのスプレッド

長谷川 投資適格債券とハイイールド債券のスプレッドについてはどうですか?

 

リンチ ハイイールド債券のスプレッド(※1)は約9%と大幅に拡大しています。前述の通り、ハイイールド債券はコモディティ関連セクターが20%を占めていますが、その影響を除いてもスプレッドは8%程度まで拡大しています。デフォルトなどの不安懸念を考慮したうえでも、バリュエーションの観点からハイイールド市場は非常に魅力的な水準にあると思います。

 

 

長谷川 現在、ハイイールド債券を保有している投資家は、今後の対応に頭を悩ましている人も多いと思います。今は売却のタイミングなのでしょうか?

 

リンチ 足元の市場を見るとハイイールド債券に限らず非投資適格債券において、買いのタイミングだとみています。コモディティ関連セクターでデフォルトが発生するリスクを市場は織り込んでおり、債券価格は低下しています。一方で、コモディティ関連以外のセクターの業績は堅調で、米国経済の見通しは相対的に明るく、バリュエーションの観点から投資妙味が高くなっています。

 

ですから、コモディティ関連セクター以外の債券に投資すると、下落リスクを抑えつつ、魅力的なイールドの獲得追求が可能といえるでしょう。各国の中央銀行が緩和的金融政策を実施するなかで、投資家は他にどこから金利収入が得られるのでしょう。足元のイールドとスプレッドをみると、デフォルト率が比較的高いハイイールド債券市場の投資リスクをとる価値があるほど魅力的な水準となっているといえるでしょう。

 

また、バンクローン(※2)市場も有望な投資先と考えています。他の債券と同じく売りが進みましたが、ハイイールド債券と比べてコモディティ関連セクターは約5%と低い割合となっています。ハイイールド債券と比較するとアップサイド(価格上昇)のリターンはそこまで期待できませんが、ディフェンシブな投資対象といえるでしょう。

 

総合的に見て、今、ハイイールド債券を売るのは得策でないと考えます。ここからさらに大きく価格が下がるとは考えにくく、むしろ市場は上向きになってくるとみています。今の市場は、グローバル経済、特に米国の景気悪化というシナリオで下げ相場となっていますが、米国の景気において私達は比較的明るい見通しをもっており、実際にその見方をサポートする経済数値などが発表されると、市場も上向きになってくると思います。

高まる債券市場のボラティリティをどう見るか?

長谷川 債券市場のボラティリティが高まっていますが、今後の見通しはどうでしょうか?

 

リンチ グローバル・マクロ経済に対する不透明感が高く、懸念材料が多い中、当面ボラティリティは高く、市場が安定するまでには時間がかかるでしょう。そして、現状の高いボラティリティが続く理由のひとつとして、市場の流動性が低くなってきている事が挙げられます。今まで市場でマーケットメイカーの役割を果たしてきた金融機関が、金融規制を受けてリスクが比較的高いハイイールド債券の保有率を下げており、日々の売買も少なくなっています。

 

 

その結果、ハイイールド債券の売買は主にブローカーが媒体となり、投資家のセンチメントに大きく左右される市場へと変化してきました。市場におけるボラティリティは必ずしも悪いとは言えませんが、この様な市場では売買タイミングの見極めが非常に難しいといえるでしょう。
 

※1スプレッド

2つの商品における金利差や価格差。ここでは金利差のこと。

※2バンクローン

銀行等の金融機関が企業向けに行う融資。一般的な債券と同様に流通市場で取引されており、 主に投資適格未満の信用力が低い企業に対して行われるローン。

本稿は、情報提供を目的として、インタビュー時点での経済データ等をもとに個人的な見解を述べたもので、ニューバーガー・バーマンおよびNWBとしての公式見解ではありません。また、特定の金融商品への投資の勧誘を目的とするものではありません。

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