前回は、株式を安く買う方法について取り上げた。今回は、市場参加者の期待に変化を促す「カタリスト」と、投資家に必要な「投資哲学」について見ていきたい。

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長期間、低位推移する株に欠けているものとは?

価値よりも低い株価で買うことができれば、株価下落リスクの小さい投資にはなるかもしれないが、必ずしも利益をもたらすとは限らない。市場がその価値に気づかない限り、株価は長期にわたって安いまま放置されるリスクがある。筆者は実際に、誰が見ても割安である銘柄が、長期にわたり割安であり続けた例を多く見てきた。このような銘柄に欠けているのは、市場参加者の期待に変化を促す触媒(カタリスト)である。

 

最も分かりやすく、力強いカタリストは収益の成長である。後述するが、企業の価値の本質は、その収益力である。売上・利益が伸びるという期待を市場が抱けば、価値と価格の乖離は自然に修正されるのである。

 

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そのほかにも、増配や自社株買いといった株主還元の強化や、資産売却による含み益の実現、業務提携や他社による買収といったカタリストも存在する。これらのイベントは経営判断が行われるか否かに依存する部分が大きいため、実現する確率とタイミングを見極めることが必要となってくる。

リターンは不確実性を乗り越えた先にある

私たちの目の前で日々、大小さまざまな変化が起こっている。金融政策の変更、気候変動、大型企業買収、政権交代、革新的技術の開発、資源価格の高騰など、一見無関係なさまざまな変化が、何らかの影響を与えあいながら将来がかたちづくられる。このように考えると、将来の出来事を予想するというのは限りなく不可能に近いように思える。

 

投資は現時点で資金と資産を交換することで、将来にその資産から収益を得ようとする行為であり、必然的に将来の不確実性を伴う。将来を予想するのが不可能なのであれば、投資で運任せではなく、リターンを生むためにはどうすればよいのだろうか。

 

優れた投資家は、いわゆる投資哲学を持ち、それを守ることで、多くの不確実性を乗り越えてリターンを生み出している。投資哲学とは、自分にとって「分かること」とはどういうもので、「分かること」をどう探し出し、どのように投資をするのかを定義したものである。つまり優れた投資家は、自分が分からないことが結果を左右するような投資には手を出さないのである。

 

例えば、ベンジャミン・グレアムは、既に存在するバランスシート上の資産と確度が高い利益に基づいて損失を出さない投資を行った。成長株投資で有名なフィリップ・フィッシャーは、徹底した調査に基づき同業他社の平均を大幅に上回る売上と利益の伸びを維持できる特別な企業を探し、集中投資を行うことで短期的な変動を乗り越えて高いリターンを生み出した。ジョージ・ソロスは、再帰理論によって金融市場に一定のパターンを見出し、機会を捉え市場と戦うことで巨額の利益を獲得している。

 

このように、中身は違っても、優れた投資家は拠り所となる投資哲学を持っている。

 

筆者の会社の投資は、一言で言うとハイブリッド型である。長期間の財務データ分析により、バリュー投資家の視点で株価の底支えとなる企業の価値を見定める。加えて、経営者や取引先などへの取材を踏まえ、経営者、ビジネスモデル、市場の動向について、定性・定量両面から徹底的に分析することで、中長期的な業績動向および成長可能性を見極める。両者を組み合わせることにより、下落リスクを抑えながら大きなリターンを生む、リスク・リターンの優れた投資機会の発掘を目指しているのである。

 

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あわせて、ソロスの再帰理論も取り入れ、市場参加者の認識と価格の間に自己強化プロセスが生じ、バブルの生成・拡大が起こる余地も考慮している。これはバブルの発生を予想して大きく儲けようというよりは、バブル崩壊後のダメージを最小限に食い止めることができるという点で、有意義な視点だと考えている。

 

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本連載は、2015年1月22日刊行の書籍『株しかない』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

株しかない

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阿部 修平

幻冬舎

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