米国ニューヨークに本拠を置き、世界各国の年金基金や機関投資家なども多数クライアントに抱える独立系資産運用会社、ニューバーガー・バーマン。同社でハイイールド債(※1)のポートフォリオ・マネージャーを務める、ジョゼフ P. リンチ氏にインタビューを行った。第1回目のテーマは「2016年の投資環境」。聞き手は、香港の新しい金融機関であるニッポン・ウエルス・リミテッド(NWB/日本ウエルス)の長谷川建一氏である。

市場は過度に悲観的なシナリオを織り込んでいる!?

長谷川 年初より株式市場が軟調に推移してますが、米国のクレジット市場(※2)への影響はどうですか?

 

リンチ 株式市場の下落を受け、年初来クレジット市場も弱含んで推移しています。リスクを回避する動きが見られ、株式の売りが進むと同時に、この1ヵ月でハイイールド債券市場は約-2%、バンクローン市場も-1%近く下落しました。

 

 

投資家の懸念はマクロ経済の動向です。まず、中国の景気減速、そして原油をはじめとするエネルギー価格の下落。特に、石油価格の下落に連鎖して、グローバル市場が低迷しています。石油価格の下落は、ハイイールド債券市場にも大きなインパクトを与えています。

 

ハイイールド債券は、原油・ガス・鉄鋼業などのコモディティ関連セクターが占める銘柄の割合が20%と高く、ハイイールド債券市場全体の下げの要因となりました。投資適格債券においてもコモディティ関連セクターの割合は高く、非投資適格債券へと格下げが進んだ結果として需給が悪化したことも、下落の要因となりました。

 

足元のクレジット市場は、3つのリスクシナリオを織り込んだ水準まで下落していると思います。米国の景気後退、新興国経済の停滞、そして原油価格が今年も低価格レンジで推移するというシナリオです。

 

このような投資環境で、売りが先行してリスク回避に走るのはよく起こりうる現象ですが、これらの3つのリスクシナリオにおいて、どれも今後これ以上悪化するとは考えにくく、市場は過度に悲観的なシナリオを織り込んでいる水準とみています。

 

米国においては、景気後退はこれ以上進まず、2%程度の成長率で推移するとみています。他の国についても、日銀や欧州中央銀行の緩和的金融政策が下支えとなり、これ以上景気が後退することはないと考えます。

 

原油価格の動きは先行きの見極めが難しいですが、需要は引き続き高く、生産調整が進むなかで、中長期的には上昇傾向に戻ると予想しています。

米国の追加利上げの見通しは?

長谷川 米国の景気には比較的強気なようですが、今後の金融政策の見通しについてお話いただけますか?

 

リンチ FRB(米国連邦準備理事会)は今年2回もしくは3回、利上げを実施する可能性があり、利上げ幅は0.25%程度になると思います。失業率の低下、雇用賃金の上昇など米国経済指標が堅調で、企業業績も明るい見通しが確認できれば、投資家のセンチメント(期待感)が回復し、市場も回復してくると思います。

<

 

 

足元では、市場のボラティリティ(価格変動率)が高まっており、3月の利上げ実施は見送るかもしれません。しかしながら、4月か5月あたりに、先に挙げた堅調な経済指標や企業決算情報などが発表されるに従って市場が安定し、追加利上げを実施する可能性があるとみています。

 

※1 ハイイールド債

一般的に信用格付けが低い債券を指す。非投資適格債ともいう。元本割れが発生するリスクが高い分、利回りは高く設定されている。

※2 クレジット市場

信用リスク(資金の借り手の信用度が変化するリスク)を内包する商品(クレジット商品)を取引する市場の総称。

本稿は、情報提供を目的として、インタビュー時点での経済データ等をもとに個人的な見解を述べたもので、ニューバーガー・バーマンおよびNWBとしての公式見解ではありません。また、特定の金融商品への投資の勧誘を目的とするものではありません。

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録